事故車の格落ち損害(評価損)とは?10対0のもらい事故でも認められない?
最終更新日:2024年10月16日/投稿日:2022年7月20日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
格落ち損害(評価損)とは?10対0のもらい事故で強い不満
格落ち損害(評価損)ってなに?
格落ち損害(評価損)とは、簡単に言うと、「事故前の車の価格と修理後の車の価格の差額」のことです。つまり、修理をしても車の価格が下がってしまった場合に認められるものです。
実際に、事故車を修理したり、買い替えたりするときに、ディーラーから「修理しても査定は○円下がる」と言われたり、中古車業者から「事故車なので○円でしか下取りできない」と言われることがあります。
このように事故車は修理をしても欠陥が残ったり、事故歴があることから価値が下がってしまうことが多いのです。
10対0の物損事故で不満が生じる大きな原因の一つ
過失割合が10対0の物損事故で、被害者が特に不満を感じるのが、全損扱いで時価額しかもらえなくなる場合と、修理しても査定額が下がる格落ち損害(評価損)が生じる場合の2つです。
全損扱いの時価額賠償に対する不満については、▶経済的全損だと泣き寝入り?修理したいのに全損扱いはおかしい?で解説しています。
今回解説する格落ち損害(評価損)について、なぜ被害者の不満が生じやすいかというと、もらい事故では自分は全く悪くないのに、価値の落ちてしまった車が戻ってくるだけなので、まさに当てられ損だからです。
特に、新車にぶつけられた場合には、修理はしたものの事故車扱いで査定額が大きく下がっているにも関わらず、格落ち損害(評価損)は、保険会社がなかなか認めてくれないので、強い不満を感じることが多いです。
保険会社が格落ち損害(評価損)を認めない根拠
保険会社が示談交渉で格落ち損害(評価損)を認めることは多くはありません。認めない根拠としては、①法的には評価損は認められない方が原則という考え方があること、②裁判所で評価損が認められるかどうかの基準があいまいであることの2点が考えられます。
①法的には評価損は認められない方が原則という考え方があること
現実問題として事故車の査定額が下がっても、格落ち損害(評価損)が認められるとは限りません。むしろどちらかといえば、単に査定額が下がっただけでは、評価損は原則として認められない傾向にあります。
これは、骨董品、絵画、宝石、お店にとっての商品などとは違い、自動車は基本的には利用することに価値があり、それを売却して金銭に交換する価値は二次的なものであるという考え方が背景にあるように思います。
そのため、保険会社側としては、このような考え方から、格落ち損害(評価損)をかなり例外的な場合にしか認めないことが多いです。例えば、事故直前に既に下取り査定を取っていた場合や、ほとんど新車の高級車が事故でフレーム損傷を負った場合などです。
②裁判所で評価損が認められるかどうかの基準があいまいであること
裁判において評価損が認められるかどうかは、後ほど説明しますが、車種、登録年式、走行距離、損傷部位などいくつかの考慮要素があります。
そのため、こういう場合には評価損は認められやすいとか、逆に認められにくいとかの判断はできます。
ところが、裁判例をみればわかりますが、明確で一律の基準はなく、最終的には全ての要素を考慮して裁判官の総合判断となるため、実際に裁判をしてみないと評価損が認められるかどうかはわからないというケースが多いのです。
評価損に限った話ではありませんが、裁判をしてみないとどうなるかわからない損害を、保険会社が示談交渉時に払うことは少ないです。
なぜかというと、そのような損害は払わなくても、不当な不払いとまではいえないですし、裁判で認められたものだけを払った方が全体の支払額が減るからです。
格落ち損害(評価損)を勝ち取れるケースとは?
格落ち損害(評価損)を勝ち取れるケースは、わかりやすくいえば、事故車の時価が高く、しかも修理費も高い場合です。
車の時価が高いこと|高級外車は認められやすい
まず、事故当時の車の時価が高いほど、格落ち損害は認められやすいです。
なぜかというと、例えば高級外車は資産形成のために購入する人もいますし、高額で売却できる車両ほど、車を利用する価値だけでなく、車を金銭に交換する価値も重要であると考えられるためです。
そして、具体的には、①高級車であるほど、②初年度登録からの期間が短いほど、③走行距離が少ないほど、一般的に事故当時の車の時価は高くなります。
これらの①~③について、格落ち損害が認められかどうかの一般的な目安として、次のような基準があります。
- 外国車or国産人気車種:登録5年未満かつ走行距離6万㎞未満
- 国産一般車:登録3年未満かつ走行距離4万㎞未満
ただし、比較的低価格の車両や軽自動車などについては、この目安の基準を満たしても格落ち損害が認められないことが多いです。逆に、数千万円する高級外車ではこの目安の基準を満たさなくとも格落ち損害が認められることもあります。
つまり、国産車or外車、登録年数、走行距離よりも、結局は時価額が高いかどうかが一番重要ということになりそうです。
そのため、新車価格200万~300万円程度の国産車では、ほとんど新車の状態で事故によりフレーム損傷に至ったとしても、必ずしも評価損が認められるわけではないことに注意しましょう。逆に、相当な高額で流通しているクラシックカーや旧車では、製造から数十年経過していても、評価損が認められるケースは多いです。
修理費が高いこと|フレーム部に損傷があると認められやすい
次に、修理費が高いほど評価損は認められやすいです。一番わかりやすいので修理費が高いという表現をしましたが、もう少し厳密にいうと、フレーム部位に損傷が及んでいるかどうか、多数の外板を交換しているかどうかまで考慮されます。
先ほど説明したように、事故当時の車両価格が高い場合(新しい高級車など)であれば、格落ち損害が認められる一つ目のハードルはクリアします。その次のハードルは、交換価値が下がったことを証明できるかどうかです。
事故直前にたまたま車を査定していた場合には、事故後の査定と比較して交換価値が下がったことを示す方法も考えられますが、あまりこのようなケースはないでしょう。
そのため、実際には、交換価値が下がったことを証明するために、①事故による損傷が自動車の内部骨格(フレーム)部位に及んでおり、中古車業者に事故歴・修復歴表示義務が生じることや、②リアフェンダーなどの溶接止めの外板を交換したこと(いわゆる外板価値減点があること)などを示す必要があります。【参照:一般財団法人 日本自動車査定協会 東京都支所「修復歴の考え方」】
逆に、修理費が高くない場合、例えば、ミラーやバンパーのみの交換修理、フェンダ-、サイドパネルの板金修理などの場合は、交換価値の低下を証明できないことが多いでしょう。
格落ち損害(評価損)の計算方法|修理費の10~30%
それでは、格落ち損害(評価損)が認められる2つのハードルをクリアしたとして、その金額はどのように計算するのでしょうか?また相場はあるのでしょうか?
裁判の相場は修理費の○%
格落ち損害(評価損)として、事故前と事故後の車両の査定額の差額を請求することもありますが、その場合でも多くの裁判例は、修理の○%という形で修理費から割合的に認定する計算方法をとっています。
そして、裁判例が認める格落ち損害の相場は、概ね修理費の10%から30%となっています。
例外的に高額になるケース
もっとも、例外的なケースでは修理費の50%以上の格落ち損害を認めている裁判例もなくはないです。また、高級車の場合や新車購入直後の場合などは比較的高めの割合の格落ち損害が認められることがあります。
示談交渉で認められる相場は低め
ただし、示談交渉のみで解決する場合には、仮に弁護士が介入して評価損が認められたとしても、国産車では修理費の5%~10%程度,高級車でフレーム損傷がある場合でも修理費の10%~15%程度が保険会社が認める評価損の上限のように感じます。
格落ち損害(評価損)の裁判例を紹介
ランボルギーニ・ディアブロGT(大阪地判H25.6.14)
- 車種:ランボルギーニ・ディアブロGT
- 初度登録後の期間:10年弱
- 走行距離:15,000㎞
- 新車価格:3,700万円
- 損傷部位・程度:骨格以外
- 格落ち損害:修理費の30%(36万円)
メルセデスベンツE430(東京地判H23.3.29)
- 車種:メルセデスベンツE430
- 初度登録後の期間:4ヶ月
- 走行距離:2,856㎞
- 新車価格:不明
- 損傷部位・程度:車両前部、損傷大(修理費700万以上)
- 格落ち損害:修理費の30%(214万1040円)
BMW735i(東京地判H18.1.24)
- 車種:BMW735i
- 初度登録後の期間:約4ヶ月
- 走行距離:5,576㎞
- 新車価格:不明
- 損傷部位・程度:
- 格落ち損害:修理費の30%(53万8524円)
日産の軽自動車(熊本地判R4.2.8)
- 車種:日産の軽自動車
- 初度登録後の期間:1年3ヶ月
- 走行距離:2,193㎞
- 新車価格:不明
- 損傷部位・程度:骨格部分
- 格落ち損害:修理費の15%(4万3591円)
修理しない場合の格落ち損害(評価損)
修理しない場合に格落ち損害(評価損)を請求することはできるのでしょうか?
理論的にいえば、修理をしないでも格落ち損害(評価損)は発生します。修理しないでも修理費を請求できるのと同じです。▶もらい事故では車を修理しないで現金をもらえる?車両保険の場合は?
しかし、実際には、事故車両を修理しないケースというのは、①車の損傷が軽微で修理しないでも安全に走行できる場合か、②経済的全損(またはそれに近い状態)のため新たに買い替える場合が多いと思います。
①車の損傷が軽微の場合の評価損
①の車の損傷が軽微の場合には、車の骨格部位に損傷が生じていることはなく、しかも修理費も低額であることから、格落ち損害(評価損)は認められないことが多いでしょう。
②経済的全損の場合の評価損
②の経済的全損の場合には、格落ち損害(評価損)も、修理費と併せて時価額の範囲で賠償を受けることができるに過ぎません。そうすると、修理費のみで時価額を超えているのであれば、追加で格落ち損害(評価損)を請求することはできないことになります。
例えば、車両時価額90万円、修理費100万円、格落ち損害(評価損)が修理費の20%の20万円だとしても、修理費(100万円)のみで時価額(90万円)を超えている以上、追加で格落ち損害はもらえないことになります。
なお、このような考えを前提とした裁判例として、名古屋地裁令和3年1月13日判決があります。
残クレ(残価設定ローン)やリース車両と評価損
残価設定ローンやカーリース車両が事故で損傷した場合に、車の利用者が評価損をできるのかという問題があります。
評価損というのは、あくまで車の所有者に生じる損害であるため、車の所有権がない人は請求できないのが原則だからです。
もっとも、例えば、リース車両の解約を合意した後に事故にあってしまい、解約清算金が増加したケースではリース車両の利用者に評価損がみとめられた裁判例があります(名古屋地裁平成29年8月22日判決)。また残クレ(残価設定ローン)を利用し車の下取りをすることを合意した後に事故に遭ってしまい、車の査定額が下がったことにより下取り時に追加の支払額が生じた事例で追加支払額を評価損として認めた裁判例もあります(横浜地裁平成23年11月30日判決)。