財産開示手続をされても、意味ないから、無視しておけばいいのではと考えている人もいるかもしれません。ところが、法改正されたこともあり、財産開示手続期日に出頭しなかったり、嘘をついたりすると、刑罰を受けるなどの不利益を被ることもあります。また、不出頭でもその後、勤務先などの情報が開示されてしまう恐れもあります。
この記事では、財産開示手続の申立がされた後の流れや対応方法について解説します。
- 財産開示手続とは?どういうときに行われる?
- 「意味ない!」と批判された従来の財産開示手続
- 財産開示手続の申立がされた後の流れ
- 不出頭の場合や嘘がバレた場合は刑罰を受ける
- 財産がない場合はどうする?
- 勤務先や預貯金の情報を調査される可能性もある
財産開示手続とは?どういうときに行われる?
財産開示手続とは、債権者(お金を請求する人)が債務者(お金を請求される人)の持っている財産を調査するための手続です。
例えば、元配偶者との間で公正証書により養育費を支払うよう約束した場合、消費者金融(アイフルなど)からの借金を滞納したため訴えられて敗訴判決が言い渡された場合、その後にお金を支払わないとどうなるのでしょうか?
相手は、おそらく裁判所に強制執行を申し立てて、あなたの不動産、預貯金、勤務先の給料などを差し押さえようとします(▶「○円を支払え」と命じる民事裁判の判決を無視したら?逃げ得になる?の記事参照)。そして差し押さえをするには、あなたの財産を特定する必要があるので、財産調査のために、財産開示手続を裁判所に申し立てるのです。
「意味ない!」と批判された従来の財産開示手続
従来は、財産開示手続を利用する人はほとんどいませんでした。色々と不都合が多く、無視した場合に刑罰が科されることもなかったため、相手に対する強制力が弱いという問題があったからです。
そのため、従来の財産開示手続は実効性がなく、「意味ない」などと批判されていました。
このような従来の財産開示手続に対する批判を受け、最近になって財産がちゃんと開示されるようにすべく法律が改正されました。そして、改正後の財産開示手続が2020年4月から実施されています。
今回は、財産開示手続をされた側の立場に立って、改正された財産開示手続によってどんなことが起きるのかを解説します。
財産開示手続の申立がされた後の流れ
あなたがお金を支払わなかったことにより、元配偶者や消費者金融などの相手方から財産開示手続の申立をされたら、その後どうなるでしょうか。
ここでは、財産開示手続の申立がされた後の流れを、順を追って解説します。
- 相手方が財産開示手続を申し立てると、財産開示期日の呼出しを受ける
- 財産開示日前に財産目録を提出するように指示される
- 財産開示期日に出頭すると、宣誓をして質問に回答することになる
1 相手方が財産開示手続を申し立てると、財産開示期日の呼出し通知が届く
裁判所は、相手方からの申立書を読んで財産開示手続が必要だと判断すると、財産開示期日を開く決定を行い、あなたに対して期日に出頭するように呼出しの通知をします。
この裁判所からの呼び出しの通知(実施決定)は、あなたの自宅宛に郵便局員が手渡しで渡す方法(書留郵便みたいな方法です)で届きます。
出頭する裁判所は、あなたの住所地を担当する地方裁判所です。ですので、自宅から近い裁判所が指定されます。出頭期日は、呼び出し通知が届いたときから概ね1ヶ月後くらいに設定されていることが多いです。
2 財産開示日前に財産目録を提出するように指示される
財産開示期日の通知書には、事前(だいたい期日の10日前~1週間前)に財産目録を提出するようにという命令が記載されています。
財産目録書式
【引用:裁判所ホームページ「財産開示手続を利用する方へ」より】
これは、財産開示期日当日にいきなり口頭で全ての財産を確認するというのは煩雑なので、事前に書面で回答してもらい、期日では、書面の内容を前提に話をする方が合理的だからです。
もっとも、財産目録を提出期限を過ぎてから提出した場合や、そもそも提出しなかった場合、それ自体で不利益を受けることはありません。それなら提出しなくてもよいのではと思うかもしれませんが、提出しないと期日当日に口頭での説明と質問回答する負担が大きくなります。
なお、財産目録を提出した場合でも、期日に出頭して、口頭で回答する義務はなくなりませんので注意しましょう。
3 財産開示期日に出頭すると、宣誓をして質問に回答することになる
財産開示期日に出頭すると、裁判所が、あなたにどんな財産があるのかを口頭で質問し、あなたが回答した内容を記録に残すということが行われます。
あなたも財産開示手続の対応を弁護士に依頼することはできますが、期日にはあなた本人が必ず出頭する必要があります。また、弁護士に依頼したとしても、財産内容の陳述や、質問への回答はあなた自身が行なう必要があります。
まず、期日が始まると、最初に嘘をつかないという宣誓をする手続があり、宣誓が終わると、裁判所から財産の確認が行われます。
事前に財産目録を提出している場合、その内容どおりであるかの確認が行われます。財産目録の内容があいまいであったり、裁判官が疑問を持っていたりする場合、追加で質問があるかもしれません。ここで回答した内容は裁判所で記録として保管され、相手方以外にも一定の要件を満たした債権者が閲覧することが可能です。
なお、期日は非公開ですが、相手方や相手方の代理人弁護士は出頭することが認められています。出頭した相手方や相手方の代理人弁護士は、裁判所の許可を得て、あなたに質問できます。ただし、根拠のない模索的な質問や関係のない質問は許可されないので、民事訴訟の尋問に比べれば、不必要なことで責められるという可能性は低いと思います。
財産の確認が終われば、期日は終了し、財産開示手続も終了します。なお、仮にあなたが不出頭でも期日自体は開かれます。この場合、出頭しなかったことが記録に残されます。
不出頭の場合や嘘がバレた場合は刑罰を受ける
財産開示手続では、債務者であるあなたに対し、
- 財産開示期日に出頭する義務
- 宣誓をする義務
- 質問にちゃんと回答する義務
- 嘘をつかない義務
が法律で課せられています(民事訴訟法213条1項5号・6号に規定されています)。
あなたが財産開示期日に出頭しなかったり、宣誓を拒否したり、正当な理由なく質問に答えなかったり、嘘の回答をした場合、「陳述等拒絶の罪」にあたり、「6月以下の懲役」または「50万円以下の罰金」という刑罰を科せられてしまいます。
これまでは、30万円以下の過料という制裁を受けるおそれがあるのみで、しかも、実際の運用では過料が課せられることは多くありませんでした。しかし、ちゃんと財産が開示されるよう法律が改正され、刑罰が科せられることになったので、今後の運用次第では、実際に検挙されて刑罰を受ける可能性が高いかもしれません。
財産がない場合はどうする?
財産がない場合には、財産開示手続をされても、特に困ることはないはずです。
正直に財産状況を報告し、期日に出頭し財産がないことを報告すれば、出頭義務も、回答義務も、嘘をつかない義務にも違反しません。結局、ないところからは、何をしてもとれないので、相手方も諦めざるをえないでしょう。
もちろん、財産がないと言っても、勤務して給料をもらって生活しているのであれば、財産開示で勤務先を報告せざるを得ないですが、相手方としても、無理に給料を差し押えて、退職されてしまうよりは、払える範囲で分割での支払いに応じてくれる可能性もあります。このように、一括で払える財産がない場合であっても、期日に出頭することにより、分割払いの合意や和解をすることもできるので、むしろ出頭するメリットもあるといえるでしょう。
財産がないからといって出頭しないと、出頭義務に反することになるため、刑事告訴された場合、逮捕や起訴され刑罰を受ける可能性もあるので、出頭しないことはデメリットしかないともいえるでしょう。
勤務先や預貯金の情報を調査される可能性もある
これまで説明した財産開示手続以外にも、「第三者からの情報取得手続」という制度もあります。
この制度を利用すると、あなたが自分の財産を任意に開示しなくとも、強制的に第三者からあなたの財産が開示されてしまいます。
開示されてしまう財産の種類としては、預貯金口座情報(残高や口座番号など)、勤務先情報(勤務先名、勤務先住所など)、株式・投資信託情報、不動産情報などがあります。
これらの内、預貯金、株式・投資信託等の金融資産については、あなたのもとに通知が来る前に、既に手続が完了し、相手方に財産が開示済みのこともありあます。
勤務先情報と不動産情報については、一度財産開示手続を実施した後でないと開示されないため、財産開示手続が実施されていないのであれば、未だ開示はされていないことになります。
また、特に勤務先情報については、①養育費等の義務に係る請求権と、②人の生命または身体の損害による損害賠償請求権がある人に限られています。つまり、借金滞納では①②に当たらないので、勤務先情報は開示されないことになります。①は養育費未払いが典型例、②は無保険の交通事故などが典型例です。