別居後も直ぐには離婚しないで、5年、10年、20年など長い別居生活を経てから離婚する場合も珍しくありません。
ところが、長い別居の後に離婚する場合、財産分与を求めるのであれば、以下のようにいくつか注意すべき点があります。
- 長い別居後の財産分与では基準時の影響が大きい
- 長い別居中に財産の価値が変化してしまう
- 長い別居中に共有財産が使われてしまう
- 長い別居中の婚姻費用等の調整が必要
- 長い別居中に財産分与の資料がなくなってしまう
以下では、それぞれの注意点について解説します。
長い別居後の財産分与では基準時の影響が大きい
財産分与の対象が別居時点の財産であること
財産分与の対象は、離婚時点の財産ではなくて、別居時点の財産となります。これについては、▶財産分与の基準時|いつの時点の財産を分けるのか?で詳しく解説しています。
別居が長い場合、例えば別居を20年してから離婚する場合、財産分与の対象は20年前の財産ということになるのです。
今はお金持ちでも20年前は貧乏なら・・・
今は配偶者がお金持ちなので、財産分与をたくさんもらえると思って離婚を求めたとしてます。
ところが、別居時点である20年前に財産が全然なかったのであれば、今から離婚したとしても、財産分与でもらえるものはありません。
別居後20年で自分だけ貯金を使い果たしたら・・・
また、別居した20年前に、双方が500万円ずつ自分名義の貯金を持ったまま長期間別居したとします。
ところが、20年後に離婚しようと思った時点では、自分はその500万円を使ってしまい、配偶者は500万円を残していたとします。
このとき、配偶者の500万円の半分をもらおうと離婚と財産分与を求めても、別居時点では双方500万ずつ持っていた以上、追加でもらえる分はないということになります。
大事なのは20年前(別居当時)の財産の額
別居から20年も経てば、20年前とは財産状況が大きく変わっているのが、むしろ普通です。
ところが、別居後に夫婦それぞれの資産が増えたり減ったりしても、財産分与では全く考慮されないのです。
長期間別居して離婚する場合には、財産分与の請求ができるかどうかは、別居当時の財産状況を確認する必要があるのです。20年別居したなら、20年前の財産状況を確認する必要があります。
長い別居中に財産の価値が変化してしまう
財産の評価は別居時点ではなく離婚時点であること
別居が長い場合の財産分与で見落としがちなのが、財産分与の対象は「別居時点」の財産だけど、財産の評価は「離婚時点」となることです。
10年の別居期間中に株価や不動産暴落・・・
例えば別居時点で、配偶者名義の株・投資信託や不動産があったとします。
その後、10年間別居した後に、そういえば別居時点に株と不動産があったから、離婚と財産分与を請求しよう、たしか別居時点での価値は3,000万円ほどだったはず・・・と考えたとします。
ところが、別居後の10年で株式や不動産の時価が大きく下落し、離婚時点での価値は100万円になってしまったとします。
そうすると、離婚時の財産分与でもらえるのは、その2分の1の50万円だけです。
このように、別居期間が長い場合、別居時点から「株式や不動産などの評価額」が大きく減ったり増えたりすることがあります。
そのため、別居開始時点で想定していた財産分与がもらえなくなったり、逆に想定している以上の金額を払わないといけなくなることがあります。
長い別居中に共有財産が使われてしまう
ないところからはとれないお金
財産分与はあくまで別居時点の財産を分けるのですが、別居が長い場合には、別居時点にあった財産がなくなってしまっている場合があります。
この場合でも、もちろん配偶者に対して、別居時点の財産額で計算した財産分与を請求することはできます。
ところが、お金はないところからは出てこないので、認められた財産分与の金額を回収できなくなるおそれがあります。
別居後20年間で全部使ってしまった・・・
例えば、別居時点では共有財産が3,000万円あって、その全てが夫名義であったとします。
ところが、その後20年間別居している間に夫がそのお金を全て使ってしまったとします。
この場合でも、妻の夫に対する1,500万円の財産分与の請求は認められます。ところが、既にお金がないので、夫からその1,500万円を支払ってもらうことが現実的に難しくなります。
このように、別居が長い場合の財産分与では、別居後に資産が減少してしまい、法的にはもらえるはずの財産分与が事実上もらえなくなることもあります。
長い別居中の婚姻費用等の調整が必要
別居中、婚姻費用は払われていましたか・・・
別居後に長期間経過してから財産分与をする場合、過去の婚姻費用について高額な調整がなされ、財産分与の金額が想定しない金額になることがあります。
別居中5年間ずっと生活費を払っていませんでした・・・
例えば、別居時点での共有財産が、夫名義500万、妻名義500万だったとします。その後、5年間別居しましたが、この間、夫が妻に生活費や子どものための費用(婚姻費用といいます)を渡していなかったとします。そして、夫婦の収入の違いから本来月5万円婚姻費用を夫が妻に払うべきであったとします。
別居から5年して、妻が夫に財産分与を請求した場合、別居時の共有財産だけ見れば、財産分与額は0円(双方500万円ずつもっていたので)になるはずです。
ところが、5年分の未払いの婚姻費用が調整されると、月5万×12月×5年=300万円を夫が妻に財産分与として支払わなければいけなくなります。
長い別居中に財産分与の資料がなくなってしまう
財産分与の計算には別居時点の資料が必要
財産分与の額を計算するためには、別居時点での財産額を把握する必要があるのは、既に説明したとおりです。
ところが、10年、20年と長期間の別居していると、その間に、別居時点での共有財産として何があったかわからなくなってしまう可能性があります。
10年、20年前の資料は残っていますか?
例えば、10年、20年と別居している場合、別居時点でどの口座に預金がいくらあったか、どの証券会社にどれくらいの株式があったかなどがわかる資料が入手できなくなる可能性があります。
資料は捨ててしまったり、記憶が薄れてしまったりしますし、金融機関に取引履歴を求めても、一定期間以上経ったものは、保存期間を過ぎているとして開示されないこともあります。
まとめ:5年10年20年間の長い別居と財産分与
これまで見てきたように、5年、10年、20年と長期の別居を経てから離婚する場合、財産分与の請求や計算が、複雑になることが多いです。また、財産分与の金額を算定するにあたって、見落としてしまう落とし穴が多々あります。
そのため、長い別居の後に離婚するとき、財産分与を請求したい、または請求された場合は、間違いがないように弁護士に相談するのがおすすめです。