物損事故から人身事故に切り替えるデメリットを弁護士が解説

物損事故から人身に切り替えるデメリット

物損事故から人身事故に切り替えるデメリット

被害者にとって、警察で物損事故を人身事故に変更する場合、次のようなデメリットがあります。なお、加害者側へのデメリットは▶物損事故から人身に変更されたら加害者側はどうなる?警察から連絡は?で解説しています。

警察で人身に変更してもらうのが大変なことがある

まずは、警察で人身事故に切り替えてもらうのが大変な場合があり、警察官との対応が面倒だというデメリットです。

実は、警察からすれば、人身事故に切り替えられると、実況見分を行って調書を作成するなどの手間が増えるのです。そのため、特に打撲・捻挫・むちうちなどの軽症のケース、救急車を使っていないケース、事故翌日以降に痛みが出てきて通院したケースなどでは、人身事故扱いにすることを警察官から暗に拒否されるケースもあります。

特によくあるのが、事故から時間が経っていると切り替えられないと言われたり、加害者に直接連絡を取って予約した時間に加害者と一緒に警察に来てほしいと言われたりする場合です。

また、人身事故への切り替えを受理してもらえる場合でも、診断書、事故車両の写真、車検証、印鑑などを担当の警察署まで持参しなければいけないので、労力と時間がかかります。

実況見分立会や取り調べに労力・時間がかかる

次のデメリットは、実況見分や取り調べに対応しないといけなくなると言うことです。

人身事故へ切り替えた場合、実際の事故現場で実況見分が行なわれるのが通常です。また、事故状況や怪我の状況について、警察官による取り調べも行なわれることになります。

実況見分や取り調べは、事故現場や担当の警察署で行なわれるので、旅行中、出張中などに事故にあった場合には、わざわざ遠方まで赴く必要があります。時間や手間もかかりますが、警察への対応は国民の義務と考えられているため、実況検分や取り調べ対応のための交通費や休業補償は、保険会社はなかなか認めません(裁判では認められているケースもあります)。

なお、単純な事故で事故状況に争いがない場合や、軽症の場合などは、加害者のみの立ち会いで実況見分が行なわれ、被害者は立ち会い必要がないこともあります。

自分も行政処分(違反点数加算)を受け、免停・免許取消の場合も

3つ目のデメリットは、人身に切り替えたことをきっかけに、あなたも行政処分を受ける可能性があるということです。

なぜかとうと、事故当事者双方に過失があり、しかも双方が怪我をしている事故で、あなたが人身事故に切り替えると、相手も警察に診断書を提出することが多いのです。

この場合、仮に相手の方の過失が大きい場合であっても、あなたも人身事故の被疑者扱いになりますし、行政処分として違反点数が加算されてしまう(「点数が引かれる」と言う人もいます)ことになります。その結果、免停や免許取消になってしまう可能性もあります。

そのため、あなたの仕事で車の運転が不可欠な場合(ドライバーなど)には、仕事を休まざるを得なくなったり、場合によっては解雇されてしまう可能性もあります。

あなたからすれば、相手が一方的に悪い事故であると考えていたとしても、警察ではあなたにも一部過失があると判断することもあるので、注意が必要です。

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物損事故のままにしておくデメリット

物損事故のままにして、人身に切り替えない場合にもデメリットがあります。

それが、実況見分調書が作られないことと、後遺障害認定で不利になる可能性があること、治療期間の争いで不利になる可能性があることです。

逆に言えば、これらのデメリットがなくなることが、人身事故に切り替えるメリットともいえます。

実況見分調書が作られない

物損事故の場合は、原則として警察で実況見分調書が作成されません。代わりに物件事故報告書という書類は作成されますが、これはかなり簡易なものであるため、詳細な事故状況は記載されないのが通常です。

そのため、ドライブレコーダーがない場合には、どのような事故であったかの客観的事実や、事故後の当事者の言い分が証拠として残りません。

そうすると、後日、過失割合で争いになったときに、事故状況自体にも争いがある場合には、お互いの主張が水掛け論になり、話がまとまらないことがあります。

また、裁判で過失割合を争うときにも、実況見分調書がないと、事故態様についての有効な証拠を提出できなくなってしまいます。これがデメリットということができるでしょう。

後遺障害認定で不利となる可能性がある

一般的に、物損事故扱いとなっている事故は、事故直後はたいした怪我はないと考えていたことが多いため、怪我がそれほどひどいものではなかったと思われてしまいます。

そのため、後遺障害認定の際にも、後遺障害を認めない一つの事情として考慮される可能性があります。これも人身に切り替えないデメリットの1つです。

治療期間が争われるときに不利になる可能性がある

過失割合や慰謝料の額、休業補償の額などで折り合いがつかず、裁判になった場合には、いったん認めてもらった治療期間も、遡って争われることは珍しくありません。

そんなとき、物損事故扱いになっていると、相手の弁護士から、物損事故扱いにしているのは、怪我が軽かったからであるという主張をされる可能性があります。

その結果、裁判所で認められる治療期間が、実際に治療した期間よりも短くなってしまう可能性もある、というのもデメリットといえるでしょう。

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物損事故から人身に切り替えた方が良い場合とは

物損を人身に切り替えるデメリットと、切り替えないデメリット(=切り替えるメリット)を説明しました。

これらの説明を前提に、人身に切り替えた方が良いケースと、切り替えない方が良いケースを見てみましょう。

通常は切り替えない方が良いケース

  1. 双方怪我・双方過失ありで免停or取消になりそうな場合
  2. 双方怪我・双方過失ありで仕事で運転が不可欠な場合
  3. 極めて軽症・過失の争いなしで事故現場が遠方の場合

1と2は、人身事故に切り替えることによりあなたも行政処分を受ける可能性があり、しかも点数加算がされたとき影響が大きいからです。

3は、切り替えにかかる労力・時間に比較して、切り替えるメリットが少ないからです。

通常は切り替えた方が良いケース

  1. 救急搬送されている場合
  2. 骨折している場合
  3. 入院している場合
  4. むちうちの症状が重く、事故の衝撃も大きい場合
  5. 事故状況・過失割合に争いがある場合

1~4は、後遺障害を申請する可能性があり、その際に物損事故扱いだと不利になる可能性があるからです。また、1~4は治療が長引くことも多く、最終的に治療期間が争いになる可能性もあり、その点でも物損事故扱いだと不利になる可能性があるからです。

5は、過失割合を争うときの証拠として、実況見分が必要になることが多いからです。

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