財産分与

宝くじの当選金は離婚時に財産分与の対象?小遣いで購入や換金前のケースは?

宝くじの当選金は財産分与する?

宝くじの当選金は財産分与の対象になるのか?

宝くじの当選金が、離婚するとき財産分与の対象になるかどうかは、単純に見えますが実は難しい問題です。

実は宝くじの当選金を全額財産分与の対象とした裁判例があるのですが、この裁判例は全てのケースで宝くじが財産分与の対象になると判断したものではないのです。

ですので、現在においても、宝くじの当選金が一律に財産分与の対象になるのかどうかが明確に決まっているわけではありません。

財産分与の対象になるかどうかの判断基準|共有財産or特有財産

そもそも、財産分与の対象になるのは、夫婦の「共有財産」です。夫婦の共有財産とは夫婦が協力して築いた財産のことです。

他方で、財産分与の対象にならないのは、夫婦の一方の「特有財産」です。特有財産とは、夫婦の協力とは関係なく取得した財産のことで、結婚前に貯めた貯金や、相続や親からの贈与で取得した財産などが具体例です。

では、宝くじの当選金は、「共有財産」と「特有財産」のうちどっちなのでしょうか?

宝くじ当選金と財産分与に関する東京高裁の裁判例

東京高裁平成29年3月2日決定では、宝くじの当選金の全額が「共有財産」であるため、財産分与の対象になるとされました。

具体的には、こんな事例です。

夫は毎月の給料35万円のうち2~3万円を小遣いにしていた。その小遣いから、毎月2000円ほど宝くじを購入していた。

そして、あるとき・・・・・・!2億円が当選した。

夫は2億円が手に入ったので、住宅ローンを一括返済し、仕事を辞めてトレーダーになった。ところが、運用がうまくいかず、当選金を切り崩して生活を行なっていた。その後、夫は仕事に復帰し、給料月25万円と当選金から月5万円の合計30万円を毎月妻に渡して、家計を賄った。

その後、夫婦は離婚することになったが、離婚時にあった財産のほとんどが宝くじの当選金かその当選金を原資としたものであった。

このような事例で、裁判所は、以下の理由で、宝くじの当選金の全額が「共有財産」であるとして、全額を財産分与の対象としました。

  • 理由1:宝くじの購入資金である小遣いは結婚後の給料収入であること
  • 理由2:当選金の使い道は、生活費や住宅ローン返済であること

判例の理由1:「小遣いは結婚後の収入」の解説

裁判所が当選金を共有財産とした理由の1つ目は、宝くじの購入資金である小遣いは結婚後の給料であることです。

これはどういうことかというと、原則として、結婚前の貯金などの「特有財産」で購入したものは「特有財産」とされ、財産分与の対象とならないことと関係します。

例えば、結婚前の貯金や相続したお金だけを使って、結婚後に株式や投資信託を購入した場合、これらは特有財産が原資となっているため、財産分与の対象にならないのです。

そのため、小遣い=結婚後の給料=共有財産と考えれば、共有財産で購入した宝くじの当選金も共有財産という考え方につながるのです。

でも実はこれもそんなに単純な話ではありません。

疑問1:そもそも小遣いは共有財産なのか?

まず、そもそも小遣い=共有財産なのかという問題があります。

たしかに、小遣いの元となる給料自体は共有財産ですが、月35万円のうちの月2万円の小遣いであれば、毎月のランチ代や趣味の費用でなくなる程度の手元に置いてある現金のはずです。

そうすると、小遣いとなった段階で、夫婦の合意の下に、既に夫の専用財産となったとも考えられます。※専用財産については▶離婚時に財産分与の対象にならないものとは?の記事参照

つまり、そもそも「小遣いは共有財産」とはいえない、ということは小遣いで買った宝くじの当選金も共有財産ではないと考えることもできます。

疑問2:そもそも当選金と購入代金に結びつきがあるのか?

また、そもそも宝くじの購入代金と当選金との間に結びつきがあるのかという問題もあります。

先ほど説明したように、特有財産である結婚前の貯金で購入した株式なども特有財産となりますが、それは結婚前の貯金が株式に形を変えただけに過ぎないからです。

ところが、宝くじの場合は話が変わってきます。宝くじの購入代金と当選金は金額が全く異なります。宝くじを300円で購入しても、当選結果によって0円になることも10億円になることもあります。そうすると、そもそも購入金額にはあまり意味がないでしょう。

このように考えると、宝くじの当選金は購入代金が形をかえたものではないと考えるのが自然でしょう。あくまで幸運によって得た偶然の利益であるといえます。

そうすると、宝くじの購入代金の原資が、特有財産であろうと共有財産であろうと、それは当選金が共有財産となるかどうかとは全く関係ないことになります。

判例の理由2:「当選金の使い道」の解説

裁判所が当選金を共有財産とした理由の2つ目は、当選金の使い道は、生活費や住宅ローン返済であることです。

これはどういうことかというと、夫婦は相互に生活を保持する義務があります。そのため、生活のために必要であった収入を、夫婦の一方の特有財産として独占させることは、不公平であるというような意味だと考えられます。

たしかに、今回の裁判例の事例では、夫は宝くじが当選した後仕事を辞めて、当選金を切り崩しながら生活しています。仕事に復帰した後も、生活費の一部を当選金で賄っています。

妻としては、当選金で生活を賄っていたのに、いきなり離婚になって当選金は夫のものだから財産分与はないといわれてはたまったものではありません。夫が仕事を継続していれば、その分のお金も貯まっていた可能性すらあります。

ただ、この点も、もし仕事を辞めず、しかも高収入で、当選後も給料だけで生活費を賄えており、当選金には一切手を付けていなかったらどうなのかという疑問が生じます。

では結局どうなる可能性が高いのか?

ではこの裁判例や疑問点を踏まえて、結局宝くじの当選金は財産分与の対象になるのでしょうか?

結局は明確な決まりはなく、裁判所の裁量で決められることになりそうですが、結論から言うと、ほとんどのケースでは財産分与の対象になると考えられます。

小遣いで買った場合・・・

小遣いは専有財産と考えることもできますが、前記の裁判例の理論からは、結婚後の収入である以上、財産分与の対象となる方向に傾くでしょう。

また、そもそも購入代金と宝くじの当選金は結びつきがないとも考えられるので、当選金が特有財産が形を変えたものとは認められない可能性が高いです。

そうすると、財産分与の対象になる場合がほとんどではないでしょうか。

結婚前のお金で宝くじを買っていたらどうなるのか?

このケースでは、そもそも結婚前のお金で宝くじを買ったということを証明できるかが問題になります。

結婚前のお金を貯めた口座から直接宝くじの購入代金が引き落とされるシステムや、宝くじをクレカ購入して引き落とし口座を結婚前に貯めた鋼材にしない限り、このような証明は困難なことが多いでしょう。

では、この立証に成功したとして、どうなるでしょうか。

先ほどと同じように、当選金が購入代金の形を変えたものと認められれば特有財産となる余地はありますが、なかなか厳しいかとは思います。

ただ、長期的に多額の宝くじを購入しており、購入費用の総額と当選金の総額に大きな乖離がない場合は、結婚前の貯金が形を変えたものと認められる余地はあるでしょう。

あとは、裁判例の理由2の「当選金の使い道が生活費」でなければ、財産分与の対象とならない可能性も高まります。

具体的には当選金も結婚前に貯めた口座に入金され、それを生活費に飛翔していなければ、結婚前の貯金が形を変えたものであるとして、特有財産となる可能性が高まります。

その場合は、財産分与の対象とはなりません。

換金前の場合はどうなる?別居後の購入・換金は?

宝くじの換金の期限は1年間が通常です。換金前であっても財産分与の基準時(別居時or離婚時)に当選していれば、財産分与の対象になることには変わりないでしょう。

もちろん、別居以降に、別居後の収入で宝くじを購入し当選した場合は、財産分与の対象にならないでしょう。

別居前に小遣いで購入し、別居後に当選した場合は、微妙だと思います。

購入と当選の結びつきを強く考えれば、財産分与の対象になるでしょうし、逆に考えれば、当選時点で別居していれば財産分与の対象にならないともいえます。なお、換金時点は本人が自由に決められるので、別居前に当選し、別居後に換金しても財産分与の対象になると考えられます。

宝くじの当選金の財産分与割合は2分の1じゃない?

宝くじの当選金の全額が財産分与の対象になるとしても、その割合が2分の1になるとは限りません。

通常財産分与は2分の1になるのですが、先ほど見た東京高裁の裁判例では、宝くじの当選金の財産分与割合を、宝くじを購入した夫6:妻4としています。

少し購入した夫の方が多くなっています。ただ割合について理論的に決められるわけではないので、あくまで裁判所が公平の観点と妥当な結論を出すために裁量で決めているものでしょう。

宝くじなら6:4と決まったわけではありません。

ちなに、夫が購入した馬券による競馬の利益で、財産分与割合を夫3分の2、妻3分の1とした裁判例もあります(奈良家裁平成13年7月24日審判)。

まとめ

宝くじの当選金が財産分与の対象になるかは、明確に決まっているわけではなく、あくまでケースバイケースであるが、実際にはほとんどのケースでは財産分与の対象になる。

ただし、財産分与の割合は、通常のケースとは異なり、2分の1以外に修正されやすいと言える。

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弁護士 豊田 友矢
千葉県船橋市の船橋シーアクト法律事務所の代表弁護士 離婚・不貞慰謝料・遺産相続・交通事故・中小企業法務等の相談を多数取り扱っている。