通勤中の事故は労災と任意保険のどっち?慰謝料がないのはデメリットか?
最終更新日:2024年10月31日/投稿日:2024年10月31日/執筆者弁護士豊田 友矢
交通事故で労災を使うデメリットはあるのでしょうか?慰謝料が出ないから使わない方がいいのでしょうか?
任意保険と労災のどっちに請求する方が得なのでしょうか?
事故相手が無保険の場合には、自賠責保険と労災のどっちを先に使うのがいいのでしょうか?
この記事では、交通事故被害者の労災保険の利用について解説します。
目次
労災保険からは交通事故の慰謝料は出ないが・・・
労災保険から交通事故の治療費※1や休業補償※2は支給されますが、慰謝料は1円も支給されません。
※1療養補償給付として支給
医療機関での診察・薬剤や治療材料の支給・処置料・手術料などの療養の給付を受けることができます。
※2休業補償給付として支給
療養のために労働することができないために、賃金を受けない日が4日以上になると、休業1日について給付基礎日額の60%相当額が支給されます。
また、休業特別支給金として、休業1日について給付基礎日額の20%相当額が支給されます。
このため、交通事故で労災保険を使うと慰謝料がもらえず不利なのでは?と疑問を持つ方もいます。
ところが、実際には、労災保険と任意保険・自賠責保険は併用できるため、治療費は労災保険に請求して、慰謝料などは任意保険に請求というやり方もできます。
そして、事故の被害者にも過失がある場合など特定のケースでは、任意保険だけを使うよりも、労災保険に請求したり、併用したりした方が得になることがあります。
交通事故で労災保険を使うデメリットはある?
交通事故で労災も使う方が得なことが多いとしても、何かデメリットがあるのでは・・・と考える方もいるかもしれません。
結論からいうと、被害者にとって、交通事故で労災保険を使う法的なデメリットはありません。
ただし、事実上のデメリットとして、労災の利用を勤務先に嫌がられる、労災の申請に勤務先がなかなか協力してくれず申請手続が進まないなどのケースがあります。
そのため、労災保険を使うメリットが「全くない」ケースでは、わざわざ労災保険を使う必要はないといえるでしょう。
※労災保険を使うメリットが全くないケース
①被害者に全く過失がない+②休業していない+③事故相手が任意保険に加入+④後遺症が残らなかったの①~④全部を満たす場合
また、労災保険を使うこと自体にはデメリットはなくとも、使う順番には気をつけた方が良いこともあります(労災と任意保険のどっちをさきに使うのかなど)。
労災と任意保険のどっちを使う?併用する?ケース別に解説
過失割合10対0以外の事故の場合
労災保険を使えば、治療費や休業損害など、被害者自身の過失分も補償してもらえます。
例えば、過失割合7対3の事故で、被害者にも3割の過失があるときに、事故の相手の任意保険に請求すると、治療費や休業損害の7割しか補償してもらえません。他方で、労災保険が利用できれば治療費も休業補償も自分の過失分も含めてもらうことができます。
そのため、治療費が高額なケースや、自分の過失が大きいケースでは、特に治療費について任意保険よりも労災保険を利用した方が良いでしょう。
その上で、治療費以外の慰謝料などについては、後から任意保険に請求することができます。つまり、労災と任意保険を併用することになります。
事故の怪我で4日以上休業した場合
労災保険による休業補償給付は、4日以上休業した場合にのみ支給されます。また、任意保険への請求とは違い、有給休暇を利用した場合には支給されません。あくまで欠勤扱いになった場合(給料が減額・不支給になった場合)にのみ支給されます。
金額的には、労災の休業保障は、給料(正確には給付基礎日額)の60%が支給され、さらに特別支給金として給料の20%が支給されます。合計で給料の80%が支給されることになります。
こう説明すると、過失10対0の事故であれば、任意保険を使えば、給料の100%を払ってもらえるので、そっちの方が得だと思う方もいるかもしれません。
ところが、実際には、労災から出る休業補償のうち、特別支給金という給料の20%の部分は、任意保険から出る分とは別に二重で受け取ることができるので、労災にも請求した方が得なのです。
10対0の事故では、任意保険から休業損害として給料の100%をもらった上で、労災から特別支給金として給料の20%ももらうことができます。合わせると給料の120%をもらうことができるのです。
そうすると、事故の怪我で4日以上休業した場合は、被害者に過失がなくても、任意保険と労災保険を併用した方が得になります。
特に、休業日数が多いほど得になるので、1、2日くらいではわざわざ労災を使わなくてもよいとは思いますが、数十日休業した場合などは、金額が全然変わってくるので、労災を併用した方が良いでしょう。
後遺症が残った場合
後遺障害問い級が認定された場合、労災保険に障害給付の特別支給金を請求することによって、もらえるお金が増えます。
後遺障害の特別支給金には2種類あり、1つ目は障害特別支給金、2つ目は特別給与(ボーナス等)を算定の基礎とする特別支給金です。
例えば、14級が認定された場合、障害特別支給金として8万円、特別給与を算定の基礎とする特別支給金として、事故前1年でもらったボーナスを365で割った1日あたりのボーナスの額の56日分がもらえます。
そして、これら2つの特別支給金は、任意保険からもらえる分とは別にもらえるので、後遺障害が認定された場合には、任意保険と労災保険を併用した方がもらえるお金が増えることになります。
認定されるか微妙な後遺障害がある場合
労災保険における後遺障害審査と、任意保険(正確に言えば自賠責ですが、任意保険経由で事前認定することを想定しています。)における後遺障害審査は別々に行なわれますし、判断する人も別の人です。
基準自体はほぼ同じなのですが、人間が判断するので、労災と任意保険で後遺障害の審査結果が異なることは珍しくありません。
そして、多くの場合、労災の方が後遺障害が認定されやすいです。例えば、骨折後の痛みなどで、自賠責では非該当であっても、労災で14級または12級されることがあります。また、高次脳機能障害などで労災の方が自賠責よりも上位の等級が認定されることもあります。
もっとも、任意保険会社は、いくら労災で後遺障害が認められても、自賠責の方で認められない限りは、後遺障害に関する損害は払ってくれないことがほとんどです。
自賠責で非該当だったとしても、労災で後遺障害が認定されれば、労災保険から障害補償給付が払われます。そのため、自賠責で後遺障害が認定されず任意保険から後遺障害に対する補償がもらえないケースでも、労災を利用したことにより後遺障害の補償がもらえることもあるのです。
治療費が打ち切られるおそれがある場合
労災保険でも任意保険でも、通院していればいつまでも治療費を払ってもらえるワケではありません。もらい事故など被害者に過失がない事故だとしてもです。
あくまで事故による怪我の治療に必要な期間しか治療費は払われません。
もっとも、任意保険よりも労災保険の方が、労働者保護のために治療の必要性について緩やかに判断されることが多いです。
そのため、簡単に言えば、労災保険を使って治療をしている場合の方が、治療費を打ち切られるリスクが減ることになります。
労災と自賠責保険のどっちを使う?相手が無保険の場合
業務中や通勤中での事故であっても、自動車の交通事故の場合には、自賠責保険給付の対象となります。その場合には、労災保険と自賠責保険による保険金支払いのどちらか一方を先に受けることになります。どちらを先に受けるかについては、被害者が自由に選ぶことができます。
もっとも、事故相手が任意保険に加入していない場合には、先に労災保険を使い、慰謝料など労災で補償されない分を後から自賠責に請求した方が良いことがほとんどです。
その理由は、次のとおりです。
自賠責の限度額120万円を温存できる
自賠責保険には治療費や慰謝料などの傷害分保険金について120万円の限度額があります。他方、労災保険においては、支払われる治療費や休業補償の上限がありません。
また、相手方が任意保険に加入していない場合には、自賠責保険の上限である120万円を超えた部分を任意保険会社に請求することができず、相手方から支払ってもらえない可能性があります。
そのため、事故相手が無保険の場合には、まず労災保険を治療費の支払いなどのために先に利用することによって、治療終了後に請求する慰謝料のために自賠責保険の限度額である120万円を温存しておいた方が良いでしょう。
労災は過失相殺されない
被害者の過失割合が70%未満の場合、自賠責保険でも過失相殺はなされませんが、70%以上になると、労災保険とは違い、一定の割合で過失相殺がなされてしまいます。
そのため、自分の過失割合が70%以上の場合には、過失相殺されない労災保険を優先して利用した方が得になることがあります。
業務中・通勤中に交通事故にあったら弁護士にご相談ください
このように、労災保険の対象にもなるような交通事故の場合、労災保険を利用したできるケースなのか、労災保険を利用すべきケースなのかなどについて、複雑な判断が必要となることがあります。
専門家である弁護士であれば、治療の開始当初から、適切なアドバイスをすることができますので、ぜひお早めにご相談ください。