通院日数が少ないと交通事故慰謝料が減る?逆に弁護士基準で増額しやすいケース
最終更新日:2024年10月25日/投稿日:2022年9月26日/執筆者弁護士豊田 友矢
事故の慰謝料額は通院「日数」で決まるのでしょうか。
この記事では、通院日数が少ないと慰謝料が減ってしまう場合とその理由と対策など、通院日数と慰謝料の関係について説明します。
目次
通院日数が少ないと慰謝料が減るのはホント?
弁護士を入れない場合の慰謝料は通院日数で算定
通院日数が少ないと慰謝料が少なくなるというのは、弁護士を入れない場合には、本当のことが多いです。
弁護士なしで保険会社から提示される慰謝料の金額は、通院日数をベースに算定した自賠責基準で提示されることが多いからです。
具体的には、通院日数の2倍か通院期間のうち少ない方に4,300円をかけた金額が慰謝料になります。
つまり、通院頻度が週3以下の場合は、「通院日数×8,600円」が自賠責基準の慰謝料として提示されることになります。
そのため、通院日数が少ないほど、提示される慰謝料の金額も低くなるというワケです。
保険会社の提示額が通院日数×8,600円よりも低いケース
自賠責保険から出る慰謝料は、治療費などすべての賠償金と併せて120万円が限度となります。
そのため、例えば、治療費が60万円かかっている場合は、自賠責保険による慰謝料上限額は60万円になります。
任意保険会社は、自賠責保険の上限額を超えたとしても、自腹で慰謝料を支払います。ところが、任意保険が自腹で払う分の慰謝料額は自賠責基準とは異なる任意保険基準で算定されることも多いです。
このように自賠責保険の限度額を超えて、慰謝料が任意保険基準になった場合、通院日数×8,600円よりも提示される慰謝料の金額が少なくなることもあります。
通院の仕方で慰謝料が少なくなってしまう理由とは?
本来慰謝料というのは精神的苦痛を補填するためのものです。そのため、怪我による苦痛の程度が大きいほど慰謝料は高額になります。
ところが、この苦痛の大きさが、本人の申告以外ではわかりにくい症状があります。それが、痛みなどの神経症状です。特に骨折などがない場合や骨折があっても骨癒合した後の痛みなどの神経症状の大きさは客観的に判別がつきにくいです。
そのため、通院回数という客観的な指標をもとに精神的苦痛の大きさと慰謝料の金額を決めることも、やむを得ないといえるでしょう。
いくらなんでも慰謝料が低くなりすぎてしまうケース
症状が軽いことが理由で通院日数が少ないのであれば、それほど問題ありません。この場合は、慰謝料が低額となっても仕方ないですし、むしろそれが妥当な金額ともいえるからです。
ところが、実際には症状が重いにもかかわらず、何らかの理由によって通院日数が少なくなってしまう場合があります。この場合は、症状の程度と比較して十分な慰謝料をもらうことができなくなってしまうおそれがあります。
特に多い理由は、病院に行くのが面倒くさい、仕事で時間がなくていけない、仕事終わりには病院が開いていない、通っている病院がリハビリに積極的ではないなどです。
いくらこのような理由があるといっても、自賠責基準の慰謝料算定の際には一切考慮してもらえません。
弁護士基準の慰謝料は通院日数は関係ない?
通院「日数」ではなく通院「期間」
弁護士基準で慰謝料を算定するときには、実は通院実日数ではなくて、通院期間(事故日から最終通院日までの総期間)で決めるのが原則です。なぜかというと、通院期間で慰謝料を計算するのが裁判所の考え方だからです。
そのため、通院日数が少なくても、治療期間が長ければ慰謝料の金額は上がることになります。
ただし、通院が長期にわたる場合には、症状、治療内容、通院頻度を踏まえて、通院実日数の3倍(むちうちなど軽症の場合)または3.5倍(骨折など軽症以外の場合)を慰謝料算定のための通院期間とされることもあります。
通院期間ベースか実日数3倍or3.5倍ベースか
弁護士基準の慰謝料で、通院総期間ベースで慰謝料を算定するか、実日数ベースで慰謝料を算定するかについては、法律に規定があるわけではありません。また、過去の裁判例や、これまでの経験からいっても明確な運用基準があるわけでもありません。
原則として通院期間で算定するのは間違いないのですが、そもそも最近は実日数ベースにしろと争われるケースは少なくなっており、争われるのは法的に被害者に不利な点があるケースに限られています。
そのため、被害者に不利な点がある以上、慰謝料の算定方法が争いになり裁判や紛争処理センターの利用になった場合には、どちらになるかは判断がつきにくいです。
ただし、おおまかな目安のようなものはあります。それは次の通りです。
骨折があるかどうか
骨折がある場合には、骨癒合の状況について画像から判別がつきます。また骨癒合後の一般的なリハビリ期間もある程度想定がつきます。
そのため、骨折に伴う痛み・可動域制限などの症状について通院が継続している場合には、通院期間が相当長期化しない限り、原則として通院期間ベースで慰謝料が算定されることが多いです。
通院が不規則かどうか
通院が不規則な場合ほど、実日数ベースで計算される可能性が高まります。
例えば、1月は10回、2月は3回、3月は10回、4月に2回などと、通院頻度に不自然な変動がある場合には、通院期間ではなくて、実日数ベースになりやすいといえます。
通院が1年を超えているかどうか
赤い本には、「通院が長期にわたる場合には」実日数ベースにすると記載されています。この「長期」というのがどのくらいの期間を指すのかについては記載はありません。
この点、青い本には、「通院が長期化し、1年以上にわたり・・・」という記載があり、このことから長期というのは1年程度を意味するものと考えることもできます。ただし、「通院の長期化」と言えるかどうかは、本来怪我の種類・程度によって変わるものなので、1年というのはあくまで参考程度といえます。
症状の程度と推移はどうか
診断書等の医療記録から、症状の程度と推移が一定度わかります。症状が軽い、または、一定時期にかなり軽減している場合には、実日数ベースで算定される可能性が高まります。
治療内容と通院の理由
症状軽減のためのリハビリではなく、単なる経過観察や検査のために通院を継続している場合には、実日数ベースで算定される可能性が高まります。
これは先ほど説明した症状の程度と推移とも関わりますが、単に経過観察の通院しかない場合その期間は、症状がないか軽かったと思われるからです。
通院頻度の少なさや空白期間の有無
怪我と症状の種類からして通院頻度があまりにも少ない場合は、実日数ベースで算定される可能性が高まります。例えば、打撲やむちうちの痛みで通院しているにもかかわらず、月1回の通院が半年継続するなどのケースです。
また、通院に一程度の空白期間がある場合も実日数ベースになる可能性が高まります。
結局は総合考慮で判断者の裁量が大きい
これまでいろいろの考慮要素を見てきましたが、実際には慰謝料を実日数ベースにするかどうかは、裁判官や紛争処理センターの委員などの裁量がかなり大きいです。
これは、そもそも明確な基準がないこともありますが、それ以外にも慰謝料の額が争われるケースというのは、事故が原因となっている治療期間がどこまでかということも争われることも多いからです。
そして、この2つは考慮要素にかぶる部分があるため、全体的に見て妥当な結論になるように、慰謝料の金額を調整的に使われることもあります。
骨折なのに入院・通院日数ベースの慰謝料は低すぎる
骨折をして、入院・手術をして事故の場合には、さすがに保険会社も自賠責基準ではなくて、通院期間も加味した任意保険基準で慰謝料を算定することも多いです。
この任意保険基準も弁護士基準からしたらかなり低いことが多いのですが、骨折していても自賠責基準の通院日数ベースの慰謝料しか提示されていないケースすらあります。
骨折の手術後に月に1回程度の経過観察しかしない場合もありますが、この間に痛みがあるのであれば、通院回数ベースで慰謝料を算定するのは、あまりに金額が低すぎることになります。
そのため、骨折がある場合には、弁護士に依頼して弁護士基準の慰謝料にした方がよいことが多いです。
注意!通院すればするだけ慰謝料が増える訳ではない
ここまで、通院と慰謝料の還啓を説明してきました。このような説明をすると、通院すればするだけ慰謝料をもらえるのではと勘違いする方もいます。
ところが、慰謝料の根拠となる「通院日数」や「通院期間」というのは、実際に通院した日数や通院期間とは異なることもあります。
これは、自賠責基準の慰謝料にも弁護士基準の慰謝料にも当てはまります。そのため、「通院すればするだけ必ず慰謝料が増える」というのも間違いです。
慰謝料の根拠となる通院日数や通院期間というのは、事故と相当因果関係が認められるものに限られます。
例えば、150日通院したとしても、そのうちの100日しか慰謝料の根拠となる通院日数としては認められないこともあります。また、1年通院したとしても、その半分の6ヶ月しか慰謝料の根拠となる通院期間としては認められないこともあります。
どの程度の期間や日数が、慰謝料の根拠となる通院日数や通院期間になるかは、事故やケガの内容によってケースバイケースです。
通院回数ベースで慰謝料を提示されたら弁護士に相談を
これまでいろいろ見てきましたが、弁護士に依頼した場合には、慰謝料は通院日数ではなくて通院期間で算定して請求するのが原則です。
そのため、治療期間は長いのに、実際の通院日数が少ないときに、通院日数×8,600円の慰謝料しか提示されていない場合、弁護士に依頼することにより、逆に慰謝料をかなり増額できる可能性が高いです。
このように、通院日数ベースで慰謝料が提示されている場合には、示談に応じる前に弁護士基準の適正な慰謝料額を弁護士にご相談いただければと思います。