交通事故の死亡慰謝料の相場と計算方法|70歳、80歳の高齢者の場合は?
最終更新日:2024年10月22日/投稿日:2022年2月5日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
裁判基準の死亡慰謝料の相場【弁護士に依頼した場合の金額】
まず、裁判基準の死亡慰謝料の相場について解説します。
裁判基準の慰謝料とは、その名の通り、裁判をした場合に認められる慰謝料の金額のことをいいます。
弁護士が示談交渉をする場合には、裁判をしない場合であっても裁判基準で請求することになります。
そして、この裁判基準の相場は、弁護士や裁判官が使う「赤い本」や「青本」と呼ばれる本に記載があります。
「赤い本」によると死亡慰謝料の相場は2,000~2,800万円
赤い本によると、死亡慰謝料の相場は
- 一家の支柱 2,800万円
- 母親・配偶者 2,500万円
- その他 2,000~2,500万円
とされています。
この金額は、本人分と遺族分の慰謝料を合計した金額です。自賠責の死亡慰謝料とは違い、遺族の人数によって慰謝料の金額が明確に変わるわけではありません。「その他」とは、独身の男女、子ども、幼児等のことをいいます。
なお、2015年までは、母親・配偶者は2,400万円、その他は、2,000~2,200万円と現在より低額の記載でしたが、2016年より見直され、現在の金額が記載されています。
「青本」によると死亡慰謝料の相場は2,000~3,100万円
青本によると死亡慰謝料の相場は、
- 一家の支柱 2,800万~3,100万
- 一家の支柱に準ずる場合 2,500万~2,800万
- その他の場合 2,000万~2,500万
とされています。
一家の支柱とは、被害者世帯が、主として被害者の収入によって生計を維持している場合です。
一家の支柱に準ずる場合とは、家事の中心をなす主婦、養育を必要とする子を持つ母親、独身者であっても高齢な父母や幼い兄弟を扶養しあるいはこれらの者に仕送りをしている者の場合です。
また、近時、若年の被害者(成人した者ないしは成人に近い者)の例で、上限2,500万円を認定する例が相当数あるとされています。
実際の裁判例による死亡慰謝料の相場:高齢者と子どもの違いは?
赤い本や青本の記載、赤い本2016年下巻「裁判例における死亡・後遺症慰謝料の認定水準」における報告や実際の裁判例での認定を踏まえると、死亡慰謝料の相場は、次のような傾向があることがわかります。
被害者が一家の支柱の場合:2,800~3,100万円が多い
一家の支柱の場合とは、被害者の世帯が主として被害者の収入によって生計を維持している場合をいいます。この場合の死亡慰謝料の金額は、赤い本だと2800万円、青本だと2800万円~3100万円とされています。
慰謝料の扶養的機能を重視して、その他の場合と比較して慰謝料が高額になっています。
実際の裁判例を見ると、大半の事例が2,800~3,100万円の範囲に収まっており、2,800万円とされる割合が一番多いようです。2,800万円を超えるケース(2,900~3,200万)はそれなりに見られますが、3,200万円を超えるのはレアケースのようです。
また、一般的には、配偶者のみならず、未成年の子どもや、高齢の父母など多数の親族を扶養している被害者ほど慰謝料が高くなる傾向があるようです。
なお、世帯主であっても、夫婦の収入にそれほど差がない場合や、年金生活者の場合は、一家の支柱の場合とまではいえずに、次に説明する一家の支柱に準ずる場合となることがあります。
被害者が母親・配偶者・一家の支柱に準ずる場合:2,400~2,500万円が多い
赤い本では、「母親、配偶者」とされていますが、青い本では「一家の支柱に準ずる場合」とされ、「家事の中心をなす主婦」、「養育を必要とする子を持つ母親」、「独身者であっても高齢な父母や幼い兄弟を扶養しあるいはこれらの者に仕送りをしている者」の場合がこれにあたるとされています。
この場合、赤い本では2,500万円、青本では2,500~2,800万円とされています。
実際の裁判例を見ると、2,400~2,500万円が一番多いですが、2,200~2,300万円にとどまるものや、逆に2,500万円を超えるものもそれなりに見られます。
20代から50代の被害者で独立していない子どもがいる場合は、比較的高額の慰謝料(2,400~2,800万円)が認められることが多いです。
逆に、子どもが独立した後の主婦や60代以上の高齢者の被害者は、比較的低額の慰謝料(2,200~2,400万円)となることが多いようです。
これは、独立していない子どもがいる場合には失われた家事労働能力の影響が大きいため、慰謝料の扶養的機能を重視した結果と考えられます。また、一般的に将来のある年少者が命を失った方が慰謝料は高額とすべきという考え方も影響していると考えられます。
被害者がその他の場合:2,200万円前後が多い
その他の場合とは、赤い本では、被害者が独身の男女、子ども、幼児の場合とされています。青本では「一家の支柱」にも「一家の支柱に準ずる場合」にもあたらない場合ということになるでしょう。
そのため、既婚者の男女であっても被扶養者がいない場合や家族のための家事の大部分を担っていない場合には、こちらに該当すると考えられます。
赤い本でも青本でも慰謝料の金額は2,000~2,500万円とされています。
実際の裁判例を見ると、前記の通り一般的に将来のある年少者が命を失った方が慰謝料は高額とすべきという考え方もあり、若年の被害者の場合には、上限の2,500万円とするケースも多く、2,200~2,500万円の範囲に収まることが大半のようです。
逆に60代以上の高齢者の場合は、下限の2,000万円で認定されるケースも多く、平均的には2,200万円前後となることが多いようです。ただし高齢者であっても2,400万円以上を認めるケースもそれなりにあり、一概に高齢者であれば下限になるとまでは言えない状況です。
つまり、一般的には年齢が若いほど慰謝料の相場は高くなる傾向はありますが、年齢以外の事情もかなり考慮されており、同居している家族構成など個別的な事情により慰謝料が決まると言うことがいえるでしょう。
高齢者の死亡の場合の慰謝料について
高齢者が亡くなった場合の慰謝料は、人生を享受している程度に応じて、やや低めの金額になるといわれることがあります。実際、先ほど説明したように高額にはなりにくいですが、以下のように、高額になるケースもあります。
大阪地裁の平成22年2月9日付判決では、75歳の被害女性本人分として2500万円、病気により介護を必要とする夫の分として100万円、子2人孫1人分として各50万円、被害者が介護していた知的障害を持つ孫については、祖母である被害者の死により介護施設への入所を余儀なくされたとして300万円の合計3050万円を認めています。
そのため、事情によっては慰謝料を増額させたり、高齢者だからという理由で低めにされてしまうことを防ぐことができる場合もあります。その主張・立証は容易ではありませんので、具体的な事情については、弁護士へのご相談をおすすめしています。
特殊事情がある場合:慰謝料が120%程度になることも
これまで見てきた死亡慰謝料の相場は、あくまで通常の交通事故の場合の慰謝料の相場です。
加害者に無免許、ひき逃げ、酒酔い、ことさらに信号無視をするなどの重過失があり、慰謝料増額事由が認められた場合には、上記の金額の120%程度の慰謝料が認められることもあります。
また、明確に慰謝料増額事由とまでは認定できない程度であっても、事故態様や事故後対応の悪質さは、前記の相場の範囲内で慰謝料の金額に影響することはあり得ます。
自賠責基準の死亡慰謝料の相場【弁護士に依頼しない場合】
次に、弁護士に依頼しない場合の相場といえる自賠責基準の死亡慰謝料について解説します。
自賠責基準では①死亡本人の慰謝料と②遺族の慰謝料の2つがあります。一定の遺族は①と②の双方を請求することができます。
弁護士に依頼しないで、加害者の保険会社と交渉すると自賠責基準と同じか、近い金額での提示がなされることが多いです。
1 死亡本人の慰謝料は400万円
- 400万円(令和2年4月1日以降の事故の場合)
2 遺族の慰謝料は550~950万円
慰謝料を請求できる遺族は、被害者の父母、配偶者、子(胎児を含む)となります。これらの遺族の人数によって、金額が変わります。
- 1人の場合 550万円
- 2人の場合 650万円
- 3人以上の場合 750万円
※被害者に被扶養者がいる場合にはさらに200万円を加算します。
注意点1:被害者に重大な過失がある場合は2~5割減額
亡くなった被害者に重大な過失がある場合には、上記の慰謝料金額がそのままもらえるわけではありません。
被害者に重大な過失がある場合の減額割合は次の通りです。
- 7割未満 減額なし
- 7割以上8割未満 2割減額
- 8割以上9割未満 3割減額
- 9割以上10割未満 5割減額
なお、当然のことですが、被害者の過失が10割で、加害者が無過失の場合には慰謝料はもらえません。
注意点2:自賠責保険金上限額を超える場合は満額にならない
交通事故で死亡した場合には、慰謝料の他に逸失利益等を自賠責に請求することができます。
ところが、自賠責の死亡事故保険金の上限額は3,000万円なので、逸失利益の金額が高額になる事案では、逸失利益+慰謝料満額分の枠を確保できないことがあります。例えば、自賠基準の逸失利益が2,500万円で慰謝料が1,050万円の場合、合わせると3,550万円ですが、上限が3,000万円なので、3,000万円しかもらえません。
自賠責基準の死亡慰謝料の実例(50歳男性・妻・子2人)
妻(被扶養者)と子2人(独立)がいる50歳の男性が、交通事故で亡くなった場合についてみてみます。なお、青色信号の横断歩道歩行中に信号無視の車と衝突した事故で、被害者の過失は0と仮定します。
この場合の、自賠責基準の慰謝料は400万円(本人分)+750万円(遺族3人分)+200万円(扶養加算)=1,350万円となります。
死亡事故のご遺族の方は弁護士に相談を
このように、基本的には、自賠責基準よりも裁判基準の方が高額になりますが、過失割合の程度によっては実際にもらえる慰謝料の金額は自賠責基準の方が高額になることもあり得ます。
自賠責基準の慰謝料は弁護士に依頼しないでも獲得することができますが、裁判基準の慰謝料を獲得するには、基本的には弁護士に示談交渉を依頼するか裁判をするかなどしないと困難です。
ご遺族の方は、まずは、無料相談などで弁護士に相談して、当該事故の慰謝料を含めた損害賠償額が自賠責基準と裁判基準でどちらが高くなるか算定してもらいましょう。
その結果、自賠責基準の方が高額になるようでしたら自分で交渉し(もっとも弁護士費用と自分で交渉する労力を比較検討することも必要です)、裁判基準の方が高額になるようでしたら弁護士に依頼するのがおすすめです。
死亡事故の場合、遺族が自分自身で交渉した場合の金額と、弁護士が裁判基準で交渉した金額の差額が数千万円になることも珍しくないので、依頼するかどうかは別にして、相談だけは必ずした方が良いでしょう。