高次脳機能障害と後遺障害等級認定を受けるためのポイント
最終更新日:2024年11月13日/投稿日:2018年11月29日/執筆者弁護士豊田 友矢
交通事故で頭部に傷害を負ってから、新しいことが覚えられなくなったり、興奮しやすくなったり、集中力が持続しなくなったり、ご家族の性格が急に変わってしまったりなどといった症状がある場合、高次脳機能障害かもしれません。
高次脳機能障害は、外見上は健常な人とほとんど変わらない場合も多く、見えない障害と言われることもあります。
そのため、障害であることが見逃されて、適切な対応や、損害賠償の請求ができないといったことも少なくありません。
この記事では、高次脳機能障害の基本的な説明とともに、後遺障害等級認定のポイントを解説していきます。
高次脳機能障害とは
脳外傷による高次脳機能障害とは、交通事故で脳が損傷を受けたことによって、その後、一見完全に回復したように見えても、認知障害、行動障害、人格変化が起きてしまっている状態をいいます。
新しいことは思い出せないといった「記憶・記銘力障害」や、注意力や集中力の著しい低下が見られる「注意障害」、感情や行動のコントロールができなくなったり、物事に興味がなくなったり、また、事故前とは別人のように怒りっぽくなったり、幼稚になるなどというような人格・性格の変化が発生したりなどといった症状があらわれます。
高次脳機能障害は、日常生活もままならなくなることがある、重い後遺症です。損害賠償請求を行うための判断能力が失われることもあります。また、半身の運動麻痺や起立・歩行の不安定などの神経症状を伴うこともあります 。
高次脳機能の障害の原因は、急な衝撃により髄液に浮かんでいる脳に加速度が加わり、神経繊維(軸索)同士のネットワークが広範囲に切断されてしまうことであると言われています。
目に見えにくい障害であるということもあり、事故との関係を見逃しやすいという特徴があります。
高次機能障害の後遺障害等級
高次脳機能障害の等級認定の基本的な考え方
高次脳機能障害は、CTやMRIなどの画像では直接確認できないこともあり、その後遺障害等級認定は、困難を伴います。
平成13年1月からは、自賠責保険の後遺障害認 定において、高次脳機能障害に関する専門審査制度 が導入され、「神経系統の機能又は精神の障害」の 系列における1級から9級のいずれかで認定するものとされました。
高次脳機能障害の判断に当たっては、以下の4つが基本的な目安になります。
- ①事故により頭部に外傷を生じたこと
- ②受傷後一定期間の意識障害が継続したこと
- ③意識回復後、認知障害及び人格変性が生じていること
- ④交通事故によって受けた外傷による脳の受傷を裏付ける画像検査結果があること
高次脳機能障害で認定されうる等級は、常時介護を要するものが1級、随時介護を要するものが2級とされるほか、3級、5級、7級または9級です。
高次脳機能障害の等級認定は、認定が困難なケースとして「特定事案」と扱われ、通常の等級認定とは異なり、弁護士や専門医などで構成される「自賠責保険(共済)審査会」において、審査が行われます。
認定基準
「脳外傷による高次脳機能障害相談マニュアル」(財団法人日弁連交通事故相談センター本部)によると、各等級の認定基準の補足的な考え方は、以下のとおりです。
1級1号:「神経系統の機能又は精神に著しい陣害を残し、常に介護を要するもの」
補足的な考え方:「身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの」
2級:「神経系統の機能又は精神に著しい陣害を残し、随時介護を要するもの」
補足的な考え方:につき「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」
3級:「神経系統の機能又は輔神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
補足的な考え方:「自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」
5級:「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
補足的な考え方:「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」
7級:「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に労務に服することができないもの」
補足的な考え方:「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」
9級:「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
補足的な考え方:「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」
等級認定のポイント
高次脳機能障害の認定を獲得するためには、CT や MRI などの画像を検査資料が重要な判断要素となります。
そのため、事故発生の直後から症状固定までの画像検査の結果を資料として提出することが重要です。
また、高次脳機能障害の認定にあたっては、事故の前と後とで被害者の日常生活状況などが具体的にどのように変化しているかということも重要な要素です。 被害者を周囲のご家族が、被害者の症状やその変化を具体的に示すことが大切です。