もらい事故では車を修理しないで現金をもらえる?車両保険の場合は?
最終更新日:2024年9月25日/投稿日:2022年6月24日/執筆者弁護士豊田 友矢
もらい事故などで車が壊れた場合、被害者は修理をしない代わりに修理費用分を現金でもらうことはできるのでしょうか?
目次
修理しないで修理費分を現金でもらうのもアリ
交通事故で自分の車が壊れてしまった以上、車の価値は下落しており、修理するかしないかにかかわらず、車の所有者には修理費分の損害が発生しています。
そのため、修理をしないでも、仮定的な修理費分の金額を、加害者(保険会社)に対して請求することができます。もらい事故など過失割合が100対0であれば、修理費分全額の現金を請求できます。
また、修理費分を現金で受け取った後も、その現金を使って実際に修理するかどうかは自由です。修理しないで、現金は別のことに使っても構いません。
全損扱いなら修理しないで時価額分を現金でもらう
相手の保険で修理してもらうのか、修理費分を現金でもらうか選べるのは全損ではない場合です。経済的全損の場合には、相手負担で修理してもらうことも、修理費分全額を現金でもらうこともできません。▶経済的全損だと泣き寝入り?修理したいのに全損扱いはおかしい!
経済的全損の場合、修理費よりも安い時価額だけを現金でもらうことになります。このように全損扱いの場合は、修理するか現金でもらうかを選ぶのではなく、時価額分を現金でもらうことしかできません。
修理しないでもらう修理費はどうやって決まる?
高額の見積もり金額がそのままもらえるのか
修理しないで修理費分を現金でもらう人にとっては、修理費は高ければ高いほどよいことになります。その方が、より多くの現金をもらえるからです。
それでは、この修理費の額はどうやって決まるのでしょうか?ディーラーに事故車両を持っていき、事情を説明して高額の見積もり書を作ってもらえば、その金額がもらえるのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。
加害者やその保険会社からもらえる現金は、適正な修理費の額に限られます。
保険会社のアジャスターによる協定
では、適正な修理費用はどうやって決めるのでしょうか?実は、被害者と保険会社との間で、適正な修理費用の金額でもめることは、そこまで多くはありません。
なぜかというと、修理工場と保険会社のアジャスターとの間で事前に修理金額を協議した上で確認し、保険会社がその金額を合意する「協定」を行うのが通常だからです。
そのため、被害者としては、保険会社と修理業者が協議した結果決まった協定金額を知らされるのみで、それが高いとか安いとかの紛争になりにくいのです。
適正な修理費の額に争いが生じることも
もっとも、被害者の希望する修理が事故と因果関係が認められないとされた場合(例えば部品交換を希望したが板金修理のみ認められる場合、全部塗装を希望したが一部塗装のみ認められる場合など)や何らかの理由により修理工場とアジャスターの間で協定がまとまらない場合は、修理費の金額自体が争いになります。
この場合には、被害者の主張する修理費が妥当であることを、示談交渉や裁判の中で、被害者の方で主張立証しなければなりません。
修理しない場合の消費税
修理しないで修理費分を現金でもらう場合、実際には修理しないことから見積書記載の消費税分についてもらえるかどうか争いになることがあります。
この点、東京地裁平成29年3月27判決、東京地裁平成30年5月15日判決などでは、修理未了でも修理費の消費税分も損害になるとされています。
修理しないでもらう時価額はどうやって決まる?
経済的全損となり、時価額を現金でもらう場合には、もらう側にとっては時価額が高ければ高いほどよいことになります。
この場合の時価額の決め方は、有限会社オートガイド社が発行している「自動車価格月報」(いわゆるレッドブック)を参考にすることが多いです。他にもインターネット上のカーセンサーやグーネットなどのサイトで中古車価格情報を調べて、その資料を基に時価額を決めることもあります。
車の所有者以外は修理しないと現金はもらえない
これまでの説明は、車の所有者が、修理せずに修理費分の現金を請求できるのかという問題でした。では、所有者ではなく車を利用していた人も、修理費分のお金を加害者に請求することはできるのでしょうか?
結論から言うと、所有者以外の人が修理費分の現金を請求する場合には、実際に修理をする(少なくとも修理の予定)必要があります。なぜなら、車の価値が下がったという損害は、車の所有者の方に生じており、修理費用を負担していないのであれば車を利用している人には損害がないからです。
ただし、実際に所有者以外が修理費用を請求するのは、所有権留保特約で車を購入した人かリース契約のユーザーであることがほとんどです。そして、これらの場合、買主やユーザーは修理(または車の担保価値の維持)を義務づけられていることもあり、修理しないで修理費用だけ請求するという場面が想定できないため、あまり問題になりません。
車両保険の場合も修理しないで現金でもらえるか?
車両保険を利用する場合でも、修理しないで修理費相当額を現金でもらうことはできます。
ただし、無過失特約などがついていないと、もらい事故でも車両保険利用により等級が下がり保険料が増大してしまいます。
修理しないで現金でもらう場合の注意点
修理しないで現金でもらう場合にもいくつか注意点があります。
もらって現金では足りない修理費が・・・
修理費分を現金でもらって、修理せずに乗り続ける場合、安全性の問題もありますし、その後に不具合などが生じてより高額の修理費がかかる可能性があります。この場合、当然ですが追加で現金をもらうことはできません。
また、現金でもらった後に、実際に修理を行なったところ、当初見えなかった部分の修理が追加で必要になり、もらった現金では修理費に足りなくなってしまうこともあります。この場合も、追加で現金をもらうことはできません。
時価額を現金でもらうと車両引き上げの場合も
全損扱いで、時価額を現金でもらう場合には、所有権移転により相手が全損車両を引き上げることもあります。この場合、自分で修理して乗り続けようとしていた人や、売却してお金にしようとしていた人にとっては予想外の結末になってしまうこともあります。
修理しないと高額の見積書作成料がかかることも
保険会社の提携先ではない工場などで、見積書を作成してもらい、修理はしないという場合には、見積書作成費用がかかることもあります。
見積書作成費用が、修理費用の10%などと設定されている場合もあり、修理費の額によっては、修理しなくても高額の見積書作成料がかかってしまうこともあります。この場合、見積書作成費用を相手保険会社に負担してもらえるかが争いになることもあります。