- iDeCo(個人型確定拠出年金)は財産分与の対象
- iDeCoは財産分与しないという誤解とその理由
- iDeCoの財産分与の計算方法・評価額
- 離婚したらiDeCoはどうなる?
iDeCo(個人型確定拠出年金)は財産分与の対象
- iDeCoは財産分与の対象|特別扱いされない
- iDeCoの仕組みと夫婦の共有財産になる理由
- 例外的に財産分与の対象外になる可能性も
iDeCoは財産分与の対象|特別扱いされない
結論から言うと、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、離婚の際、原則として財産分与の対象になります。
そもそも、財産分与の対象になる共有財産というのは、夫婦が協力して貯めた財産のことです。
iDeCoだけ財産分与の場面で特別扱いされる理由や法律はありません。貯金や通常の株式と同じように、結婚後の収入が元手になっているのであれば、夫婦で協力して貯めた資産として財産分与の対象になると考えられています。
ちなみに、新旧NISA(ニーサ)も財産分与の対象になります。▶株式は離婚時の財産分与の対象?積立NISAや投資信託はどうなる?
iDeCoの仕組みと夫婦の共有財産になる理由
iDeCoとは、「個人型確定拠出年金」のことで、会社を通さずに、個人で毎月定額の掛金を支払い、自分で選んだ投資信託などで運用して、60歳以降など一定の年齢に達した場合に受け取るものです。【参照:iDeCo公式サイト】
毎月の掛金額は、自営業の場合は月5,000円~68,000円、会社員の場合は勤務先に企業年金制度があるかどうかによって上限額(月12,000円、20,000円、23,000円)が変わります。なお、所得控除のメリットはありませんが専業主婦もiDeCoに加入できます。
そして、この掛金は、共有財産である結婚後の給料等から支払っているのが通常なので、結婚中の期間に対応する分は、夫婦で協力して貯めた資産=共有財産といえます。
財産分与の対象外になる可能性も
このように理論的には、iDeCoは財産分与の対象になるのが原則なのは間違いありません。
もっとも、実際に裁判で争われた場合に、確定拠出年金が「必ず」財産分与の対象にされるかというと、そうとは言い切れません。
なぜかというと、iDeCoは退職金と同じように一定の年齢までは受け取れないため、通常の財産分与の対象にはせずに、扶養的財産分与として考慮する方法もあり得るからです。
また、iDeCo以外の財産について分与割合を決めるときに「その他一切の事情」(民法768条3項)として考慮する方法もあり得ます。
さらに、iDeCoの年金受け取り時期がだいぶ先(数十年後など)になる場合で、離婚時点での金額が少ない場合には、財産分与の対象にせず、考慮すらしないというケースもないとまでは言い切れません。
このように、iDeCoがどんなケースであっても、「必ず」財産分与の対象にするという運用があるわけではありませんので注意してください。
iDeCoは財産分与しないという誤解とその理由
iDeCoは財産分与の対象になるのが原則という話をしました(財産分与の対象にしないのは例外)。
ところが、iDeCoであれば、どんな場合でも、離婚しても配偶者に渡さなくても良い、財産分与の対象にならないのだと誤解している人が多いです。
実際に、いくつかのWebサイトの解説でも、iDeCoが財産分与の対象にならないと言い切っているものすらあります。
なぜ、iDeCoについてだけ、財産分与しなくて良いという誤解が広まっているのでしょうか。その理由は、次のとおりです。
誤解の理由
- 年金分割できない
- 60歳まで引き出せない
- 差し押さえが禁止されている
- 破産してもなくならない
- 財産分与しない裁判例がある
- 財産分与しないで済んだ例を聞いた
iDeCoは年金分割できない
最近は、離婚の時には「年金分割」をするのが普通ということが、よく知られるようになってきました。
この制度は「年金」分割といっても、「年金」と名がつくものが全て分割されるわけではありません。実際に分割されるのは厚生年金だけです。iDeCoは、確定拠出「年金」とはいいますが、年金分割の対象ではないのです。
このことから、iDeCoなどの確定拠出年金については、「年金分割されない→離婚のとき渡さなくてもよい」という誤った考えが生じている可能性があります。
ところが、年金分割と財産分与は別の制度なので、年金分割の対象外でも、財産分与の対象になることはあるのです。
iDeCoは60歳まで引き出せない
iDeCoで貯まった資産は、原則として一定の年齢(現時点では60歳)になるまで引き出すことはできません。
このルールは、離婚した場合でも変わりません。例えば、40歳で離婚したとしても、離婚時にiDeCoに貯まった資産を引き出して夫婦で分けることはできないのです。
このことから、「離婚してもiDeCoは引き出せないのだから、財産分与の対象ではない」と考える方がいます
ところが、実際に離婚時に受け取れるかどうかと、財産分与の対象になるかどうかは別の問題です。
例えば、退職金は、離婚時に退職せずに受け取れなくても、将来支給予定の退職金が財産分与の対象になります。同様に、iDeCoも離婚時に引き出せなくても、財産分与の対象にすることはできるのです。
iDeCoは差し押さえが禁止されている
iDeCoのような確定拠出年金は、法律上、差押えが禁止されています。
<確定拠出年金法第32条>
給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、老齢給付金及び死亡一時金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押さえる場合は、この限りでない。
このことから、「差し押さえされないのだから誰にも取られない→離婚の時にも取られない→財産分与の対象外」と誤解する方がいます。
ところが、差押えが禁止されているかどうかと、離婚の際に財産分与の対象になるかどうかも全く別の問題です。
iDeCoは破産してもなくならない
先ほど説明したとおり、iDeCoで貯まった資産は差押禁止財産なので、仮に自己破産したとしても、そのまま保有し続けることができます。
このことから、「iDeCoは破産しても取られない→何しても取られることはない→離婚しても取られない→財産分与の対象外」と誤解している方もいるかも知れません。
ところが、破産と離婚の財産分与は全く別の制度なので、関係ありません。
破産してもなくならない資産であっても、離婚の財産分与の対象にすることはできます。
確定拠出年金を財産分与しない裁判例があるから
インターネット上のサイトなどで、確定拠出年金と財産分与についての裁判例を見つけて、その裁判例が確定拠出年金を財産分与の対象外にしたことから、iDeCoは必ず財産分与の対象外になると誤解している人もいます。
名古屋高等裁判所平成21年5月28日判決のことを指摘する人が多いです。
ところが、この裁判例はよく読むと、掛金をかけ始めたのが別居後の事案ですし、むしろ例外的に財産分与の対象から外されたケースといえます。しかも、扶養的財産分与として結局考慮されています。いずれにしても、この裁判例は極めて例外的なケースなので、iDeCoが財産分与の対象外とされる根拠には全くなりません。
ちなみに、近年の公開されている裁判例でいうと、大阪家裁令和2年9月14日審判は、確定拠出年金を財産分与の対象としています。
財産分与しないで済んだ例を聞いたから
一番多いのは、「離婚の時にiDeCoは財産分与しないで済んだという実例を聞いた→だから、iDeCoは財産分与の対象ではないんだ」という誤解です。
そもそも、離婚の多くは協議離婚か調停離婚で成立するため、ある財産が財産分与の対象になるかどうかを裁判所に判断してもらうケースは多くはありません。iDeCoを財産分与しないで離婚したからと言って、裁判所がiDeCoは財産分与の対象外と判断したわけではないのです。
また、夫婦が合意さえすれば、財産分与の対象になることが広く知られている夫婦で貯めた貯金でさえ、財産分与の対象外にできます。
つまり、これまでiDeCoを財産分与しないで離婚した夫婦が多いとしても、法的にiDeCoが財産分与の対象にならないわけではないのです。
確定拠出年金の財産分与の評価額と計算方法
確定拠出年金の基準時の評価額
確定拠出年金の共有財産部分の計算方法
基準時の評価額とは
iDeCoなどの確定拠出年金の評価額は、次のとおり算出します。
まず、預貯金や株式と同じように、離婚時点(別居している場合は別居時点)の確定拠出年金の金額を調べる必要があります。
確定拠出年金の離婚時点の金額としては、①拠出金累計額または②時価評価額の2種類が考えられます。
①拠出累計額というのは、これまでの毎月の掛金の合計額のことです。②時価評価額というのは、毎月掛金を運用した結果、毎日資産が増えたり減ったりしますが、基準時の時価評価額のことです。
通常の株式や投資信託の場合(NISA口座を含む)、買い付けた金額ではなく、基準時の時価評価額で評価するのが通常です。
そのため、iDeCoの評価額も、①拠出金累計額ではなく、②時価評価額を利用するのが原則かと思います。
共有財産部分の計算方法
次に、基準時の確定拠出年金の評価額のうち、夫婦で協力して貯めた部分、婚姻期間に対応する部分を計算します。この部分だけが共有財産になるからです。
仮に、結婚した後にiDeCoに加入しているのであれば、基準時の時価評価額の全額が婚姻期間に対応する部分になります。
結婚5年前にiDeCoに加入し、結婚5年後に離婚した場合、毎月の掛金がずっと一緒なのであれば、基準時点の時価評価額の半分が婚姻期間に対応する部分になるでしょう。
仮に、掛金が途中で変わった場合には、そのことを考慮し、結婚前の拠出金額と結婚後の拠出金額の割合を算出して、基準時の時価評価額に結婚後の拠出金割合をかけて算出することも考えられます。
離婚したらiDeCoはどうなる?
離婚したらiDeCoはどうなる?→3パターンある
- 一時金で受給済の場合
- 年金として受給中
- 掛金を積立中の場合
一時金で受給済の場合
iDeCoを既に一時金として受給後に離婚する場合、基準時の残額(正確には婚姻期間に対応する部分)が財産分与の対象になります。
既に受給済みで預貯金等になっているはずなので、それを分ければ済みます。
年金として受給中の場合
iDeCoを年金として受給中の場合には、基準時の残評価額が財産分与の対象(正確には婚姻期間に対応する部分)になります。
iDeCoの評価額のうち、財産分与として渡さないといけない額の別の貯金があればそれを渡せば良いですが、ない場合は分割で支払うか、iDeCoの受け取り方を年金から一時金での受け取りに変更できる場合には、それも検討することになります。
掛金を積立中の場合
iDeCoの掛金を積立中で、また受け取り年齢に達していない場合には、基準時の評価額(正確には婚姻期間に対応する部分)が財産分与の対象になります。
iDeCoの途中解約はできないので、仮に財産分与の対象になったとしてもその分をiDeCoの資産から支払うことはできません。
iDeCoの受け取り時期が近い将来である場合には、それまで待ってもらうか、そうでない場合には、別の貯金などの資産から支払うほかありません。
企業型の確定拠出年金(企業型DC)の場合は?
これまでは、iDeCo、つまり「個人型」の確定拠出年金について説明してきましたが、確定拠出年金には「企業型」の確定拠出年金もあります。企業型DCと呼ばれることもあります。【参照:一般社団法人 投資信託協会公式サイトより「企業型DC(企業型確定拠出年金)ってなあに?-制度の概要-」】
近年は、企業年金として企業型確定拠出年金(企業型DC)が採用されていることが多いかと思います。
企業型確定拠出年金の掛金は、iDeCoとは違い、給料から自分で掛金を払うのではなく、企業が掛金を負担してくれます。
このように企業が負担している掛金は、給料そのものではありませんが、退職金の積立と同様に、婚姻期間中に対応する部分が、夫婦の共有財産として財産分与の対象となります。
国民年金基金に加入している場合は?
自営業者はiDeCoか国民年金基金の両方に加入することはできますが、合わせて月68,000円までしか拠出できません。そのため、ほとんど人はどちらか一方を選んで加入しています。【参照:国民年金基金公式サイトより「国民年金基金とiDeCoとの違い」】
このように、iDeCoと国民年金基金は似たような制度なのですが、財産分与に関していうと大きな違いがあります。
それは、国民年金基金は、一時金ではなく年金でしか受け取れず、脱退による一時金もないことから、離婚時点での評価金額を算定できないのです。
国民年金基金に限りませんが、基本的に離婚時点での金額を算定できないものは財産分与の対象にすることはできません。
そのため、国民年金基金については、iDeCoとは異なり、財産分与の対象ではなく、その他の財産の財産分与を決めるときに「その他一切の事情」(民法768条3項)として考慮できるにとどまります。
まとめ:iDeCoと離婚時の財産分与について
iDeCo(個人型確定拠出年金)と財産分与について、これまでの説明をまとめると、次のとおりです。
- iDeCoは財産分与の対象になるのが原則
- iDeCoは財産分与の対象外という誤解が広まっている
- iDeCoは財産分与の対象になっても解約はできない
- 財産分与するならほかの貯金などから払う必要がある