- 扶養的財産分与とは?
- 扶養的財産分与がもらえるケース
- 扶養的財産分与の金額の相場
- 扶養的財産分与がもらえる期間
- 扶養的財産分与の裁判例
扶養的財産分与とは?
- 離婚後の生活費を補償する目的の財産分与
- 扶養的財産分与はおかしい?もらえないのが普通
- 専業主婦やパートの離婚後の生活は厳しい
- 払いたくないと拒否されることが多い
離婚後の生活費を補償する目的の財産分与
扶養的財産分与というのは、配偶者の離婚後の生活費を補償する目的の財産分与のことをいいます。
次のように3種類ある財産分与のうちの一つです。
- 清算的財産分与
- 扶養的財産分与
- 慰謝料的財産分与
このうち、清算的財産分与というのは、通常の財産分与、つまりよくイメージされる夫婦の財産を離婚時に2分の1にする財産分与のことです。普通、財産分与と言ったら、この清算的財産分与のことです。なお、慰謝料的財産分与は、その名のとおり慰謝料のことですが、別途慰謝料として請求することが通常なので、財産分与として問題になることは基本的にありません。
扶養的財産分与はおかしい?もらえないのが普通
通常の清算的財産分与とは異なり、扶養的財産分与は認められないのが原則です。
法律上の他人に対する扶養義務を認めるのは「おかしい」からです。
もう少し詳しく解説します。
離婚後には、離婚した妻や夫とは、家族ではなくて他人になります。
離婚後にも頻繁に会ったり、仲がいい夫婦もいることはいますが、それでも法律上は「他人」です。ちなみに、子どもは離婚しても親子関係は継続するため他人にはなりません。
そして、民法という法律上、配偶者や子どもなどの家族を扶養する義務はありますが、他人を扶養する義務は当然ありません。
ということは、離婚後に、法律上の他人である元妻や元夫がどんなに生活に困っていたとしても、もう一方の配偶者は、生活費を払ったりする法律上の義務はないのです。
そうだとすると、他人に対して扶養義務を負うのは「おかしい」のではということです。つまり、扶養的財産分与は認められないのが原則ということがわかるかと思います。
実際に、裁判や審判で扶養的財産分与が認められるケースはほとんどありません。
専業主婦やパートの離婚後の生活は厳しい
扶養的財産分与が原則どおり認められないと、あまりに不公平な結論になってしまう場合があります。
例えば、ある人が結婚して、家事や子育てのために仕事を辞めて専業主婦になったとします。もしくは、正社員を辞めてパートになったとします。いずれにしても、収入が下がります。
そして、現代の日本社会では、一度正社員を辞めた後に、復帰する際には、ずっと正社員を続けていた人と比べれば、比較的収入が低くなってしまうのが現実です。なので、離婚後に仕事に復帰したとしても、仕事を辞めなかった人ほど稼げないことが多いでしょう。
それにもかかわらず、仕事を辞めなかった側が、辞めた側に対して、「離婚後は他人だから関係ない」というのは、それはそれで「おかしい」のではないでしょうか。仕事を辞めた側も結婚していなければ、離婚後にもっと稼げたはずだからです。
特に、仕事を辞めた側は、離婚後に自分の生活すらままならないのに対して、仕事を続けた側は生活に余裕がある、しかも離婚の原因は仕事を続けた側である場合には、あまりに不公平ではないでしょうか?
このように、あまりに不公平な例外的ケースには、離婚後の生活費の補償として、扶養的財産分与が認められることがあります。
払いたくないと拒否されることが多い
扶養的財産分与は、先ほど説明したように、原則としては認められないものです。
また、扶養的財産分与の考え方は、あまり浸透していないこともあり、扶養的財産分与を払うように要望しても、相手からは「払いたくない」と拒否されることが多いです。
そのため、扶養的財産分与の支払を求める場合には、できる限り説得的に、扶養的財産分与がもらえる例外的ケースにあたることを主張する必要があります。
離婚協議や離婚調停の話し合いでは、解決金的な内容で、離婚に応じることの条件として、実質的には扶養的財産分与を払ってもらえる可能性もあります。
扶養的財産分与がもらえるケース
- 最低限の要件:「お金がない」+「働けないor収入がない」
- 支払う側の要件:「お金に余裕がある」「ひどいことをした」
最低限の要件:「お金がない」+「働けないor収入がない」
まず、扶養的財産分与が認められるためには、最低限の要件として、離婚した夫婦の一方が要扶養状態にあることが必要です。
わかりやすく言うと、離婚したら「お金がない」、しかも、「働けないor十分な収入がない」場合には、離婚後の生活が成り立たないので、要扶養状態といえます。
もし「お金がある」場合には、たとえ離婚後働けなくても、貯金を切り崩して生活できるので、とりあえず生活は成り立ちます。
また「働けて十分な収入もある」場合には、たとえ離婚時にはお金がなくても、離婚後に自分で稼いだ給料で生活すれば良いので、離婚後の生活は成り立ちます。
ですので、要扶養状態というためには、
- 「お金がない」
- 「働けないor十分な収入がない」
の両方を満たす必要があるということです。
「お金がない」とは?
「お金がない」とは具体的にどのような場合でしょうか?
例えば、離婚時に、配偶者から慰謝料や通常の財産分与(清算的財産分与)として相当な金額をもらう場合には、「お金がない」とはいえないです。
離婚時に配偶者からもらうものがない場合であっても、結婚前に貯めた貯金や、親からの生前贈与・相続などで得た資産(特有財産といいます)が相当程度ある場合には、「お金がない」とはいえないです。
では、離婚時にいくらくらいの資産があれば「お金がある」のかというと、これはケースバイケースです。
例えば、重病で全く働けなく、今後も回復の見込みがない場合や、高齢者の場合などは、数百万円あっても「お金がない」といえることもあります。
逆に、小さい子のいない20代~40代の専業主婦で、離婚後に実家に戻れるが、仕事を見つけるまでは収入がないというくらいでしたら、100万円程度あれば「お金がある」とされることが多いでしょう。
「働けないor十分な収入がない」とは?
「働けないor十分な収入がない」とは、どの程度のことをいうのでしょうか?
例えば、重度の障害者や病気(身体的な病気、うつ病などの精神的な病気)のために、長期的に働くことができない場合が、「働けない」という典型例です。
他にも、熟年離婚の場合など、離婚時に高齢のために就職が困難な場合なども「働けない」といえるでしょう。
婚姻中ずっと専業主婦をしていたため、離婚後直ぐに仕事が見つかりそうにない場合は、一応「働けないor十分な収入がない」といえる可能性があります。
さらに、結婚中に共働きでパートなどをしていたが、パート収入だけでは生活できるほどの収入が得られない場合は、「十分な収入がない」といえる可能性があります。
ただし、障害、病気、高齢などにより働ける見込みが全くない場合と比較すると、専業主婦の場合や、パート収入のみしかない場合というのは、他に特別の事情がない限り、扶養的財産分与を認めるほどではないとされることが多いでしょう。
支払う側の要件:「お金に余裕がある」「ひどいことをした」
先ほどみた、「お金がない」や「働けない」というのは、扶養的財産分与が認められるための最低限の要件です。
これらを主張するだけでは、扶養的財産分与は認めてもらえません。
扶養的財産分与を認めてもらう可能性を上げるためには、これ以外に、相手に扶養する余裕があることや、相手が離婚後も扶養しないのは不公平であることを主張するのが良いでしょう。
離婚相手がお金持ち・高収入であること
離婚したら元配偶者とは他人になるので、単に一方の配偶者が要扶養状態にあるというだけでは、扶養的財産分与は認められないことがほとんどです。
あくまで、もう一方の配偶者に、離婚後も元配偶者を扶養する余裕がある場合でないと、認められません。
簡単に言えば、「離婚してもう他人なんだから何も面倒見ないよ」というのが不公平だといえるほど、相手に資産や・収入がある必要があります。
そのため、扶養的財産分与を認めてもらうためには、「離婚したら私は貯金や収入も少なくて生活に困るのに、相手はあんなに資産もあるし、高収入だ」と主張するのが良いでしょう。
離婚相手に有責性や主な離婚原因があること
これは公平性の問題ですが、「あなたの浮気やDVのせいで離婚することになったのに、離婚後一切生活の面倒を見てもらえないのはおかしい、不公平だ」という考え方です。
扶養的財産分与は、公平性の観点から認められるかどうか決まることもあるので、離婚原因が相手にある場合には、そのことをしっかりと主張しましょう。
ただし、逆に自分の浮気やDVで離婚に至った場合には、公平の観点から自業自得として、扶養的財産分与が認められることは基本的にないでしょう。
扶養的財産分与の相場とは?
いくら?金額の相場|婚姻費用よりやや少ない
いつまで?期間の相場|1年~3年?
いくら?金額の相場|婚姻費用よりやや少ない
扶養的財産分与認められる場合に、その金額をいくらにするかは、特に決まりはありません。
ただし、金額のおおよその考え方としては、次のとおりです。
まず、そもそも、扶養的財産分与の目的は、その名の通り「扶養」して、経済面で生活を送れるようにすることなので、生活保護基準の金額を参考にするという考え方もあります。
ただし、扶養的財産分与の金額を決めるにあたっては、それを払う側にどれくらい収入があるかが考慮されるので、結果的に、離婚前の婚姻費用を参考にすることが多いでしょう。
ただし、婚姻費用を参考にするが、婚姻費用よりは低い金額になることが多いでしょう。
法律上の扶養義務がある婚姻中よりも、扶養義務のない離婚後の方が金額が高くなることは、理論的にも考えにくいからです。
このため、扶養的財産分与の月額の相場は、婚姻費用よりも少し低い金額ということができるでしょう。
もちろん、これはあくまで相場に過ぎず、実際の金額は、双方の収入・資産状況、年齢、働けない理由、他の家族の有無などを考慮した上で、ケースバイケースにはなります。
いつまで?期間の相場|1年~3年?
扶養的財産分与がもらえる期間は、離婚関係の実務書には1年~3年程度と書かれていることが多いです。もう少し広い範囲で、半年~5年程度と書かれている本もあります。
ただし、扶養的財産分与は、「月額いくら」という形ではなくて、離婚時に「一括」で支払うように定められることも多いです。この場合、裁判例や審判例を見ても、離婚後いつまでの扶養的財産分与を認めたのかは、計算方法などは書いてないのでわかりません。
扶養的財産分与の対象となる期間については、要扶養者状態にある元配偶者にどれくらい「お金があるか」、どれくらい「働けない」か、支払う側にどれくらい余裕があるかなどを総合考慮して決められます。
例えば、離婚時に専業主婦・パートで十分な収入がないが働くことはできて、離婚時に数ヶ月分の生活費がある場合には、扶養的財産分与は認められたとしても半年~1年程度になることが多いでしょう。
他方で、重病、障害、高齢等の理由で、将来的に働くことができる可能性が全くなく、資産も少ない場合には、3年を超えて(例えば10年や最長で死亡までなど)認められることもあるでしょう。
扶養的財産分与の裁判例の紹介
卵巣切除・胃がんの手術、C型肝炎にかかった63歳の妻
卵巣切除・胃がんの手術、C型肝炎にかかった比較的高齢である妻は、清算的財産分与で土地と建物と約1700万円を受け取ったが、それに加えて扶養的財産分与として、死亡までの夫の年金と妻の年金の差額を認められた事例(横浜地裁相模原支部判決平成11年7月30日判時1708・142)
子どもがいない手取り約14万の派遣社員の妻
通常の清算的財産分与はなく、慰謝料もごくわずかしか認められていないが、妻は派遣社員として働いており、手取り月14万円弱の収入があったことから、離婚しても生活は困窮しないとして、扶養的財産分与は認められなかった事例(東京高判平成23年9月29日)
まとめ:扶養的財産分与について
扶養的財産分与について、これまで説明したことをまとめると、次のとおりです。
- 法的には認められないのが原則
- 「お金がない」+「働けないor不十分な収入」が最低限の要件
- 離婚相手が「お金持ち」+「離婚原因を作った」場合は認められやすい
- 月額の相場は、婚姻費用より少なめ、生活保護基準も参考
- もらえる期間は、半年~3年だがケースバイケース
- 請求しても相手に拒否されることも多い