交通事故を弁護士に依頼すると費用倒れになってしまう場合とは?
目次
そもそも「費用倒れ」とはどのような場合か
交通事故の相談を受ける際に、相談者の方から「費用倒れ」にならないか聞かれることがあります。
このときに相談者が想定している「費用倒れ」には2つのパターンがありました。
費用倒れパターン①「弁護士費用」>「賠償金」
1つ目は、相手からもらえる賠償金よりも弁護士費用の方が高額となるために、賠償金から弁護士費用を差し引きすると赤字(マイナス)になってしまう場合です。
- 「弁護士費用」>「賠償金」
- 「賠償金」-「弁護士費用」=マイナス
例えば、弁護士に依頼して相手からもらえる示談金が20万円なのに対し、弁護士費用は30万円かかってしまう場合です。
この場合、手取りはマイナス10万円の赤字になってしまいます。
費用倒れパターン②「弁護士による増額金額」>「弁護士費用」
2つ目は、賠償金よりは弁護士費用の方が低額だが、弁護士を依頼したことによって増額したと考えられる金額よりも弁護士費用の方が高額である場合です。
- 「賠償金」>「弁護士費用」>「弁護士により増額したと考えられる金額」
例えば、弁護士に依頼しないでもらえる予定の示談金が30万円のときに、弁護士に依頼すると50万円まで増額できるが、弁護士費用は30万円かかる場合です。
この場合、純粋な意味での赤字(手元から弁護士費用を支払う)にはなりませんが、本来30万円手元に残るはずであった示談金が、弁護士費用を払った結果20万円になってしまいます。
パターン②の費用倒れはわかりにくい
パターン①の費用倒れは弁護士費用が持ち出しになるかどうかなので、わかりやすいと思います。
ところがパターン②の費用倒れは、保険会社から事前提示がない段階で弁護士に依頼する場合には、明確にはわかりません。
弁護士に依頼しないでも取得できる金額は、一般の方には予想するのが難しいからです。
そのため、パターン②の費用倒れにならないかどうかは、弁護士に相談した際に説明してもらう必要があります。
費用倒れになるのに弁護士に依頼するのはおすすめしない
たしかに、下記の記事で説明したように、交通事故事件を弁護士に依頼する理由や目的は金銭的なものだけではありません。労力を少なくしたり、精神的負担を軽くするという目的もあります。
それでも、金銭的な価値がもっとも大きな目的であることは間違いありません。
ですので、費用倒れになってまで弁護士に依頼するというのは全くおすすめできません。
パターン①のタイプの費用倒れの場合はもちろんですが、パターン②のタイプの費用倒れもできる限り避けた方が良いと思います。
弁護士費用特約があれば費用倒れになることはまずない
弁護士費用特約がある場合には、費用倒れになることはまずありません。
なぜかというと、弁護士費用特約の上限額(300万円のことが多い)の範囲内では、弁護士費用の負担はゼロ円になるからです。
また、弁護士費用特約の上限額を超えるような内容の事件は、そもそも重度後遺障害などで賠償金額が多額であることが通常です。
そのため、弁護士をいれたことにより増額できる金額も弁護士費用を大幅に上回ることが通常だからです。
もっとも、弁護士費用特約と依頼する弁護士の費用基準にずれがある場合には、弁護士費用特約の範囲内でも持ち出しが出ることがありますので注意しましょう。
これは次の記事で説明しました。
弁護士特約がなくても交通事故で費用倒れになりにくいケース
次のような場合は弁護士費用特約がなくても費用倒れにはなりにくいです
後遺障害等級認定がされているケース
後遺障害等級認定がされている場合には、弁護士費用分よりも弁護士が増額できる金額の方が大きいことが多く費用倒れになりにくいです。
特に12級かそれよりも重い後遺障害が認定されている場合には、増額できる金額も大きく、弁護士に依頼するメリットは大きいものとなります。
後遺障害等級が14級にとどまる場合でも、被害者が無過失であるか、1割~3割程度の過失であれば弁護士に依頼しても費用倒れにならないことが多いでしょう。
事故で骨折をしたケース
事故で骨折をした場合には、単なる打撲や捻挫よりも、弁護士が増額できる慰謝料の金額が大きくなることが多いです。
弁護士が入らない場合は、保険会社は単に通院日数で慰謝料を算定することがほとんどですが、弁護士基準では、骨折した場合はより高額の慰謝料算定を行うことができるからです。
また、骨折の程度・部位、治療経過によっては、疼痛、可動域制限等で後遺障害等級認定が下りる可能性もあります。
そのため、弁護士により増額できる金額が弁護士費用を超えることが多く、費用倒れになりにくいといえます。
事故でケガを負い入院したケース
入院したことによる慰謝料は、保険会社基準と弁護士基準との差額が大きいため、弁護士が増額できる余地が大きくなります。
また、事故で入院・手術をした場合には、比較的重傷の怪我を負っていることが多く、後遺障害等級認定がなされる可能性もあります。
そのため、弁護士が増額できる金額が、弁護士費用を大幅に上回ることが多いです。過失が少ない限り、費用倒れになるケースは少ないでしょう。
追突事故でむちうちになり半年間治療を継続した場合
通常の追突事故であれば、過失割合は100:0となります。
その上で約半年間通院している場合は、弁護士が一定金額を増額できるケースが多いです。
そして、弁護士費用の契約内容にもよりますが、その増額金額も弁護士費用を上回ることがそれなりにあると考えられます。
なお、被害者が、主婦・主夫のケースでは、通院期間が3、4ヶ月程度でも、弁護士費用を上回る増額を獲得できるケースもあります。
費用倒れになりやすいケース
ここでは逆に費用倒れになりやすいケースを説明します。
弁護士費用特約がないことが前提です。
被害者の過失が大きいケース
過失が大きい場合は、弁護士に依頼しないでも取得できる自賠責保険基準額の方が、弁護士基準の金額より高くなったり、そこまではいかなくともほぼ増額できないケースもあります。
どのくらいの過失割合だと、増額できないの聞かれることがありますが、損害額によって大きく変わってくるので何ともいえません。
ただ、大雑把にいうと、被害者の過失が7割以上ある場合は、増額が困難なことが多いでしょう。また後遺障害な残らない事案では3割~4割程度の過失でも増額できないことも多いでしょう。
軽傷で通院期間が短いケース
軽傷で通院期間が短い場合でも、過失が100:0でさえあれば、弁護士が示談金を増額すること自体はできることが多いです。
ところが、軽傷で通院期間が短い場合は、増額できる慰謝料の金額も少ないため、弁護士費用分まで増額できないケースが多いです。
一概には言えませんが、大雑把に言うと、打撲や捻挫で通院期間が4ヶ月以下の場合は、費用倒れになってしまうことも多いと思います。
複雑困難案件について裁判を行い敗訴した場合
費用倒れの可能性があっても、どうしても納得できないため裁判で戦いたいというケースもあります。
例えば、自賠責の後遺障害認定では非該当だが、実際には後遺障害が残ったとして裁判を提起する場合です。
具体的に挙げると、自賠責で後遺障害が認定されなかった高次脳機能障害やMTBI、脳脊髄液減少症等について、後遺障害の損害を求めて裁判をする場合などです。
この場合、裁判自体にかかる労力と、請求金額との関係から、相当程度の着手金がかかってしまうことになります。
そして、裁判の結果敗訴した場合には、賠償金が低額になるか、0円になることもあるため、着手金分が完全に持ち出しになってしまいます。
費用倒れを避けるために必要なこと
以上費用倒れとは何かということや、費用倒れになりにくいケース、費用倒れになりやすいケースをみてきました。
簡単にまとめると、次の通りです。
- 弁護士費用特約があれば費用倒れになることはまずないので心配する必要がない
- 弁護士費用特約がない場合は費用倒れになるかどうかはケースバイケース
- 自分の過失が少ないほど費用倒れになりにくい
- 重症で通院期間が長いほど費用倒れになりにくい
ということがいえます。
ただ、一番大事なことは、弁護士に相談する際に、費用倒れになる可能性があるかどうかをしっかりと聞いて、説明を受けることです。
交通事故に詳しい弁護士であれば、費用倒れになるかどうかを予測することができますので、是非ご相談下さい。