交通事故紛争処理センターを利用するデメリット【弁護士解説】
最終更新日:2024年11月2日/投稿日:2022年6月4日/執筆者弁護士豊田 友矢
交通事故の示談交渉を弁護士に依頼したが、保険会社が不当に低い金額の提示しかしてこないこともあります。
そんなときは、弁護士からこれ以上の示談交渉は無駄なので、交通事故紛争処理センターを利用することを勧められることがあります。
また、弁護士には依頼せずに自分で示談交渉していたが、納得のいく提示がないので、紛争処理センターの利用を考えている方もいるかと思います。
この記事では、紛争処理センターの利用にはデメリットがあるのか、それはどのようなデメリットなのか、メリットとの比較について解説します。
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紛争処理センター利用のデメリット
慰謝料以外の認定は控えめな認定になる傾向がある
慰謝料以外の損害項目については、裁判の結果認定される金額よりも、比較的控えめな金額が認定される傾向があります。
例えば、逸失利益の認定については、等級表以上の増額が困難なことはもちろんですが、軽度後遺障害(むちうちの14級など)や明らかに等級表の喪失率以上に労働能力を喪失しているケース以外では、喪失率や喪失期間について、裁判例の相場を下回るケースも多いです。
証拠が必要なのは裁判と変わらない
紛争処理センターは裁判ではありませんが、自分の主張を認めてもらうのに証拠が必要なのは、裁判と変わりません。
私の経験上、裁判よりも立証の負担が特別軽くなることはないように思います。ただし、事故当事者の尋問は行なわれないので、その点の負担は大分軽くなります。
例外的な判断を求めても認められないことが多い
いわゆる相場を超えた判断を求めても認められないことがほとんどです。
例えば、むちうちの後遺障害14級で、仕事の内容の特殊性などから、相場よりも高額な逸失利益を求めても認められないことがほとんどです。
また、自賠責の後遺障害等級自体を争っても、認められることはまずありません。
他にも、過失割合について、別冊判例タイムズという本の過失割合が適用されない特殊なケースであると主張しても、認められないことが多いです。
遅延損害金や弁護士費用はもらえない
裁判になった場合には、請求項目として遅延損害金と弁護士費用(ただし認められた損害額の1割のみ)が追加されます。多くの裁判所(ただし簡裁は除く)では、和解するときも、これらの項目の一部(概ね半分)が調整金として考慮されることが多いです。
しかしながら、紛争処理センターの利用では、弁護士費用と遅延損害金は一切もらえませんし、その分を考慮もしてくれません。
遠方にしかない場合がある
紛争処理センターは、東京(新宿)、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、さいたま(大宮)、金沢、静岡にしかありません。
裁判所が全国各地にあるのに対して、紛争処理センターは都市部にしかないため、被害者の住所地によっては、裁判所に行くよりも遠方になってしまうことがあります。
大きな争いがある場合には解決できないことがある
例えば、既に示談交渉段階で、後遺障害等級自体に医学上の争いがある場合などは、紛争処理センターでの早期解決には適さず、訴訟移行となる可能性があります。
紛争処理センター利用のメリット
3~4ヶ月の期間で早期解決できる
紛争処理センターは、2回~5回程度の期日で終了します。そのため、紛争処理センターの利用を申し立てしてから、おおよそ3ヶ月から4ヶ月で解決することがほとんどです。
【参照:公益財産法人交通事故紛争処理センターHP:データバンク(取扱事案分類統計等)】
これは、裁判が訴訟提起から解決まで平均して1年前後かかるのとは対照的です。なお、裁判の場合は、重大な争点がある場合、訴訟提起から解決まで2~3年かかることもあり得ます。
慰謝料を裁判基準満額にできる
慰謝料は、基本的に裁判基準満額になります。ただし、裁判基準の金額自体に争いがある場合(例えば、別表ⅠとⅡのどちらを使うか微妙なケースや、実通院日数が少ないケース)には、控えめな金額になることもあります。
争点が増えないことが多い
私が考える紛争処理センターの一番のメリットは、保険会社が争点にしていない点が争点にならない点です。
例えば、保険会社が後遺障害等級を争っていない場合、治療期間を争っていない場合は、それ自体が紛争処理センターでのあっ旋中に争点になることはありません。
裁判になった場合には、加害者が依頼した弁護士により、保険会社がもともと争っていなかったところも争ってくることは珍しくありません。
明らかに不当な主張を排斥できる
示談交渉時に、保険会社が、何の根拠もなく、弁護士からすれば誰が見ても明らかに不当な主張をするときがあります。
私が、これまで見てきた中では、次のようなものがありました。
例えば、後遺障害14級9号が認定されているにもかかわらず何の根拠も示すことなく逸失利益がゼロであると主張してきたケースです。
他にも、典型的な右直事故で過失割合が7:3であることは明らかであるにもかかわらず、何の根拠も示すことなく過失割合5:5を主張してきたケースです。
保険会社側には契約者の意向やその他の諸事情があるのでしょうが、この場合、示談交渉でいくら保険会社の主張に根拠がないことを指摘しても話が進みません。
このように保険会社の主張に何の根拠もない場合には、紛争処理センターを利用すれば、保険会社の明らかな主張は排斥できます。
被害者側に有利な意味で控えめな認定がされることもある
先ほどは、デメリットの一つとして、慰謝料以外が控えめな認定になることを説明しました。
ところが、例えば保険会社が、外貌醜状の合意生涯で、逸失利益をゼロと主張しているケースで、裁判でもゼロとなってしまう可能性がそれなりにある場合などでは、逆に0という厳しい認定ではなく、等級表通りではないにしても控えめに一部逸失利益が認められることがあります。
保険会社側に弁護士がつかない
裁判をすると加害者には弁護士が付きますが、紛争処理センターを利用しても保険会社が弁護士を付けることはまずありません。
そのため、紛争処理センターの手続き中の書面も基本的に保険会社担当者が作成するため、法的にはそれほど効果のない主張がなされないことも多いです。
また、保険会社の担当者が気づいていない争点が、問題にならないまま解決できることもあります。
審査会の裁定結果を保険会社側は拒否できない
紛争処理センターの和解あっ旋手続きで合意ができない場合は、審査会による審査というものが行われます。
この審査の結果、具体的な金額が示された裁定というものが出されますが、この裁定結果については、保険会社側は原則として拘束されることになっています。
そのため、被害者側は、裁定結果に応じるか、裁判にするかを選べるのに対して、保険会社側は仮にその結果に納得できなくても応じるしかないことになります。
デメリットよりもメリットが大きいケース
争点が慰謝料の金額だけ
保険会社との示談交渉における争点が慰謝料の金額だけであり、単に慰謝料を裁判基準にすれば解決できるのであれば、紛争処理センターの利用が適しているといえます。
もっとも、保険会社側が紛争処理センターの手続き中に、別途争点を持ち出してくることもあるため、真の意味で争点が慰謝料だけなのかはしっかりと検討する必要があります。
どうしても早期解決したい
先ほど説明したように、裁判をするよりも紛争処理センターを利用する方がかなり早期に解決することができます。
そのため、示談交渉時の保険会社の提示には納得できないが、とにかく早く解決したいという場合には、紛争処理センターの利用が適しているといえます。
裁判になると不利な争点がある
示談交渉時に保険会社側からは争われていなくても、裁判になって加害者に弁護士が付いた場合には争点になる可能性が高く、しかも、こちらに不利になる可能性があることもあります。
そういう場合には、裁判で不利な結果が生じるのを避けるために、紛争処理センターを利用して解決するのが適しているケースもあります。
ただし、この判断はかなり専門的な知識が必要になります。
弁護士に依頼すると赤字になる
これまでは、弁護士に依頼して紛争処理センターを利用することを前提に説明してきました。
ところが、かなり軽傷の場合などケースによっては、弁護士に依頼すると
弁護士費用で赤字になってしまう場合もあります。
裁判は、弁護士に依頼しないと、被害者自身で行うのはかなり難しいですが、紛争処理センターは弁護士を付けないでも利用することができます。
もちろん、弁護士を依頼した方が被害者に有利な法的な主張ができますが、どうしても赤字になってしまうケースでは、自分で直接保険会社と交渉するよりは、示談金が増額できるケースもあります。
まとめ
これまで紛争処理センターを利用するデメリットとメリットを見てきましたが、最終的にはこれらを比較して判断することになります。
ところが、紛争処理センターのメリットとデメリットの比較は、全ての案件に共通するものではなく、案件によってこれはメリットの方が大きい、これはデメリットの方が大きい、これはメリットしかないなど、様々です。
そのため、交通事故で、紛争処理センター利用するか迷ったら、事前に弁護士に相談される方が良いかと思います。