全損で請求できる買い替え諸費用とその相場|10対0のもらい事故でも数万円程度?
最終更新日:2024年10月16日/投稿日:2022年6月29日/執筆者弁護士豊田 友矢
目次
全損のとき請求できる買替諸費用とは?
買替諸費用とは、事故車が全損(経済的全損の場合も含む)になって買い替える場合に、買替に伴い必要となる費用のことをいいます。登録手続関係費ともいいます。
交通事故で車が全損になった場合には、修理費の代わりに車両時価額の賠償を受けられます。ところが、車を買い替える際には、車両本体価格に加えて、各種諸費用も必要になります。これが買替諸費用です。
これらの諸費用の内、一定のものについては、加害者の保険会社へ請求することができます。
日常用語の買い替え費用とは違う!10対0でも相場は数万円程度
事故で車が全損になってしまった被害者の方から、全損の場合には買い替え費用が請求できますかと質問を受けることがあります。このときに使われている「買い替え費用」という言葉は、新たな車の購入時にかかる全ての代金(車本体喪服務)を意味していることが多いです。
ところが、事故の加害者に請求できる「買替諸費用」というのは、日常用語の「買い替え費用」とは違い、車の本体価格は含みませんし、実際にかかる諸費用部分のうちの一部にすぎません。
感覚的には、全損時の時価賠償にプラスアルファのおまけのような金額にしかならないことが多いです。例えば、仮に過失割合10対0のもらい事故であっても、もらえる買替諸費用の相場は数万円から多くても10万円程度にしかならないことがほとんどです。
買替諸費用として認められるもの
消費税相当額(買替車両分)
理論的には、事故車両の時価額と同一価格の車両を購入する場合に必要となる消費税相当額が買替諸費用として認められます。
ただし、実際には、車両時価額算定の際に、既に消費税額を加算して時価額に反映済みのことがほとんどで、その場合には、別途買替諸費用としての消費税相当額ははもらえません。
自動車取得税(買替車両分)
従来、買替諸費用の一部として認められていましたが、自動車取得税自体が令和元年10月に廃止されたため、現在は発生しません。
ただし、代わりに環境性能割が導入されたため、燃費性能によって環境性能割相当分が買替諸費用として認められる可能性があります。
リサイクル預託金(買替車両分)
リサイクル預託金は、買替諸費用として認められます。
検査登録法定費用(買替車両分)
検査登録法定費用は、買替諸費用として認められます。
車庫証明法定費用(買替車両分)
車庫証明法定費用は、買替諸費用として認められます。
業者報酬部分(買替車両分)
登録手数料、車庫証明手数料、納車費用等のディーラー等の業者へ支払う報酬は、買替諸費用として認められる傾向があります。
多くのケースでは、加害者へ請求できる買替諸費用のうち、この業者報酬部分がもっとも高額になります。ただし、報酬部分の金額に相当性が認められる場合に限ります。
自動車重量税の未経過分(事故車両分)
事故車両の自動車重量税の未経過分は、争いがありますが、買替諸費用として認められる可能性もあります。
ただし、自動車リサイクル法に基づき適正に解体し永久抹消登録した場合には、自動車税は還付されることになっているので、買替諸費用としては認められません。
廃車費用(事故車両分)
事故車両の廃車手続にかかる法定費用は、買替諸費用として認められます。
廃車手続代行手数料として業者に払う報酬は、金額が相当である限り、買替諸費用として認められます。
車両解体にかかる費用は、買替諸費用として認められます。
残存車検費用(事故車両分)
事故車両の車検残存費用は、買替諸費用と呼ぶかどうかは別として、損害賠償の対象となる場合もあります。
ただし、既に事故車両の時価額に反映されている場合は、別途賠償の対象になることはありません。
買替換諸費用として認められないもの
以下のような費用は、未経過分に還付制度があるなどの理由から、買替諸費用としては認められません。
- 自賠責保険料(事故車両分・買替車両分)
- 自動車税・軽自動車税(買替車両分)
- 自動車重量税(買替車両分)
全損の場合に買替諸費用を認めた裁判例を紹介
全損の場合に買替諸費用を認めた裁判例をいくつか紹介します。裁判例で認められた買替諸費用の内訳から、大体の相場がわかるかと思います。
東京地裁令和元年9月4日判決:合計107,900円
- 検査登録手続費用:5,900円
- 検査登録手続代行費用:49,450円
- 車庫証明費用:2,600円
- 車庫証明代行費用:18,350円
- 納車費用:11,200円
- リサイクル費用:20,400円
神戸地裁平成28年10月26日判決:合計59,410円
- 検査登録届出費用:3,240円
- 検査登録届出代行費用:15,750円
- 車庫証明費用:2,700円
- 車庫証明代行費用:5,250円
- リサイクル預託金:12,470円
- 駐車場使用承諾証明作成費用:20,000円
買替諸費用の請求方法と保険会社の運用
車両が全損になったときに、保険会社の方から提示される金額は車両時価額のみであることがほとんどです。
実務上、保険会社の方から買替諸費用を提示してくれることはまずないといっても良いでしょう。
そのため、買替諸費用は、被害者の方から積極的に保険会社に対して、金額と証拠を示して請求する必要があります。
また、買替諸費用の金額は、被害者の方で証明しないといけないので、実際には被害者が車両を買い換えたときの請求明細などを保険会社へ提出することになります。
買替諸費用はそれほど大きな金額にならないこともあり、請求できることを知っていても請求しない被害者や、そもそも請求できることを知らない被害者も多いです。そのため、買替諸費用を請求しても、保険会社の担当者によっては一切認めてくれないこともあります。
その場合は、弁護士による示談交渉や、訴訟などの法的手続で請求する必要があります。
買い替えないで買替諸費用を請求できるのか?
全損になっても車を買い替えないこともあります。▶経済的全損だと泣き寝入り?修理したいのに全損扱いはおかしい?▶10対0の事故で車をぶつけられた!修理費or買い替え費用のどっちを請求の記事を参照
そして、車を買い替えない場合にも買替諸費用を請求できるかどうかが争いになることがあります。
この点、東京地裁令和4年1月21日判決(自保2120号125頁)では、「現に買替えがされていない以上は買替諸費用が損害として発生することはない旨主張するが、車両が損壊し、経済的全損に至っていることからすれば、上記買替諸費用が損害として発生したというべきである。」とされています。同様に買い換えないまま買替諸費用を認めた裁判例として、東京地裁平成27年8月4日判決があります。
経済的全損と買替諸費用に関する注意点
先ほど説明したように、実務上、保険会社の側から率先して買替諸費用を認めてくれることはありません。
そのため、「車両時価額」と「修理費」だけを比較して修理費の方が高い場合、保険会社は経済的全損と判断してきます。
しかしながら、厳密に言うと、法的には「車両時価額+買替諸費用」よりも「修理費」が高い場合に経済的全損と判断されます。
そうすると、車両時価額50万円で修理費用が53万円の場合、買替諸費用が5万円であれば、「車両時価額50万円+買替諸費用5万円」の55万円よりも修理費用53万円の方が低いので、本来は経済的全損ではないことになります。
したがって、この場合は時価額50万円+買替諸費用5万円の合計55万円がもらえるのではなく、修理費の53万円がもらえるにすぎません。