財産分与

別居が長い場合の財産分与の注意点~別居10年の離婚など~

別居が長い場合の財産分与

別居が長い場合の財産分与の注意点とは?

直ぐに離婚せずに、5年や10年など長い別居を経てから離婚に至る場合も珍しくありません。

ところが、別居が長い場合には、いざ離婚の時に財産分与が問題になると

きには、いくつかの注意点があります。

  1. 財産分与の対象が別居時点の財産であること
  2. 財産の評価は別居時点ではなく離婚時点であること
  3. 別居後に財産がなくなってしまっている可能性があること
  4. 婚姻費用等の調整が必要になる可能性があること
  5. 財産分与の資料がなくなってしまうことがあること

以下ではそれぞれの注意点について解説します。

財産分与の対象が別居時点の財産であること

財産分与の対象は、離婚時点の財産ではなくて、別居時点の財産となります。これについては、▶財産分与の基準時|いつの時点の財産を分けるのか?で詳しく解説しています。

別居が長い場合、例えば別居を10年してから離婚する場合、財産分与の対象は10年前の財産ということになるのです。

そのため、離婚したいと思ったときには配偶者がお金をたくさんもっていたので財産分与を求めても、別居した10年前に貯金などの財産が全然なかったのであれば財産分与でもらえるものはありません。

また、双方が同じくらいの自分名義の財産ももったまま長期間別居し、離婚しようと思った時点では自分名義の財産を使ってしまったため、お金が残っている配偶者に対して財産分与の請求をしても、新たに財産分与としてもらえる分はないということになります。

このように、別居後に夫婦それぞれの資産が増えたり減ったりしても、財産分与では考慮されないのです。

つまり、長期間別居して離婚する場合には、財産分与の請求ができるかどうかは別居当時の財産状況を確認する必要があるのです。

財産の評価は別居時点ではなく離婚時点であること

別居が長い場合の財産分与で見落としがちなのが、財産分与の対象は「別居時点」の財産だけど、財産の評価は「離婚時点」となることです。

例えば別居時点に、配偶者名義の株・投資信託や不動産を持っていたとします。その後、10年間別居したあとに、そういえば別居時点に株と不動産があったから財産分与を請求しよう、たしか別居時点での価値は3000万円ほどだったはず・・・と考えたとします。

ところが、別居後の10年で株式や不動産の時価が大きく下落し、離婚時点での価値は100万円になってしまったとします。

そうすると、離婚時の財産分与でもらえるのは、その半分の50万円だけです。

このように、別居が長い場合、別居時点から財産の評価額が大きく減ったり増えたりすることがあるため、想定していた財産分与がもらえなくなったり、逆に想定している以上の金額を払わないといけなくなることがあります。

別居後に財産がなくなってしまっている可能性があること

財産分与は別居時点の財産を分けるのですが、別居が長い場合には別居時点にあった財産がなくなってしまっている場合があります。

この場合でも、もちろん配偶者に対して、別居時点の財産額で計算した財産分与を請求することはできます。

ところが、お金はないところからは出てこないので、認められた財産分与の金額を回収できなくなるおそれがあります。

例えば、別居時点では共有財産が3000万円あって、その全てが夫名義であったとします。その後、10年間別居している間に夫がそのお金を全て使ってしまったとします。

この場合でも、妻の夫に対する1500万円の財産分与の請求は認められます。ところが、夫は既にお金がないので、その1500万円を支払ってもらうことが現実的に難しくなります。

このように、別居が長い場合の財産分与では、別居後に資産が減少してしまいもらえるはずの財産分与が事実上もらえなくなることもあります。

婚姻費用等の調整が必要になる可能性があること

別居後長期間経過してから財産分与をする場合、過去の婚姻費用の調整がなされ、財産分与の金額が想定しない金額になることがあります。

例えば、別居時点での共有財産が、夫名義500万、妻名義500万だったとします。その後、5年間別居しましたが、この間、夫が妻に生活費や子どものための費用(婚姻費用といいます)を渡していなかったとします。そして、夫婦の収入の違いから本来月5万円婚姻費用を夫が妻に払うべきであったとします。

別居から5年して、妻が夫に財産分与を請求した場合、別居時の共有財産だけ見れば、財産分与額は0円(双方500万ずつもっていたので)になるはずです。

ところが、5年分の未払いの婚姻費用が調整されると、月5万×12月×5年=300万円を夫が妻に財産分与として支払わなければいけなくなります。

財産分与の資料がなくなってしまうことがあること

別居が長いと、別居時点での共有財産として何があったかわからなくなってしまう可能性があります。

例えば10年、20年と別居している場合、別居時点でどの口座に預金がいくらあったか、どの証券会社にどれくらいの株式があったかなどがわかる資料が入手できなくなる可能性があります。

資料は捨ててしまったり、記憶が薄れてしまったりしますし、金融機関に取引履歴を求めても、一定期間以上経ったものは、保存期間を過ぎているとして開示されないこともあります。

まとめ

これまで見てきたように、長期の別居を経てから離婚する場合、財産分与の請求や計算が、複雑になることが多いです。また、財産分与の金額を算定するにあたって、見落としてしまう注意点が多々あります。

そのため、長い別居の後に離婚するとき、財産分与を請求したい、または請求された場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。

ABOUT ME
弁護士 豊田 友矢
千葉県船橋市の船橋シーアクト法律事務所の代表弁護士 離婚・不貞慰謝料・遺産相続・交通事故・中小企業法務等の相談を多数取り扱っている。