- 株式は離婚時に財産分与の対象になる
- 株式の財産分与で重要な基準時と評価方法
- 財産分与の対象外の株式とは?特有財産について
株式は離婚時に財産分与の対象になる
- 株式・投資信託・ビットコインなど全て財産分与の対象
- 新旧NISA(積立NISA含む)も財産分与の対象
- 離婚したらNISAはどうなる?
株式・投資信託・ビットコインなど全て財産分与の対象
株式は、離婚の際、預貯金と同じように財産分与の対象になります
また、株式だけでなく、投資信託、ETF、債券、暗号資産(ビットコイン等)、FX証拠金などの金融資産全般が、財産分与の対象になります。
夫婦が稼いだ給料などが元手になっている限り、貯金のままにせず、投資資金に回していたとしても、財産分与からは逃れられないということです。
新旧NISA(積立NISA含む)も財産分与の対象
新NISA口座内の株式や投資信託も、財産分与の対象になります。
成長投資枠でもつみたて枠でも同様です。もちろん、旧NISA口座(一般NISA・積立NISA)で、過去に購入した株式・投資信託などについても、財産分与の対象になります。
NISAという制度は、単に非課税の恩恵を受けられる口座に過ぎず、財産分与の対象から外す理由は一切ないからです。【参照:金融庁のサイトより「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」】
ちなみに、iDeCoについては、▶iDeCo(個人型確定拠出年金)は離婚時に財産分与の対象となるか?の記事で解説しています。
離婚したらNISAはどうなる?
ちなみに、NISA口座に株式や投資信託がある状態で離婚したら、どうなるのでしょうか?
まず、株式や投資信託が財産分与対象になる場合、必ずしも、株式や投資信託をそのまま現物で分けたり、売却したりする必要があるわけではありません。
ですので、財産分与相当額を、他の預貯金やNISA口座以外の株式を売却した現金で支払えるのであれば、NISA口座内の株式・投資信託はそのままにしておいてかまいません。
逆に言えば、財産分与相当額を支払うための資産が他にない場合には、NISA口座内の株式等を売却して、その代金で財産分与を支払う必要があります。
なお、制度上、NISA口座の株式等をそのまま配偶者のNISA口座に移すことはできないとされています。
株式の財産分与で重要な基準時と評価方法
- 基準時:財産分与対象の株式は別居時点のものだけ
- 株式の評価方法:離婚時点の株価を使うが原則
- 株価大変動やデイトレードなど例外的な場合
- 実現利益や含み益は財産分与の対象か?
- 利益に対する税金分は考慮する?
- 非上場株式の評価額はどうする?
基準時:財産分与対象の株式は別居時点のものだけ
財産分与の対象になる株式は、別居時点(別居しない場合は離婚時点)の株式です。
別居後に、夫婦の一方が株式を購入したとしても、それは財産分与の対象にはなりません。
このような、財産分与の対象となる時点を「財産分与の基準時」といいます。この基準時については、▶財産分与の基準時|いつの時点の財産を分けるのか?の記事で詳しく解説しています。
株式の評価方法:離婚時点の株価を使うが原則
財産分与の株式の評価は、財産分与をする時点、つまり離婚時点の株価(時価評価額)を使います。
財産分与の対象になるのは別居時点での株式ですが、その株式の評価は別居時点の株価を使うわけではないので注意しましょう。
例えば、別居時点でのA社株式の時価評価額が100万円だったのが、別居後後株価が値上がりして、離婚時点では150万円になった場合、財産分与の計算では株式の評価額は100万円になります。
その結果、A社の株式を財産分与する場合、その額は150万円の2分の1の75万円ということになります。
株価が100万円の時に離婚していれば財産分与額は50万円であったのが、株価上昇とともに財産分与額も上がったのです。
株価大変動やデイトレードなど例外的な場合
別居時点と離婚時点の株価が大幅に変動している場合などは、公平の観点から、例外的にいくつかの時点の平均値を評価額とする場合もあります。
また、いわゆるデイトレード、スキャルピング、スイングトレードといわれるような短期で売買を頻繁に繰り返す投資方法を取っている場合、別居時点と離婚時点の保有銘柄、総評価額が全く異なることもあります。
このような場合も、公平の観点から、例外的に別居時点の評価額やいくつかの時点の平均額などを用いることもあり得るでしょう。
実現利益や含み益は財産分与の対象か?
株式や投資信託の利益(実現利益・含み益)も財産分与の対象になります。
まず、実現利益については、財産分与の基準時点(別居時など)で、既に利益が形を変えた預貯金等になっているはずなので、当然財産分与の対象になります。
離婚時点でも含み益のある株式を売却しない場合であっても、財産分与のための株価の評価は、取得額ではなく財産分与時の株価(時価評価額)を使うので、計算上、含み益も財産分与の対象に入ることになります。
利益に対する税金分は考慮する?
株式や投資信託などで利益が出ている場合、保有している側から財産分与の評価の際に、利益にかかる税金を引いてほしいと言われることがあります。
実際に株式等を売却して、課税が現実化したかによって、結論が変わってきます。
別居時点で売却済みの場合
別居前に株式を売却していれば、別居時点には預貯金等になっているはずなので、その預貯金が財産分与の対象になります。
株式の取引口座は、源泉徴収ありの口座にしている人が多いかと思いますで、含み益に対する税金について既に源泉徴収された手取り額が財産分与の対象になります。つまり、税金分は考慮済みということになります。
別居後離婚前に売却済みの場合
別居時点で保有していた株式を、別居後かつ離婚前に売却した場合には、その売却時に源泉徴収された税金控除後の手取額を財産分与の評価額とするのが通常です。つまり、税金分を考慮するのが原則ということになります。
売却しないまま離婚の場合
離婚時まで株式を売却しないまま財産分与をする場合は、仮に含み益があったとしても、将来売却した際に控除される税金分は差し引かないのが通常です。
このように、税金分を考慮しない方が原則ということになります。ただし、含み益があまりに大きく、想定される税金が相当高額な場合には、その分を考慮して評価することもあり得るでしょう。
非上場株式の評価額はどうする?
これまでの株価の評価に関する説明は上場株式を前提にしていましたが、非上場株式については、そもそも市場の株価がありません。
そのため、①純資産方式、②配当還元方式、③類似業種比準方式、④収益還元方式などの方法で、株式の評価額を出すことになります。
離婚の財産分与で問題になることが多いのは同族会社でかつ小会社の場合ですが、このときは①の純資産方式を使うことがほとんどです。
この場合、会社の純資産額から債務と法人税などを控除した純資産価額を発行済み株式数で除した額を株式の評価額とします。
なお、非上場の株式の評価額の争いが大きい場合は、株式を現物分割する方法によって、解決することもあります。
財産分与の対象外の株式とは?特有財産について
- 特有財産の株式は財産分与対象外
- 婚姻中に株式の売買を繰り返している場合
- 株式の特有財産の証明は実際には難しい理由
- 証明に失敗しても分与割合は変えられる
- 財産分与から逃れるために株があるのを隠したら・・・
特有財産の株式は財産分与対象外
結婚前に購入した株式は、夫婦で協力して貯めたものとはいえないので、財産分与の対象になりません。
このように結婚前に購入した株式など、夫婦の協力とは無関係の財産を特有財産といいます。この特有財産については、▶離婚時に財産分与の対象にならないものとは?の記事で詳しく解説しています。
また、特有財産で購入したものも特有財産です。
なので、結婚前に購入した株式を売却し、その売却代金で別の株式を購入したら、新たに購入した株式も特有財産になり、これも財産分与の対象になりません。
婚姻中に株式の売買を繰り返している場合
このように、理論的には、特有財産である結婚前の株式を売却したお金で、結婚後に新たな株式を購入した場合には、新たに購入した株式は特有財産となり、財産分与の対象にはなりません。
ところが、婚姻中に株式の売買を繰り返している場合、実際には特有財産の証明が困難になることがほとんどです。
そのため、特有財産の証明に失敗し、結局は基準時(別居時点など)に保有している株式の全てが財産分与の対象になってしまうことが多いのです。
株式の特有財産の証明は実際には難しい理由
株式の特有財産の証明が難しいのは、以下のような事情があるからです。
結婚前に購入した株式の売却代金だけを投資資金にしていれば良いのですが、実際には、結婚生活中に追加で証券口座に入金し、別の株式を購入することが多いです。
この新たな入金が、結婚後に稼いだ給料によりなされている場合、新たに購入した株式は、特有財産で購入した分と結婚後の給料で購入した分が混在することになります。そして、売買を繰り返すと、株価は常に変動することもあり、もはや特有財産で購入した割合は不明となります。
特有財産であると主張する方が、特有財産分を証明しないといけないのですが、このような場合は特有財産の割合を証明できないので、結局全ての株式が財産分与の対象となってしまいます。
証明に失敗しても分与割合は変えられる
特有財産の証明ができないからといって、必ず離婚時の株式を財産分与で半分に分けるワケではありません。さすがに、それは不公平でしょう。
そこで、特有財産の割合は不明ではあるものの、株式の一部を特有財産で購入したこと自体は明らかである場合には、全ての株式を財産分与の対象とした上で、株式の財産分与の割合を2分の1から特有財産を支出した側に有利に修正することがあります。
例えば、結婚前に夫が1,000万円の株を持っていたところ、結婚後に給料も入金した上で株式の売買を繰り返し、離婚時点では評価額は3,000万円になっていたという場合です。
この場合、特有財産部分の証明ができず、3,000万円の株式全部が財産分与の対象になったとしても、その割合を夫6:妻4にして、夫から妻に1,200万円だけ財産分与するということもあり得るのです。
財産分与の割合全般については、▶離婚時の財産分与の割合は2分の1なの?変更できる場合とは?の記事で解説しています。
財産分与から逃れるために株があるのを隠したら・・・
「株式は特有財産だから財産分与しないで良いと思ったのに、特有財産の証明が難しそう・・・」
そんなとき、財産分与から逃れるために、貯金だけ開示し、株式や投資信託などがあることは隠す人がいます。
このような場合、預貯金の履歴から証券会社への送金が発覚したり、自宅に届く郵便物から証券会社に口座があることが発覚することがあります。
そこで、相手が証券口座の開示を拒否したとしても、離婚裁判などで裁判所を通じた調査嘱託を行なうことにより、株式等の財産を強制的に開示させることになります。
まとめ:株式と財産分与について
株式と財産分与についてのポイントをまとめると、次のとおりです。
- 株式も投資信託もNISAでも財産分与の対象
- 含み益も財産分与の対象
- 財産分与の計算上、株価は離婚時のものを使う
- 株式の特有財産の証明は難しい