財産分与

財産分与の基準時|いつの時点の財産を分けるのか?

いつの時点の財産を分けるのか?財産分与の基準時とは?

しばらく別居した後に離婚する夫婦は多いです。この場合、いつの時点の財産を分与するのでしょうか?

例えば、別居時点では夫婦の財産が100万円、別居して3年たって離婚したときには200万になっていた場合、財産分与の対象となるのは別居時点の100万なのか?それとも離婚時点の200万になるのでしょうか?

このとき、いつの時点の財産を分けるのかによって、もらえる財産または払わなければいけない財産の金額が変わってきます。

このような財産分与の対象を確定する時点のことを「財産分与の基準時」といいます。

財産分与の基準時は別居時点が原則!

財産分与の対象となるのは、夫婦が協力して築いた財産です。別居した場合には、通常、夫婦の協力関係はなくなったといえるでしょう。

ですので、財産分与の基準時は、実務では、原則として「別居」の時点とされています。

なお本来、「別居」という言葉は、「親と別居している」というように、単に家族が別々に住んでいる状態(同居の反意語)としても使われます。

これに対して、財産分与の基準時となる「別居」というのは、夫婦関係の悪化によって一緒に生活することが困難となって「別居」していることを指します。

つまり、単身赴任、留学、親の介護などで一時的に夫婦が別々に暮らしていても、それは財産分与の基準時となる「別居」とはいえません。

家庭内別居の場合は「別居」といえるの?

同居中に夫婦仲が悪化して、家庭内別居状態になることがあります。

家庭内別居というのは、一般的に、夫婦間の会話が一切ない、食事は別々、寝室も別々などのような状態です。

このようなとき、夫婦の一方から、家庭内「別居」も「別居」なのだから、家庭内別居を始めたときを、財産分与の基準時とすべきだと夫婦の一方から主張されることがあります。

ところが、結論から言うと、実務では家庭内別居の時点が、財産分与の基準時とされることは基本的にありません。

これは、家庭内別居中であっても、同じ家に住んでいる以上、住居、光熱費、生活雑費などにかかる費用は共同して支出しているのが通常であるため、少なくとも夫婦間に何らかの経済面での協力関係はあるからです。

夫婦が「協力して」築いた財産が、財産分与の対象と説明しましたが、ここで言う「協力」とは、別に仲良く協力している必要はないのです。

配偶者が家事や仕事をしなくなった場合はどうする?

配偶者が家事や仕事をしなくなった時点で、夫婦の「協力」関係がなくなったから、財産分与の基準時とすべきだと主張されることもあります。

「妻が家事をしなくなったから、その後の収入は自分一人の力で稼いだものだ」とか、「夫が仕事をしなくなった後に生活費で夫婦の財産が減少したのだから、減少する前の財産を分けるべきだ」などという主張です。

しかしながら、これらの場合も夫婦が同居して生活している以上は、何らかの経済面での協力関係にはあるといえるので、同居中の時点が財産分与の基準時とされることは、基本的にありません。

単身赴任中に離婚を申し出た場合はどうなる?

先ほど説明したように、単身赴任は財産分与の基準時となる「別居」ではありません。

そのため、単身赴任した後に、夫婦の仲が悪くなってそのまま離婚に至ったとしても、財産分与の基準時が単身赴任開始時点になることはありません。

では、このような場合、財産分与の基準時はいつになるのでしょうか?

一番多いのは、夫婦の一方が離婚調停を申し立てた日です。これは、遅くとも離婚調停を申した日には、夫婦の協力関係が解消していたといえるからです。

もちろん、それより前に夫婦間の協力関係が解消していることもありえますが、単身赴任中に夫婦関係が破綻した場合は、基準日として特定の日を決めにくいので、結局、明確である調停申立て日を使うことが多いです。

ただし、例えば、単身赴任中に夫婦仲が悪くなって、その後もともといた職場に異動して単身赴任をする必要がなくなったにもかかわらず、同居をしない場合などは、もとの職場に復帰した日を「別居」した日として、財産分与の基準時とすることもあります。

また、単身赴任中に夫婦の仲が悪くなった後、生活費のやりとりが一切なくなりそれぞれ別の財布で生活するようになった場合なども、そのときを基準時とすることもあり得ます。

別居と同居を繰り返している場合はどの時点?

夫婦間の仲が悪くなったり、仲直りしたりして、別居と同居を繰り返している場合は、原則として最後に別居した日を財産分与の基準時とします。

ただし、最後の別居よりも前の別居の期間が比較的長い場合には、基準時をずらしたり、財産分与の割合を変えたりすることもあり得るでしょう。

他方で、別居後に夫婦関係は破綻しているにもかかわらず、何らかの必要性により一時的に帰宅したに過ぎない場合などは、同居を再開したとは考えずに最初に別居した日を、財産分与の基準時とします。

同居したまま離婚調停を申し立てたときはどの時点?

同居したまま離婚調停を申し立てたときは、調停申立て日を基準日とすることが多いでしょう。

ただし、調停の話し合いでは、同居中に離婚調停をしている場合、離婚直前の日を基準時とすることもあります。

もう一つの基準時|財産をいつの時点で評価するのか

これまでみてきたのは、「いつの時点の財産を分けるのか」というものです。これは夫婦の財産の「精算の基準時」または「範囲の基準時」といいます。

これとは別に、「財産をいつの時点で評価するのか」という問題もあります。

これを夫婦の財産の「評価の基準時」といいます。

実は、この2つは、基準時が異なります。

「精算の基準時」は別居時ですが、「評価の基準時」は、原則として「財産を分けるとき(分割時)になります。

これがどういうことなのかを、以下で財産の種類別に見ていきます。

現金・預貯金の場合

現金・預貯金は、いつの時点でも1万円は1万円なので、別居時の残高がそのまま、財産分与の評価額となります。

株式などの有価証券の場合

上場企業の株式などは常に価格が変動します。例えば、同じA社の株式100株でも、別居時は100万円、離婚時には200万円ということもあります。

「評価の基準時」は別居時ではなく分割時なので、先ほどの例で言えば、株式は離婚時の200万円で評価することになります。

実際には、株式の評価額は、離婚調停成立前や離婚判決の直近に資料を出した時点の株価によることが多いです。

ただし、別居後から離婚までの間に株式が売却されているときは、売却時の源泉徴収後の手取額によるのが通常です。また、株式の売買を頻繁に繰り返しているときは、分割時の評価額を算定するのが複雑になるため、わかりやすい別居時の評価額で評価することもあります。

不動産・自動車の場合

不動産や自動車などは、時間とともに価格が変動します。自動車は時間とともに価値が下がるのが通常でしょう。不動産は戸建ての建物については時間とともに価値が下がるのが通常ですが、土地については価格が上がることもあります。マンションについては、時間とともに価格が下がることが通常ですが、上がることも珍しくありません。

例えば別居時点にマンションを売れば4000万円であったが、別居から3年たった離婚時点での査定額が3000万円である場合、財産分与評価額としては離婚時点(分割時点)の3000万円になります。

住宅ローンの場合

住宅ローンの残高は、別居時点の残高をそのまま利用します。

そのため、例えば、分割時点ではローンを完済済みであったとしても、別居時点でのローン残高が1000万円残っていたとしたら、分割時点の不動産の査定額が1000万円を超えない限り、不動産は価値がないものとして扱われることになります。

ただし、別居後に、住宅ローン債務者ではない夫または妻が住宅ローンを支払っている場合など、分割時の住宅ローン残高を評価額とすることもあります。例えば、別居後の夫名義の不動産に妻が住み続けて、夫名義の住宅ローンは妻の収入のみから支払をしていた場合などです。

退職金の場合

退職金は、別居時点の退職金見込額を利用することが多いです。

ただ、定年が近い場合には定年退職金から一定度割り引いた金額にすることや、別居後分割までの間に退職金が支給されている場合には、婚姻期間と退職金算定対象期間の割合から決めることもあります。

生命保険・学資保険の場合

生命保険・学資保険の場合は、別居時点の解約返戻金額を利用します。

保険会社から別居時点での解約返戻金額がわかる書面をもらって、金額を出すことになります。

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弁護士 豊田 友矢
千葉県船橋市の船橋シーアクト法律事務所の代表弁護士 離婚・不貞慰謝料・遺産相続・交通事故・中小企業法務等の相談を多数取り扱っている。