物損事故と人損事故の違いと人身に切り替える方法を解説
最終更新日:2024年10月1日/投稿日:2024年10月1日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
物損事故と人損事故の違いとは?
物損事故と人損事故の違いは、交通事故が原因で誰かが怪我をしたかどうかです。誰も怪我をしていなければ物損事故ですし、誰か一人でも怪我をしていれば人損事故です。
物損事故と人損事故の違いは、次の表のとおりです。
違いの内容 | 物損事故 | 人損事故 |
ケガ人の有無 | なし | あり |
刑事処分(罰金等) | 基本なし | 可能性あり |
行政処分(違反点数) | 基本なし | あり |
実況見分や取り調べ | 基本なし | あり |
慰謝料 | なし※ | あり |
人身事故扱いになると、加害者側の立場から見た場合、罰金などの刑事処分や違反点数の加算などの行政処分を受ける可能性があったり、実況見分の立ち会いや取り調べを受ける必要が出てきたりします。このように物損事故の場合とは受けるデメリットが全然違います。▶物損事故から人身に変更されたら加害者側はどうなる?警察から連絡は?
他方で、被害者側から見た物損と人損の違いは▶物損事故から人身事故に切り替えるデメリットを弁護士が解説の記事で解説しています。
本当の物損事故と単なる物損事故扱いの違い|慰謝料の請求
先ほど物損事故の場合は慰謝料を請求できないと説明しました。もっとも、実際には事故で怪我をして通院しているのに、単に警察で物損事故扱いになっているケースは、本当の物損事故ではありません。これは、本来は人身事故だけど、単に警察で物損扱いになっているに過ぎません。
このようなケースでは、物損事故扱いにしたままでも、相手保険会社に治療費や慰謝料を支払ってもらうことはできます。
ただし、示談時に人身事故証明書入手不能理由書を提出する必要があります。
違いの内容 | 本来の物損事故 | 怪我はしているが物損扱いのまま |
治療費の支払い | 治療していない | 相手の保険会社が支払う |
慰謝料など | 物損についての慰謝料はもらえない | 怪我についての慰謝料をもらえる |
加害者への刑事処分・行政処分など | 基本なし | 基本なし |
物損と人損の事故証明書の記載の違いとは?
物損扱いになっているか、人身事故扱いになっているかは、交通事故証明書の右下にある「照合記録簿の種別」欄を見ればわかります。
【引用:自動車安全運転センターのホームページより】
この「照合記録簿の種別」欄が、人身事故の場合は
のように「人身事故」と記載されています。
他方で物損扱いの場合は
のように「物件事故」と記載されています。
いったん物件事故扱いになっていたものを、途中で人身に切り替えた場合には、警察内部での変更手続が完了した後に改めて交通事故証明書を取得すると、「物件事故」から「人身事故」に変更された交通事故証明書を取得することができます。
物損事故を人身に切り替える方法
物損事故扱いになっている事故を人身に切り替えるためには、通常は、被害者側から積極的に警察に連絡して働きかける必要があります。
もっとも、事故により重傷を負った場合やひき逃げなど加害者が悪質な場合、警察の方から被害者本人や被害者の家族へ診断書を提出するように依頼してくることもあります。
これは、明らかに重傷の事故や加害者が悪質なケースでは、警察としてもきちんと人身事故として捜査をする必要があるからでしょう。
なお、被害者が、いくら体が痛いと警察官に言っても、それだけでは物損から人身に変更してもらえません。変更するには、怪我をした証明=診断書が必要です。そして、診断書は病院へ通院しなければ、書いてもらえません。
そのため、警察に切り替えてもらうよう連絡する前に、以下のような手順を踏む必要があります。
事故後直ぐに病院へ通院する
怪我をしたことは病院に通院しないと証明できません。また、事故から時間が経ってから通院しても、原因の怪我が事故であることを証明できなくなってしまいます。
そのため、事故で怪我をしたのであれば、できる限り早めに通院をしましょう。事故から最初の通院まで2週間程度空いてしまうと、人身事故として受け付けられない可能性もあります。
本来は物損事故から人身に切り替えができる法律上の期限はありません。ただし、実際には事故から時間が経ってしまうと、警察が人身切り替えに応じてくれないことは多いです。
また、そもそも事故から時間が経ってから通院を開始した場合は、事故による怪我の証明が困難になるため、人身事故であると認められない可能性もあります。
ですので、人身事故に切り替える場合は、遅くとも事故から2週間以内くらいには通院を開始し、診断書を取得して、早めに人身事故に切り替えたい旨警察に伝えた方が良いでしょう。
病院で診断書を発行してもらう
通院した病院で警察提出用の診断書を発行してもらいましょう。診断書は病院でないと発行できないので、整形外科と整骨院を併用している場合も、必ず整形外科の方で診断書を発行してもらいましょう。
警察用の診断書代は5,000円くらいです。相手の任意保険が治療費の対応をしている場合には、診断書代も保険会社が支払ってくれることが多いです。
警察に連絡し、診断書を持参し人身事故届けを行う
次に事故を管轄する警察署に電話して、人身切り替えをしたい旨伝えましょう。
警察から診断書などをもって、警察署に来るように言われるかと思います。
このとき、被害者自身で加害者と連絡を取って、同じ時間に警察に来てほしいといわれることもあります。
もし可能であれば、直接加害者に連絡を取って日時を調整するか、加害者の保険会社を通じて日時を調整しても良いです。直接連絡を取る前に保険会社へ聞いた方がスムーズです。
加害者へは直接連絡をしたくない場合や、加害者が警察署への同行に応じない場合、日程調整がつかない場合は、その経緯を警察で話して、加害者と同行することなく、人身に切り替えてもらうように頼みましょう。
本来は、被害者が加害者に直接連絡する義務はないので、警察から直接加害者側に連絡してもらい、呼び出してもらいましょう。ただし、警察官も人間なので、加害者側との示談交渉を有利に進めるために、人身切り替えをしようとしていると思われてしまった場合には、警察官が協力してくれないこともあるので注意しましょう。
実況見分や取り調べが行なわれる
人身事故として扱われる場合は、警察は実況見分調書というものを作成するのが通常です。
このため、実況見分調書を作成するために、改めて事故現場で実況見分が必要になることが多いです。
実況見分の際には、自らの記憶に基づいて、どのような事故であったかを警察官に誤解のないように伝えましょう。
なお、事故状況に争いがなく、軽症の場合などは、被害者は実況見分に立ち会わないこともあります。また、実況見分以外に、警察署で取り調べが必要になることも多いです。
事故から時間が経ってから、人身への切り替えを要望した場合には、警察では仮に受け付けてもらえても、後回しにされて実況見分を実際に行なうまで時間がかかる可能性もあります。