物損事故でも治療費は自賠責や任意保険から出る?念のため病院へ行くべき?
最終更新日:2024年10月3日/投稿日:2022年7月22日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
物損事故扱いで通院しても治療費は出る
結論から言うと、物損事故でも治療費は出ます。
ただし、治療費が出る「物損事故」とは、怪我をしていない本来の物損事故のことではありません。怪我をしていないなら当然治療することもないので治療費はかかりません。治療費が出るのは、実際には怪我をしたが、警察では物損事故として扱われているという意味での「物損事故」です。
このような物損事故扱いでも、事故が原因で怪我をしているのであれば、加害者の自賠責保険や任意保険から治療費を出してもらえます。また、物損事故扱いでも、治療費だけでなく慰謝料も払ってもらえます。▶10対0でも物損事故で慰謝料はもらえない?例外的にもらえたケースも紹介
ただし、人身事故証明書入手不能理由書という書面を作成する必要があります。
【人身事故証明書入手不能理由書】
これは、簡単に言えば、実際には怪我をしたのに人身事故として届け出をしなかった理由を記載するものです。
自賠責や任意保険から治療費が出ない場合
物損事故扱いが原因で治療費が出なくなることはないです。ところが、実際に物損事故扱いになっているケースは、事故による衝撃がかなり軽微な場合や、事故直後には病院へ通院していない場合が多いです。
そのため、物損事故扱いになっていること自体ではなく、次のような理由で、加害者の自賠責や任意保険から治療費を払ってもらえないことがあります。
事故から通院開始まで期間が空いている
事故から時間が経ってから通院を開始した場合、相手の自賠責や任意保険から治療費を払ってもらえないことがあります。本当に事故で怪我をしたのか(=事故と怪我の因果関係)を疑われるからです。
実際には事故当日から痛みがあったとしても、病院に通院しない限りは痛みがあったことを証明できません。そのため、事故から一定期間を経過した後に通院を開始すると、事故と怪我の因果関係が疑われてしまうのです。
ただし、事故当日か翌日に通院しないとダメというほど厳しくはありません。事故状況と怪我の内容によっても変わってきますが、事故から4日以内であれば問題ないことがほとんどでしょう。また、事故から2週間以内であれば認められることも多いです。他方で事故から2週間以上経過すると、認められないことも多くなり、1ヶ月経過すると、特別な事情がない限り、治療費が出ないことがほとんどでしょう。
軽微な事故やミラー同士衝突などの事故
通常なら怪我をしないと考えられる事故状況の場合、相手の自賠責や任意保険から治療費を払ってもらえないことがあります。事故状況からして事故と怪我の因果関係が疑われるからです。受傷否認(じゅしょうひにん)といいます。
この場合、たとえ事故直後に通院をして、医師から診断書をもらったとしても、怪我の原因が事故であることに疑いが生じ、治療費を払ってもらえません。
治療費が払われない典型的な事故状況は、自動車のミラー同士の接触事故です。他にも、双方の車に軽い擦り傷しかない場合や、歩行者と自動車が微妙に接触した事故、自転車と自動車が軽く接触して転倒もしていない事故なども治療費が払われないことがあります。
加害者が保険の利用を拒否した場合
加害者が自信の加入する任意保険の利用を拒否した場合には、その任意保険会社は治療費を払ってくれません。任意保険会社は、加害者(契約者)の意思に反して、保険対応を行なわないからです。
事故当日、怪我をしているようには見えなかった被害者が、あとから通院していることがわかったときに、本当に事故で怪我をしたのか加害者が疑い、保険の利用を拒否することがまれにあります。
ただし、自賠責保険については、加害者の意思にかかわらず、被害者が直接請求することができるので、加害者の任意保険に支払いを拒否されたら、自賠責保険へ請求するのも1つの手です。
物損事故でも念のために病院へ行った方良いケース
事故直後は体は大丈夫だと思っても・・・
事故直後に事故現場では、一見怪我はないように見えても、実際には捻挫等の怪我を負っており、家に帰った後、事故から数時間後~翌日に痛みを感じるようになることはあるようです。
これはは怪我による外傷が事故後に悪化したというよりも、事故直後はアドレナリンが大量分泌され、痛みを感じにくいことが原因だと考えられています。
こんなとき、そこまでひどい痛みではなくても、念のため病院へ行った方がよいのでしょうか?
これまで説明したように、物損扱いのままでも相手の保険から治療費が出ることが多いので、特に以下のような場合には、念のため早めに病院へ通院した方が良いでしょう。
- 事故による衝撃が大きかった場合
- 数時間後に強い痛みを感じた場合
- 乳児・幼児が事故にあった場合
事故による衝撃が大きかった場合
事故による衝撃が大きかった場合は、その衝撃で身体内部にダメージを受けている可能性があります。
例えば、歩行中に自動車にひかれた場合、自転車やバイクに乗っているときに自動車と衝突して転倒した場合、自分の乗っていた車の衝突部位が大きく損傷している場合などです。
このようなときは、例え事故当日は症状が軽かったとしても、念のため直ぐに病院へ行った方が良いでしょう。
数時間後に強い痛みを感じるようになった場合
事故現場ではそれほど痛みを感じなくとも、数時間後に痛みを強く感じるようになってきた場合は、当然ですがすぐに病院へ行った方が良いでしょう。
また、むちうちなどにより、頭痛・めまいなどの自律神経症状が出たときも、症状が長引く可能性があるので、早めに通院した方が良いでしょう。
乳児・幼児が事故にあった場合
乳児・幼児は、実際には痛みがあったとしても、それを的確に言葉で表現できない可能性があります。
そのため、乳児・幼児の言動に少しでも違和感があったら、念のために医師に診てもらった方が良いでしょう。事故の衝撃が大きかった場合はなおさらです。
物損事故扱いで通院する場合の注意点
相手の保険会社に病院へ行くことを伝える
物損事故で処理している場合、加害者や相手の任意保険会社は、被害者が怪我をしていることを知りません。
そのため治療費を払ってもらうためには、必ず相手の任意保険会社に病院へ行くことを伝えましょう。
病院へ行く前に伝えた方が良いですが、土日などで保険会社と連絡がとれない場合は、最初の通院をした後で伝えても大丈夫です。
事故後できる限り早期に通院する
事故後、時間がたってから通院を開始すると、事故のせいで怪我をしたということが認められなくなる可能性があります。
症状が良くならなければ通院を開始しようと考えていると、事故から通院までの時間が空いてしまいます。
症状があるのであれば、とりあえず最初の1回は事故後直ぐに通院して、その後良くなれば通院はしなければ良いと考えましょう。
人身事故に切り替えることも検討する
警察で物損事故として扱われたままでも、事故で怪我をしているのであれば治療費や、慰謝料は加害者の保険会社払ってもらうことができます。
ただし、物損事故扱いのままにすることにはデメリットもありますので、場合によっては、病院で診断書をもらって人身事故に切り替えることも検討しましょう。▶物損事故から人身事故に切り替えるデメリットを弁護士が解説