物損事故から人身に変更されたら加害者側はどうなる?警察から連絡は?
最終更新日:2024年9月30日/投稿日:2022年7月26日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
物損事故から人身に変更されたら加害者側はどうなる?
物損事故から人身事故に変更されると、加害者側には、①刑事処分(罰金などの刑罰)を受ける可能性がある、②行政処分(違反点数の加算)を受ける、③実況見分や取り調べに対応する必要があるなどの影響があります。
以下、①~③について解説します。
刑事処分(罰金などの刑罰)を受ける可能性がある
物損事故のままで加害者が刑事処分を受けることは、基本的にはありません。ところが、人身事故に変更されると、怪我の程度や過失の悪質さによっては、加害者は起訴されて、罰金などの刑罰を受ける可能性があります。
行政処分(違反点数の加算)を受ける
物損事故のままで加害者が行政処分(違反点数の加算)を受けることは、基本的にありません(信号無視、飲酒運転、当て逃げなどは別ですが)。
ところが、人身事故に変更されると、加害者側には行政処分として違反点数の加算がされます。正確ではないですが、違反点数の加算を「持ち点から点数が引かれる」と言う人もいます。点数の加算により、免停や免許取消になる可能性もあります。この結果、ドライバーなどの仕事をしている人は、仕事を辞めざるを得なくなったり、解雇される可能性もあります。
なお、通常は、罰金などの刑罰が決まるよりも先に、違反点数の加算が行なわれます。
実況見分立ち会いや取り調べの対応をする必要
物損事故のままであれば、事故直後に警察を呼んで対応すれば、加害者が後日警察から呼び出されることは基本的にありません。
ところが、人身事故に変更されると、加害者側も実況見分や取り調べのためにその事故を担当している警察署まで赴く必要があります。旅行中や出張中に事故を起こしたために事故現場が自宅遠い場合には、遠方まで赴くことになります。
人身に切り替えられると警察から連絡がくる
事故の被害者が、警察へ診断書を提出して物損事故から人身事故への切り替えを要望した場合には、警察から加害者側へ連絡があります。
警察がなぜ加害者へ連絡するのかというと、人身事故へ切り替えられた場合、先ほど説明したとおり、事故現場で加害者立ち会いの下に実況見分を行なったり、警察署で取り調べを受けたりする必要が出てくるからです。
警察から連絡があったら、日程調整をした上で、決められた日時に事故を担当している警察署まで赴く必要があります。
被害者からの切り替えの連絡を拒否すると?
被害者が人身事故に切り替えるために警察に連絡した場合、警察から被害者に対して直接加害者と連絡をとって日程調整するように指示する場合があります。▶物損事故から人身事故に切り替えるデメリットを弁護士が解説
この場合、被害者から直接加害者へ、人身事故に切り替えることにしたから警察署に来てほしいと連絡してくることもあります。また、加害者の加入する保険会社を通じて連絡してくることもあります。
このとき、加害者が被害者からの連絡を無視したり、警察署への出頭を拒否したりすることがあります。しかしながら、加害者側が警察署への出頭を拒否したことは、被害者から警察に伝わりますし、その場合、いくら被害者からの連絡を無視していても人身事故に切り替えられてしまうことがほとんどでしょう。
人身事故への切り替えは、被害者と加害者が話し合って決める様なものではなく、診断書さえ被害者から提出されれば、警察が一存で決めることができるからです。
人身に切り替えられると取り下げは困難
いったん人身事故として受け付けられれば、その後に加害者が被害者に取下を頼んでも、警察で物損事故扱いに戻してもらうことは基本的にできません。
やはり、事故で怪我したかどうかというのは、被害者と加害者が話し合いで決めるようなものではないからです。怪我したという証拠である診断書が警察に提出された以上、警察としては人身事故として扱わざるをえません。
また、そもそも人身事故への切り替えが、被害者の希望によるものではないこともあります。例えば、救急搬送されており怪我をしていることが明らかな場合には、むしろ警察の方から被害者へ連絡を取り、診断書を提出するように促していることもあります。
このように警察の方から積極的に人身事故として取り扱おうとしているケースでは、被害者に人身に切り替えない様に頼んでもあまり意味はありません。
物損or人損はいつ決まる?切り替えの期限は?
期限はないが軽症なら時間が経つと警察で受け付けないことも
物損事故扱いで処理されているケースで、物損事故なのか人身事故になるのかはいつ決まるのでしょうか。加害者側から見た場合、被害者はいつまで警察に人身事故に切り替えるよう言えるのでしょうか?
まず、物損事故から人身に切り替えができる法律上の期限はありません。そのため、事故から何日経っても、人身事故に切り替えられる可能性は残ります。
ただし、実際には事故から時間が経ってしまうと、警察が人身切り替えに応じてくれないことが多いです。また、そもそも事故から時間が経ってから通院を開始した場合は、事故による怪我の証明が困難になるため、人身事故であると認められない可能性もあります。
そのため、特に軽症で、事故時点では怪我をしている様子もなかったようなケースでは事故から数ヶ月経てば、人身事故に切り替えられる可能性は減ります。また、被害者と損害賠償について示談している場合も、その後に人身に切り替えるよう言われることはまずないでしょう。
事故から半年以上経っても人身に切り替わるケースも
ただし、時間が経っても人身事故に切り替わるケースはあります。それは、怪我の程度が大きいけど何らかの理由で物損事故扱いになっているケースです。
例えば、事故で骨折し、入院もしたのに、被害者の加害者に対する温情から物損事故扱いにすることを強く希望していたケース(加害者の仕事で運転が必要な場合や加害者とご近所さんの場合など)、双方が怪我をして過失があることから自分への行政処分を避けるために双方が物損事故扱いすることを強く希望していたケースなどです。
このような場合、怪我をしていることが明らかでも、警察では物損事故扱いになっていることがあります。もっとも、これらの場合では、怪我をしていること、しかも重傷であることは明らかなので、例えば事故から半年、1年経ったとしても、怪我をした被害者が警察に人身切り替えを要望すれば、警察としては応じざるを得ないことが多いでしょう。そのため、事故から半年、1年経っても人身事故に切り替わる可能性はゼロではないのです。