「交通事故治療に健康保険が使えない」は嘘?使うデメリットとメリット
最終更新日:2024年10月19日/投稿日:2024年10月19日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
「交通事故で健康保険が使えない」は嘘、本当は使用可能
交通事故による怪我の治療には健康保険を利用できないのでは?と思われている方は多いようです。
しかし、交通事故で怪我にあった場合の治療にも、健康保険を利用することができます。実際に、厚生労働省も、交通事故で怪我をした場合であっても、健康保険を使用できるという見解を表明していますので、使えるというのが正解なのです。
【参照:厚生労働省、平成23年8月9日付「犯罪被害や自動車事故等による保険給付の取り扱いについて」】
病院によっては、「交通事故なので健康保険は使えません。」などと言われるケースもあるようです。もし、健康保険を使うメリットが大きい場合なのに、病院がどうしても健康保険の利用を認めない場合には、転院を検討しても良いかもしれません。ただし、後ほど説明しますが、労災保険が適用された場合など、別の原因で健康保険を使えないことはあります。
病気での利用とは違って「第三者行為」の届出が必要
交通事故による怪我の治療に健康保険を利用するためには、被害者が加入している健康保険組合、または管轄の協会けんぽ(国民健康保険の場合は、お住まいの役所の国民健康保険を担当する部署)に対して「第三者行為による傷病届」などの保険者が指定する必要書類を提出する必要があります。
また、健康保険を利用する場合には、医療機関に対して、まず、「健康保険を使いたい」ということを申し出ておく必要もあります。
事故の治療に健康保険を使うメリットが大きいケース
自分にも過失がある場合
自分にも過失がある場合には、過失割合に応じて過失相殺がされますので、最終的に、治療費の一部を自らが負担することになります。ほとんど場合、自分の過失分の治療費が慰謝料から引かれることになります。▶交通事故の治療費と過失割合|7対3や8対2ではどうなる?
健康保険を利用すれば、窓口負担は3割(小学生から70歳未満の場合)になります。過失相殺は、窓口負担分についてなされますので、健康保険を利用しない場合よりも、最終的な負担を少なくすることができます。
また、医療費は、それぞれの医療行為ごとに点数(診療報酬点数)が決まっており、1点あたりの単価を掛けることで金額が決まります。自由診療の1点の金額は、健康保険を利用した診療の2倍程度と高額である場合がほとんどですので、健康保険を利用すれば、治療費の総額がそもそも低額におさえることができます、
そのため、自分にも過失がある場合に健康保険を利用すれば、結果的に、利用しない場合に比べて自分の負担する金額を下げることができるのです。健康保険は、過失割合の大きさに関わらず利用できますので、このような場合には、健康保険を使った方よいです。
相手方が任意保険に加入していない場合
相手方が任意保険に加入していない場合(自賠責保険にのみ加入している場合)、相手方が治療費をすべて支払うことができる資力を有しているわけではないケースも非常に多いです。
その場合には、自賠責保険の保険金を請求するしかないことになりますが、自賠責保険において支払われる傷害に関する損害に対する保険金には、120万円という限度額があります。
健康保険を利用すれば、先ほどの説明のように、自由診療よりも治療費を低くおさえることができますので、120万円の枠を有効利用することが可能となります。治療費を120万円以内におさえることができれば、残りの枠を他の損害の補てんにあてることもできます。
なお、健康保険組合が負担した7割分の治療費が、自賠責保険に請求されることになりますが、被害者本人の治療費や慰謝料の方が優先して120万円の枠から払われます。
相手方の保険会社から治療費の支払いを打ち切られた場合
交通事故で怪我を負って通院をしている場合には、相手方の任意保険会社が、その治療費を直接医療機関に対して支払うという対応(一括対応)を行うことが多く、その場合には、被害者は、自分で治療費を支払う必要がありませんので、健康保険を利用する必要はありません。
しかし、保険会社は、ある程度の期間が経過すると、治療費の支払いを打ち切ると言ってくることがあります。保険会社から治療費を打ち切られても、まだ治療の必要がある場合には、一旦自分で治療費を立て替えて通院を継続せざるを得ないことになりますが、その際、健康保険を利用せず、全額自己負担で治療費を立て替えるとなると、かなりの高額な負担になってしまいます。
負担が大きいからといって治療をやめてしまえば、正当な損害賠償金を得られない結果となることもありますので、健康保険を利用して通院を継続すべきであるといえます。
なお、症状固定後になお症状の緩和のためにリハビリを継続するなど、事故の加害者には請求できない治療費については、私病として健康保険を利用して治療を継続することもできます。
事故の治療に健康保険を使うデメリットはある?
事故の治療に健康保険を使う法律上のデメリットはありません。交通事故の被害者の方の中には、なぜ相手の方が悪いのに自分の健康保険を使わないといけないのではと不満を感じる方もいます。
でも、健康保険を使うことにはさきほど説明したような大きなメリットがある上、法的なデメリットは一切ありません。
健康保険料は上がらない
まず、健康保険を使ったからといって、あなたが払う健康保険料が上がることはありません。
結局加害者にしっかり請求が行く
また、健康保険が負担した7割分を、相手が負担しなくて良くなるのではと誤解している方もいますが、そんなことはありません。健康保険組合がいったん負担した7割分の治療費(高齢者の場合は9割分)については、組合から事故の相手(または保険会社)に対して、求償という形でしっかりと請求が行きます。そのため、健康保険を使ったからといって、事故の加害者の治療費支払い義務がなくなるわけではないのです。
事実上ありうるデメリット
なお医療機関によっては、健康保険を利用すると、自賠責保険書式の後遺障害診断書、経過診断書などを書いてくれないケースがあり、これは事実上のデメリットになることもあります。
そのため、健康保険で治療をする際には、事前に自賠責書式の診断書を書いてもらえるか確認する方が安心です。
また、健康保険を利用すると、医療機関によっては、保険会社から直接病院へ治療費を払う方式がとれないことがあります。この場合、いったん被害者が病院の窓口で3割負担の治療費を払った上で、その領収書を相手の保険会社に提出して払ってもらう必要があります。
事故の治療に健康保険が使えないケース
交通事故の治療でも健康保険を使うことはできますが、次のようなケースでは、別の理由で利用することができませんので注意が必要です。
- 業務上または通勤途上での事故の場合
- 示談が成立した場合
- 故意の事故の場合
- 飲酒運転や無免許運転など法令違反の事故の場合
業務上または通勤途上での怪我の場合には、労災保険(労働者災害補償保険)で給付を受けることができるため、健康保険では給付は受けられません。
また、治療中に示談が成立した場合には、内容によってはそれ以降は、健康保険で治療を受けることができないことがあります。
交通事故で怪我をした場合には、弁護士にご相談ください
交通事故で怪我をした場合に利用できる可能性のある保険は、健康保険も含めて複数あります。利用すべき保険を間違えると、損をしてしまうこともありますので、どのようなケースでどの保険を使うのがよいのか、弁護士にご相談いただくと良いです。
交通事故で怪我をした場合の損害賠償請求の問題においては、どの保険を利用すべきなのかという点だけではなく、多くの点で、弁護士のアドバイスを受けた方が得になる可能性がありますので、交通事故にあって怪我をされたような場合には、お早めにご相談ください。