交通事故被害者の治療費も過失割合分のみ支払われるのか?
最終更新日 2023年5月28日投稿日 2022年1月27日 執筆者弁護士 豊田 友矢
交通事故では、被害者の過失割合が0のときばかりではありません。
被害者自身にも過失があるとき、怪我の治療にかかった治療費はどうなるのかについて解説します。
目次
自分にも過失があるときに治療費の支払いはどうなる?
自分にも過失があるときに、治療費の支払方法はどうなるのでしょうか?
過失割合によって、主に下記のような3つのケースがあります。
相手保険会社が治療費全額をいったん負担するケース
交通事故の過失割合が、100:0以外で被害者にも過失があったとしても、70(加害者):30(被害者)など被害者の過失がそこまで大きくないケースでは、治療費は相手の保険会社が「いったん」全額支払ってくれることが多いです。
このため、例えば過失割合70:30の事故であっても、保険会社は治療費の7割のみ病院に払うのではなく、いったん治療費の全額を払うことになります。
この場合、被害者は、手元から治療費を出すことなく病院に通うことができます。
では、「いったん」保険会社が支払ってくれた被害者の過失部分の治療費はどうなるのでしょうか?
基本的には、次の二通りになります。
①示談時に慰謝料から差し引く
慰謝料は基本的に示談の時にもらうものです。
もらえるはずだった慰謝料から、保険会社が払いすぎた治療費(加害者の過失分を越えて払った治療費)を控除して、残りの慰謝料のみを払って精算するという方法です。
②自賠責の枠内で示談する
自賠責保険では、被害者に7割以上の重過失がない限り、過失相殺はされません。そのため、治療を継続したが、治療費や慰謝料等の賠償額が自賠責傷害部分の上限120万以内である場合には、過失相殺を受けることなく自賠責基準で示談することはできます。
自賠責基準の慰謝料は、3つの慰謝料基準のうち最も低額ですが、過失相殺がされないこととの関係で、総額でいうと得になることもあります。
相手保険会社が一切の治療費の支払を拒否するケース
被害者の過失が大きい場合には、相手の任意保険会社は治療費の一切の負担を拒否することが多いです。
例えば、過失割合20(加害者):80(被害者)の事故の場合、加害者に2割過失があるので、本来であれば治療費の2割については、加害者が負担する必要があるのですが、治療中には一切支払ってくれないのです。
これには2つの理由があると考えられます。
まず、1つ目の理由は、被害者の過失が小さい場合と異なり、示談時の慰謝料で払いすぎた治療費を精算するのに足りず、過払いになるおそれがあるからです。
また、自賠の上限以上に治療費を支払ってしまう可能性があり、自賠の枠内での示談をしたとしても過払いになってしまうおそれもあります。
過払いの場合、保険会社は、被害者に払いすぎた治療費を返してもらう権利があるのですが、通常返してもらうことは簡単ではないため、過払を避けようとします。
次に、2つ目の理由は、そもそも明らかに自賠責保険金以下の責任しか負わない場合、任意保険会社は、治療費の支払をしないことになっているからです。
任意保険は上積み保険といって、あくまで自賠責保険ではまかなえない分について支払う保険です。
そうはいっても、被害者がまずは自賠責保険に請求して、上限にいったら、任意保険に請求するというのは手間なので、「一括対応」といって、任意保険会社のサービスにより、自賠責部分も含めて一括で任意保険会社が担当しているのにすぎません。
そうすると、そもそも、自賠責保険の枠内の責任しか負わないことが明かである場合、任意保険会社の負担部分は0円なので、「一括対応」を行わないのです。
簡単に言えば、今回の事故で、「任意保険会社は関係ありませんよ。直接自賠責保険会社に請求してください」ということです。
過失割合に応じて一部支払うケース
このケースは少ないですが、加害者の負担する賠償額が、自賠責の上限は超えるが、治療費全額を払うと過払になってしまう場合で、かつ、被害者が治療費全額の負担が困難である場合等になされることがあります。
このケースでは、例えば過失50:50の事故で、被害者が一旦病院の窓口で治療費全額を負担した後、示談する前に、都度支払った治療費の50%を保険会社から内払いとしてもらうという方法です。
労災が使えれば過失があっても治療費の負担なし
上記で説明したように、被害者にも過失がある場合には、その過失分の治療費は加害者や相手の保険会社からもらえません。一旦払ってもらったとしても後で慰謝料から引かれてしまいます。
ところが、通勤途中の事故で労災保険が利用できる場合には、治療費全額について労災保険の療養給付としてもらうことができます。
そうすると、自分の過失がどんなに大きくても、治療費を負担する必要がなくなります。
しかも、労災からもらった治療費の自分の過失分は、加害者や相手保険会社に請求する慰謝料からは引かなくて良いのです。
なので、被害者に少しでも過失がある時は、つかえるのであれば絶対労災保険を使用した方が良いです。
自分に少しでも過失がある時は健康保険を利用するとお得
自分に少しでも過失がある場合には、その過失分の治療費を最終的に負担しなければならないと説明しました。
このとき、治療費について健康保険を利用していれば、診療報酬単価が1点10円になるため、治療費の総額を抑えられます。
そうすると、必然的に自分の過失分の治療費も抑えられ、自分が負担する治療費や、慰謝料から引かれてしまう金額を抑えることができるのです。
交通事故では健康保険を使えないと勘違いしている方や、相手の方が悪いのに何で健康保険を使いたくないという方がたまにいらっしゃいますが、両方とも間違いです。
治療費が高額になることが予想され、自分にも過失が認められてしまいそうな場合は、健康保険を利用して治療するようにしましょう。
人身傷害保険に入っていれば自分の過失割合分の治療費が出ることも
被害者が加入している自動車保険で人身傷害保険にも入っていることが多いです。
この場合、治療費の自分の過失分を、後から追加で請求できることがあります。
また、被害者の過失が大きく、加害者の任意保険会社が治療費を一切負担しない時には、人身傷害保険の「一括対応」という形で、治療費全額を人身傷害保険出払ってもらうこともできます。
少しでも過失がある時の治療費については弁護士に相談を
このように、過失100:0以外の事案では、治療費の負担について複雑になってきます。
その対処方法も、労災保険、健康保険、人身傷害保険など、何をどのようにすれば良いかも、ケースバイケースで変わってきます。
特に、骨折以上の怪我をして、手術も行う場合などは、治療費が数百万円から数千万円に及ぶケースもあります。
このときに、治療費の支払について間違えた方法をとってしまうと、相手に請求できる慰謝料がほとんどなくなってしまうことにもなりかねません。
ですので、手術を必要なケガを負ってしまい、過失が100:0以外の可能性がある場合には、早めに弁護士に相談をするのが良いでしょう。