自賠責と任意保険の違い|二重取りはできる?
最終更新日:2024年10月7日/投稿日:2024年10月7日/執筆者弁護士豊田 友矢
交通事故の損害賠償においてよく耳にする保険に、自賠責保険と任意保険とがあると思います。
この記事では、自賠責保険と任意保険は、どのような違いがあり、どのような関係性にあるのか解説します。
自賠責保険と任意保険の違いの一覧
自賠責保険と任意保険の違いは以下の表の通りです。
違いの内容 | 自賠責保険 | 任意保険 |
加入義務 | 強制 | 任意 |
物損の補償 | なし | 通常あり |
人損の補償上限額 | 上限あり | 通常無制限 |
過失相殺 | 被害者に7割以上の過失がないとされない | 少しでも過失があれば相殺される |
自分の損害の補償 | なし | 契約次第 |
示談代行サービス | なし | 通常あり |
仮渡金制度 | あり | なし |
加入義務の違い:自賠責は強制加入、任意保険は任意
まず、法律上の加入義務の有無が違います。
自賠責保険は、すべての自動車に加入が義務付けられている強制保険です(自賠法5条)。自賠責保険の契約をしないで自動車を利用した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(同法86条の3第1号)。
他方で、任意保険は、法律上の加入義務はなく、自動車の所有者や使用者が任意に加入する保険のことをいいます。もっとも、後で説明しますが、人身事故を起こした場合、自賠責保険だけでは賠償金を支払いきれないことが多いため、事実上任意保険に加入すること不可欠です。
物損に関する違い:自賠責は対象外、任意保険は対物保険あり
次に、物損の補償があるかどうかが違います。
自賠責保険は、自賠責保険の補償の対象は、対人賠償事故(人損事故)です。車の修理費などの対物賠償事故(物損事故)による損害は、補償の対象外となります。
他方で、任意保険は、通常は物損事故による損害も補償される契約となっています。
補償上限額の違い:自賠責は限度額あり、任意保険は無制限
次に、補償額に上限があるかどうかが違います。自賠責保険の保険金額は、政令において、補償の上限額が定められています。具体的な上限額は、次のとおりです(自賠法13条、自賠法施行令2条)。
- 死亡による損害 3000万円
- 後遺障害による損害 等級により75万円から4000万円
- 傷害による損害 120万円
一方、任意保険では、対人賠償保険と対物賠償は、契約次第ですが、通常は無制限にすることが多いです。交通事故の損害賠償金は、非常に高額になることがありますので、制限を付けると、保険金でまかないきれなくなる恐れがあるからです。
自分の損害の補償の違い:自賠責は相手だけ、任意は自分の補償もあり
自賠責保険は、事故相手の人身損害について補償します。
他方で任意保険は、メインは対物保険や、対人保険などの事故相手の損害の補償ですが、人身傷害保険や車両保険などにも加入している場合には自分の怪我や物損についても補償されます。
自分の損害について補償する特約には以下のようなものがあります。
・人身傷害補償保険
契約した車に乗車中の被保険者が自動車事故で死傷した場合に、過失割合に関わらず保険金が支払われます。
・搭乗者損害保険
契約した車に同乗していの人が自動車事故で死傷した場合に、一定の金額の保険金が支払われます
・無保険車損害保険
無保険自動車との事故により被保険者が死亡したり、後遺障害を負ったりした場合に、保険金が支払われます。
・自損事故保険
単独事故(壁との衝突、崖から転落など)によって傷害を受けた場合の補償です。
・車両保険
事故によって損害を受けた自分の車の修理費に対する補償です。
過失相殺の違い:自賠責は被害者に有利、任意保険は原則どおり
自賠責保では、過失相殺に関して、任意保険よりも被害者側(怪我をした側)に有利になっています。
通常、交通事故の発生等について被害者にも落ち度がある場合には、その過失の割合に応じて過失相殺がされます(民法722条2項条)。
ところが、自賠責保険では、被害者保護のために、重大な過失がある場合(過失割合が7割以上)以外、過失相殺されない運用となっています。
また、7割以上の過失がある場合についても、最大で5割の減額しかされないことになっています。
具体的には、後遺障害及び死亡による損害については、7割以上8割未満の過失がある場合には、2割の減額、8割以上9割未満の場合には3割の減額、9割以上10割未満の場合には、5割の減額がされることとなっています。傷害による損害については、7割以上10割未満の過失がある場合に全てにおいて、2割の減額がなされます。
本来の被害者の過失割合 | 減額割合 | |
後遺障害または死亡分 | 傷害分 | |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | 2割減額 |
9割以上10割未満 | 5割減額 | 2割減額 |
10割 | 払われない | 払われない |
仮渡金制度の存在の違い:自賠責はあり、任意保険はなし
自賠責保険には、仮渡金制度があります。この制度は任意保険にはありません。
交通事故で怪我をした場合、当面の費用として治療費や生活費等が必要になりますが、怪我のために休業を余儀なくされるなどして、急な出費に対応することができない場合も十分にあり得ます。
ところが、相手方から損害賠償金が支払われるのは、原則として、示談が成立したときや裁判が終わったときとなり、治療中に支払われるものではありません。
そこで、被害者が、急な出費に対応できないような場合に、当面の費用に充てるために、仮渡金として政令で定める金額の支払を自賠責保険会社に請求することができる制度が用意されています(自賠法17条、自賠法施行令5条)。これを、「仮渡金制度」といいます。
仮渡金の支払金額の上限は、死亡の場合には290万円、傷害の場合には最高40万円です。
示談代行サービスの違い:自賠責はなし、任意保険はあり
自賠責保険とは異なり、任意保険には、示談代行サービスがついている場合がほとんどです。示談代行サービスとは、任意保険会社が、被保険者のために、示談交渉などを代わって行う制度をいいます。
ただし、任意保険会社に、相手方に保険金を支払う義務が生じない場合には、任意保険会社は示談交渉を行うことができません(弁護士法に違反することになります)。
そのため、自分に過失がないいわゆるもらい事故の場合には、示談代行サービスを受けることはできません。そのような場合には、弁護士に依頼すると弁護士が代わりに示談交渉を行ってくれます。
自賠責保険と任意保険の関係|二重取りはできる?
自賠責と任意保険は二重取りできる?
自賠責保険と任意保険の二重取りはできません。なぜかというと、任意保険は自賠責保険で足りない部分を補償する上積み保険(上乗せ保険ともいいます)だからです。
つまり、自賠責保険で足りない部分を任意保険で補償してもらうというわけです。これについては、▶自賠責と任意保険の両方から交通事故慰謝料をもらえるの?で詳しく解説しています。
事故にあったときどっちが優先される?どっちを使う?
あなたが事故の加害者になったときに、自賠責保険と任意保険のどっちを使うかを選ぶわけではありません。
通常は、被害者がまず加害者の加入する任意保険会社を窓口に治療費や慰謝料を請求します。その結果、最終的に、自賠責保険金額の枠内で解決した場合には、任意保険会社が自賠責に払った分を請求して終了となります。この場合、自賠責保険を使ったことになります。他方で、自賠責保険分を超えて任意保険会社が治療費や慰謝料を払った場合には、任意保険を使ったことになります。
このように、加害者が自賠責と任意保険のどっちを使うかを選ぶわけではないということです。
また、任意保険に請求されても、最終的には自賠責保険分が優先して使われることになります。これは、任意保険は自賠責保険の上積み保険だからです。
自賠責と任意保険は同じ保険会社に加入している?
自賠責保険の会社と任意保険の会社は同じことも別の会社のこともあります。同じだから良いとか悪いとかはありません。
ちなみに交通事故証明書に記載されるのは、自賠責保険会社の方です。
自賠責だけでなく任意保険にも加入した方が良い理由は?
交通事故による損害賠償金は場合によっては、かなりの高額になることがあります。死亡事故や重い後遺障害が残ったようなケースでは、数千万円になることもありますし、そうでなくても、個人が賠償しきれるような金額ではないことが少なくありません。
しかし、自賠責保険の支払いには限度額があり、自賠責保険だけで全ての損害を補てんすることはできないことがほとんどです。そのとき、任意保険に加入していなければ、個人で大きな金額の支払い義務を負うことになってしまします。そこで、自賠責保険で賄いきれない被害者の損害を補償するために登場するのが、任意保険なのです。