財産分与

共働き夫婦が離婚の財産分与をしない方法とは?別財布の場合は?

共働き夫婦が財産分与しない方法とは?

「別財布の共働き夫婦=財産分与しない」ではない!

正社員の夫と専業主婦の妻が典型的な夫婦であった時代は終わり、現在では、多くの夫婦が共働きです。

また、特に近年は、結婚後も夫婦の双方が正社員であることも多く、夫婦の収入が同じくらいあることは珍しくなく、妻の方が収入が高いこともあります。

このような共働きの夫婦では、夫婦が別財布で、それぞれの給料や貯金を自分名義で管理・貯蓄することも多いでしょう。

そして「別財布の共働きの夫婦」イコール「財産分与はしない」と考えている方もいるかもしれません。

ところが、いざ離婚となると、別財布の夫婦でも財産分与の問題がでてくるのです。

財布を別にする約束があってもダメな理由

結婚前の同棲中や、結婚してから夫婦でお金の管理方法について決めることがあります。

共働きの夫婦の場合、財布は別にして、共用の生活費分以外は稼いだ人が自由に使えると約束することもあるでしょう。

ところが、いくら夫婦が給料と貯金の管理方法について、財布を別にする合意をしていたとしても、離婚時に相手から財産分与を求められた場合には、結婚してから貯めた全ての貯金について財産分与の対象となります。

これは、結婚後に夫婦が稼いだ給料などは、共働きであっても、給料の名義や、貯金の名義にかかわらず、夫婦が協力して稼いだものと考えられているからです。そして、このような考え方は、過去の裁判例や家庭裁判所の実務で確立しているのです。

つまり、財布を別にする合意をしていても、いざ離婚になって財産分与を求められた場合には効力がないことになります。

生活費用の口座だけでなくそれぞれの貯蓄口座も共有財産!

共働きの夫婦で、双方とも一定の収入がある場合、夫婦共用(ただし名義は単独)の預金口座を作って、その口座を生活費用の口座にすることがあります。

この生活費用口座には、夫婦がそれぞれ収入の一部を入金し、残った給料は夫婦それぞれが自分名義の貯蓄口座で貯めている場合が多いです。

このような場合、財布を別にしている場合、夫婦それぞれが自分名義の貯金は、自分のものであるという意識が強いと思います。

ところが、実際は共用で利用していた生活費用口座の預貯金だけでなく、夫婦それぞれが貯めていた貯蓄用口座の預貯金も、法的には共有財産になります。

そのため、口座の名義や用途にかかわらず、結婚後に稼いだ給料で貯めた全ての預貯金が財産分与の対象になってしまいます。

共働きの夫婦が財産分与をしない方法とは?

これまで見てきたように、共働きの夫婦であっても、結婚後に貯めた全ての貯金について共有財産とされます。

では、財産分与をしない方法はないのでしょうか?

ズバリいえば、離婚時点で「財産分与をしない」という夫婦の合意さえあれば、財産分与をしないことも可能です。

そして、財布を別にしている共働きの夫婦では、財産分与をしない合意をして離婚するケースも珍しくないのです。

では、財産分与をしない合意はどのようにすればいいのでしょうか?以下では、材裁判余をしないために、財産分与なしの合意をする方法を説明します。

財産分与なしの離婚協議書を作る

夫婦が協議離婚する場合には、離婚協議書で財産分与なしの合意をする方法があります。

清算条項(協議書に書いてあるもの以外の請求はしないという約束の条項)を入れれば、後から財産分与の請求を防ぐことができる可能性が高いですが、余計な争いを避けるために、夫婦双方とも財産分与を請求しないという条項をいれれば明確になります。

財産分与なしで調停離婚する

離婚調停で離婚する場合には、離婚協議書ではなく、裁判所で離婚の調停調書を作成してくれます。

調停調書の条項に、協議書と同じように財産分与を請求しないという条項か清算条項を入れて、財産分与なしで合意したことの証明になります。

結婚中に財産分与なしの約束をした場合は?

結婚中に財産分与なしの合意をして、それを書面にしたとしても、その書面が効力を発揮する場面は基本的にありません。

なぜかというと、夫婦間でした契約(財産分与なしの合意も契約です)は、婚姻中、いつでも夫婦の一方から取り消すことができる(民法754条)からです。

そのため、後に離婚協議や離婚調停をする際に、夫婦の一方が財産分与を請求したくなれば、財産分与なしの合意を一方的に取り消すことができるからです。

ただし、これには次のように例外もあります。

別居の際に財産分与なしの合意をした場合

裁判例(最判昭和42年2月2日)によると、婚姻中でも実質的に婚姻関係が破綻している場合には、夫婦間の契約は取り消すことができないとされています。

そうすると、別居の際に、既に婚姻関係が破綻している場合には、その際にした財産分与なしの合意は取り消せない可能性があります。

そうすると、別居の際に、夫婦で財産分与なしの合意をした書面を作成すれば、将来的に財産分与を求められても、支払う必要がないとされる可能性があるでしょう。

ただし、無理矢理書かせた場合などは、別居の際の合意であっても、取り消される可能性が高いでしょう。

財産分与をしないで合意をできるケースとは?

夫婦ともに「財産分与はなしでいいや」と思えば、「財産分与なし」の合意が成立します。このような合意が成立しやすいのは次のようなケースです。

夫婦の自分名義の貯金額に大きな差がない場合

財産分与で支払う金額の大きさは、夫婦の財産の合計額とは無関係です。

実際には、夫婦の自分名義の財産の差額の大きさと関係するのです。

夫婦の自分名義の貯金額の差額が大きいほど、財産分与の金額も大きくなります。逆に言えば、差額が小さければ、財産分与の額も小さくなるのです。

例えば、夫名義の貯金200万円、妻名義の貯金100万円の夫婦が、財産分与をする場合、夫が妻に50万円を払うのが通常です。他方で、夫名義の貯金が1億円、妻名義の貯金が9900万円の夫婦が離婚する場合でも、財産分与は夫が妻に50万円を払うだけです。

このように、夫婦の自分名義の財産額に大きな差がない場合、財産分与で支払う額は、資産の額からみたら誤差と言えるほどわずかなものになるときもあります。

このような場合、わざわざ、それぞれの名義の財産額を計算して財産分与の手続をすること自体が面倒くさいと考える夫婦は多いです。

そのため、夫婦の自分名義の貯金額に大きな差がない場合、財産分与をしないことについて合意ができることが多いです。

浪費家であった高収入の夫婦の場合

夫婦双方とも高収入でも、浪費的傾向がある場合、驚くほど貯金は貯まりません。

夫が年収1000万円、妻も年収1000万円のいわゆるパワーカップルが10年間結婚していたとしても、貯金は夫婦合わせて500万円以下というケースもあります。

このようなケースでは、夫婦ともに自分の収入に比較すれば、財産分与の金額が誤差に過ぎないと考えて、わざわざ財産分与の手続をするのを面倒くさいと考えることも多いです。そのため、財産分与をしない合意をするケースも珍しくありません。

結婚期間が短い夫婦の場合

収入の高低に関わらず、結婚期間が短い場合、たいして結婚後の貯金は貯まっていないのが通常です。

例えば、夫が年収700万円、妻が年収400万円の夫婦が2年間結婚後同居したとします。特別に節約していなければ、2年間で100万円から300万円程度しか貯まらないかもしれません。

しかも、この300万円を夫200万、妻100万で持っていたとすると、財産分与の額は50万円に過ぎません。

そうすると、これも収入に対して誤差と言える程度と考えて、わざわざ財産分与をしないで離婚することもあるでしょう。

夫婦とも自分の方が貯金が多いと思っている場合

夫婦が、それぞれ財布を別にしている場合、生活費分の共用で利用している口座以外の自分名義の口座の貯金額は配偶者に教えていないこともあります。

このような場合、財産分与を求めると、双方の貯金額を開示しないといけなくなります。

そうすると、相手の方が貯金額が少なかった場合、むしろ自分が財産分与を払う側だったと判明することもあります。

そのため、夫婦双方が相手の貯金額を知らずに、しかも自分の貯金額の方が多いかもしれないと思っている状況では、自分が財産分与を支払う側になることを危惧して、相手に財産分与を求めないということもあるでしょう。

夫婦双方がこのように考えていた場合は、結局どちらからも財産分与を求めることなく離婚することになります。

自宅(マンション・戸建て)を購入していない場合

これまで共働きの夫婦で財産分与をしないケースを見てきましたが、夫婦がマンションや戸建てなどの自宅を購入している場合、財産分与の問題は避けられません。

特に、共働きの夫婦の場合、住宅ローン控除を利用するためや、借り入れ額を増やすために、住宅ローンのペアローンを利用して、購入した自宅を共有名義にしている場合が多いです。

この場合、離婚の際には、必ず自宅の財産分与をどうするかという問題が出てきてしまいます。

そして、自宅の財産分与は揉めることが多く、結果的に自宅以外の預貯金などの全ての財産分与をせざるを得なくなることが多いです。

そのため、共働き夫婦が財産分与をしない合意をするためには、まずは離婚前に自宅の処分方法、住宅ローンの返済方法について充分に話し合い合意する必要があります。

ABOUT ME
弁護士 豊田 友矢
千葉県船橋市の船橋シーアクト法律事務所の代表弁護士 離婚・不貞慰謝料・遺産相続・交通事故・中小企業法務等の相談を多数取り扱っている。