紛争処理センターの利用を保険会社は嫌がる?拒否できる?
最終更新日:2024年11月2日/投稿日:2024年11月2日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
紛争処理センターを利用すると保険会社は嫌がるのか?
仕事が増えるから嫌がられる?
交通事故の示談交渉がまとまらない場合に、紛争処理センターへ申立を行なうことを、保険会社の担当者が嫌がることはあり得るでしょう。
なぜかというと、紛争処理を利用すると、保険会社の担当者自身が遠方にある紛争処理センターまで出向かないといけなくなったり、反論のための書面・資料を自分で作成する必要が出たり、とにかく仕事が増えるからです。
他方で、裁判を提起した場合には、保険会社の担当者は弁護士に仕事を任せれば済むので、仕事が増えることはないからです。つまり担当者としては、裁判にしてもらった方が、仕事が増えないで済むからです。
解決できるならむしろ喜ばしい?
もっとも、保険会社の担当者の仕事は、示談を成立させて解決することなので、通常の話し合いでは全く拉致の空かない案件が長期化してしまうよりは、むしろ紛争処理センターに持ち込んでもらったほうが楽だと考えることもあるかと思います。
特に、事故の被害者が、裁判にしても明らかに認められないような主張をしているため、示談ができずに担当者の負担になっている場合には、むしろ紛争処理センターで被害者にそのことを理解してもらう方が、保険会社にとっても良いこともあるでしょう。
慰謝料の金額が上がっても嫌がられない?
なお、紛争処理センターを利用すると、特に慰謝料については保険会社の支払う金額が上がることが多いのですが、保険会社の担当者としては保険会社が適正と認める金額を支払って事件を解決できれば良く、別に担当者のお金で払うわけではないため、慰謝料の金額が上がること自体を嫌がることはまずないと言って良いでしょう。
例えば、通常の示談交渉の時点では、弁護士を入れていない被害者からなんと言われても慰謝料を増額できない(弁護士基準ベースにはできない)場合であっても、紛争処理センターを利用してくれれば保険会社としては弁護士基準での支払いが可能になることが多いので、担当者としても嫌がることなく、増額した慰謝料を払ってくれることがあるでしょう。
紛争処理センターの利用を保険会社は拒否できるのか?
交通事故の被害者が紛争処理センターを利用すること自体を保険会社が拒否することはできません。
ですので、紛争処理センターを利用したければ、保険会社の了承をとることなく申立てを行なって構いません。
ただし、裁判で白黒つける方が良いケースでは、保険会社は紛争処理センターに対して訴訟移行希望を出すことができます。
このとき、紛争処理センター側としても訴訟への移行が妥当だと判断すれば、あっ旋や裁定は行なわれずに、手続が終了してしまいます。結果、被害者としては、裁判を起こさざるを得なくなります。
事故状況に大きな争いがある案件(例えば信号をお互いが青と言っている場合など)や、医学的な争点がある案件(自賠責の認定した後遺障害等級を争う場合など)は、裁判で証拠を提出した上で、時間をかけて判断した方が良いとされることがあります。
あっ旋案を保険会社は拒否できる
紛争処理センターで手続行なう場合、8割くらいの案件は、和解あっ旋段階で示談が成立して終了します。
【参照:●】
このあっ旋段階では、事故の被害者と保険会社の双方の主張を考慮した上で、センターの委員があっ旋案を提示してくれます。
このあっ旋案を被害者側と保険会社側の双方が了承すれば、示談が成立します。
どちらか一方が拒否すれば、示談は成立せず、和解あっ旋手続は終了となります。このあっ旋案については、保険会社側も拒否することができますし、実際に拒否することも珍しくはありません。
審査会の裁定結果を保険会社は拒否できない
和解あっ旋で示談が成立しなかった場合、審査手続が行なわれるのが通常です。
この審査手続では、審査会(元裁判官、弁護士、学者などで構成)によって、裁定という結果が出ます。
この裁定の結果は被害者側は拒否することができるのですが、保険会社側は拒否できないことになっています。
【引用】公益財団法人交通事故紛争処理センター 利用規定22項(裁定の拘束力)申立人は、原則として裁定に拘束されませんが、センターとの協定等がある保険会 社等は裁定を尊重することになっています。
また、交通事故紛争処理センターのウェブサイト上にも、「なお、保険会社等は審査会の裁定を尊重することになっており、被害者が裁定に同意した場合は、和解が成立することになります。」とされています。
【参照:】