誤解しやすい交通事故慰謝料早見表の見方とは?減額される理由や別表Ⅰ・Ⅱの違い
最終更新日:2024年11月16日/投稿日:2022年11月9日/執筆者弁護士豊田 友矢
交通事故慰謝料の早見表に書いてある金額は、弁護士基準の通院慰謝料の金額です。
つまり、弁護士に依頼したときに相手に請求できる通院慰謝料の金額を表にしたものです。裁判所で認められる通院慰謝料の相場を表にしたものともいえます。
目次
慰謝料早見表は2種類ある|怪我の重さによってどちらを使うか決まる
通院慰謝料の早見表には、別表Ⅰと別表Ⅱの2種類があります。
この早見表は、赤い本という交通事故の裁判例などを掲載した書籍に掲載されているのですが、別表Ⅰと別表Ⅱの使い分けについて、以下のように説明されています。
「傷害慰謝料については、原則として・・・別表Ⅰを使用する。・・・むち打ち症で他覚所見がない場合等(注)は別表Ⅱを使用する。(注)「等」は軽い打撲・軽い挫創(傷)の場合を意味する。」
つまり、簡単に説明すれば、むちうち・打撲・挫創などの軽い怪我なら別表Ⅱを使い、それ以外の軽くない怪我なら別表Ⅰを使うことになります。
別表Ⅰとは?
通院慰謝料の別表Ⅰは、次の表になります。
通院期間と入院期間の交差するところが、弁護士基準の慰謝料額になります。
入院がない場合は、入院0月の列を見てください。
別表Ⅱとは
通院慰謝料の別表Ⅱは、次の表になります。
先ほど説明したように、別表Ⅱを使用するのは、むちうち・打撲・挫創などの軽傷のケースなので、入院することは基本的にありません。
そのため、入院期間はなし前提で、通院期間に対応した慰謝料の表を貼っておきます。
具体的な慰謝料早見表の見方
早見表は、1月毎の表になっています。ただ、実際には通院期間や入院期間が月単位でぴったりということはほとんどないです。
その場合には、次のように計算します。
具体例:事故後入院10日でその後症状固定まで190日かかった場合
①入院10日分の慰謝料を計算する
先ほど見た慰謝料の表の「1月」というのは「30日」に換算します。
そこで、日割り計算をして、53万÷30日×10日=17万6666円となります。
②全治療期間200日の通院慰謝料を計算する
ここで注意するのは、退院してから症状固定日までの期間ではなく、入院期間も含めて全ての治療期間でいったん計算することです。
なので、退院してから固定日までの190日ではなく、入院期間も含めた200日で計算します。
先ほど説明したとおり、この慰謝料の表では1月を30日換算するので、200日というのは、6月と20日になります。
そのため、全治療期間の通院分の慰謝料は、116万【6月分】+(124万【7月分】-116万【6月分】)÷30日×20日=121万3333円になります。
③入院期間とダブっている期間分の通院慰謝料を計算する
入院期間とダブっている期間は10日間なので、この分の通院慰謝料は、28万円÷30日×10日=9万3333円になります。
④ ①+②-③を計算する
①17万6666円+②121万3333円-③9万3333円=129万6666円になります。
このように入院期間や通院期間が月単位ぴったりでないときの弁護士基準の慰謝料を計算します。
早見表にあてはめる通院期間とは?
慰謝料の早見表の通院期間というのは、総治療期間ともいい、原則として事故日から治癒日(治療最終日)or症状固定日までの期間ことをいいます。
ところが、実際に通院した期間をそのまま使えないときもあります。
この場合は、実際の通院期間よりも慰謝料算定の対象となる通院期間が短くなることにより、結果的に慰謝料の額も下がります。
慰謝料の額を決めるのに、実際の通院期間より短い期間を使うケースは次の2つです。
通院期間が長期でかつ頻度が少ない場合
通院期間が長期にわたっており、その通院頻度が少ない場合などは、実際の通院期間ではなくて、通院日数を3倍または3.5倍した期間を慰謝料早見表の通院日数にすることがあります。
どのような場合に通院日数の3倍または3.5倍を通院期間とするのかは、次の記事で詳しく解説しています。
相当因果関係のある通院期間が争われる場合
事故状況や症状の程度などとは関係なく、通院すればするだけ慰謝料が増えるということはありません。
早見表で使う通院期間とは、あくまでその事故と相当因果関係のある通院期間に限られます。
この治療期間を争われる場合には、保険会社が治療中に治療費を打ち切っていることが多いです。
この場合、打ち切り後に自費で治療を継続したとしても、保険会社は打ち切り時以降の通院は、相当因果関係がないと主張して、慰謝料算定の通院期間には含めることを認めないことが多いです。
もちろん、保険会社の判断が正しいと限らず、間違っていることも多いのですが、保険会社が認めない場合には、最終的には裁判所に慰謝料計算の対象となる通院期間を決めてもらうほかないこともあります。
早見表通りにならない?よくある誤解とは
通院慰謝料の別表Ⅰと別表Ⅱは、インターネットで「交通事故慰謝料」などと検索すると、いろんなサイトに掲載されています。
そのため、はじめて交通事故にあってしまった被害者の中には、必ずこの慰謝料額がもらえると考えてしまう方もいます。
ところが、実際にはこの慰謝料早見表の通りの慰謝料を取得できないことはよくあります。
以下では、早見表通りの慰謝料をもらえない理由について解説します。
早見表の額を保険会社に請求したのにもらえない
別表Ⅰと別表Ⅱの早見表でわかる金額は、あくまで弁護士基準の慰謝料です。
弁護士基準の慰謝料というのは、裁判基準の慰謝料ともいいます。つまり裁判になったときの慰謝料の相場です。
弁護士に依頼して交渉すれば、裁判をしなくても裁判基準の金額で交渉できますが、弁護士に依頼せずに自分で交渉するだけは弁護士基準の慰謝料を獲得できることはまずありません。
弁護士基準の慰謝料にする方法については、次の記事で解説していますので、ご参照ください。
被害者に過失があれば早見表の額そのままにはならない
早見表に書いてある慰謝料額は、あくまで被害者の過失が0の場合に、取得できる金額が記載されています。
そのため、被害者に過失が少しでもある場合は、早見表の金額をそのまま使うことができません。
このように説明すると、例えば、過失割合が70:30(30が被害者)なら、早見表の金額を3割引にすれば良いと思われる方もいるでしょう。
ところが、過失割合が70:30のときに、相手が負担すべき額が3割引になるのは慰謝料だけではありません。
既に支払われている治療費や休業損害などの既払い金も含むのです。そうすると、既払い金の内の3割分は相手が過払いの状態になるので、その金額も慰謝料から引かれてしまうのです。
さまざまな理由で減額されることもある
先ほど見た被害者に過失がある場合は手取りの慰謝料が減額される典型例です。他にも、様々な理由で、早見表よりも減額した金額が妥当なこともあります。
それが、慰謝料以外の項目に争点がある場合です。
例えば、治療期間が事故状況、治療経過などから、通常よりも長期間にわたっており、裁判になったときに一部の治療期間しか慰謝料算定の通院期間として認められないケースがあります。
他にも、整骨院での施術費用がかなりの割合を占めており、裁判になった場合に、整骨院の施術費用の一部が認められない可能性がある場合もあります。
ここでは2つの例を挙げましたが、他にも様々なリスクがあります。このようなリスクを顕在化させることなく示談するために、早見表の慰謝料額より減額した額で示談する方が、実は得ということもあります。
また、それほど大きなリスクがない示談でも、裁判をせずに示談して解決したいという場合には、早見表の9割程度で示談することも珍しくありません。
早見表の額を請求したければ弁護士に相談を
既に説明したように、早見表の額はあくまで弁護士基準(裁判基準)の慰謝料額なので、自分で交渉するだけではもらうことができません。
そのため、まずは弁護士に相談して、弁護士に依頼すれば早見表の額をもらうことができるケースなのかを聞いてみるのが良いでしょう。
その際に特に大事なことは、早見表には書いていない様々な減額リスクをチェックすることです。
これを確認しておかないと、早見表の額からどれくらい減額しても示談した方がよいのかがわからなくなってしまいます。