- 宝くじ当選金は離婚時に財産分与の対象になる?
- 宝くじで2億円当選後に離婚した実例
- 小遣いで購入した場合や離婚後に換金した場合
- 宝くじ当選金を財産分与しない方法とは?
- 宝くじ当選金を財産分与分する割合は?
宝くじの当選金は離婚時に財産分与の対象
結論をカンタンにいうと、宝くじの当選金は離婚時に財産分与の対象となるケースが多いです。ここでは、その理由や裁判例を解説します。
- 宝くじが当たったら離婚する!当選金は夫婦で分ける?
- 当選金は夫婦の「共有財産」なのか?
- 宝くじで2億円当選後に離婚した裁判例を解説
宝くじが当たったら離婚する!当選金は夫婦で分ける?
「もし宝くじが当たったら、離婚する!」と密かに考えて、婚姻中に宝くじを買い続けていたら実際に当たった!・・・
離婚するつもりはなかったが、宝くじが高額当選したので、「当選金を独り占めしたいから離婚する!」と考えるようになった・・・
このような場面を想像してみてください。
宝くじに当選した後に離婚するとき、当選金を夫婦で分けることになるのでしょうか?
それとも、実際に宝くじを購入した夫婦の一方が、当選金を独り占めできるのでしょうか?
これは「宝くじの当選金が財産分与の対象になるのか」という問題です。
当選金は夫婦の共有財産なのか?
宝くじの当選金が法的に財産分与の対象になるかどうかは、一見単純なように見えますが、実はかなり難しい問題です。
離婚の際に財産分与の対象になるのは、夫婦の共有財産です。
この夫婦の共有財産というのは、夫婦が協力して手に入れた財産のことです。
「夫婦が力を合わせて貯めた財産なのだから、離婚の時には夫婦で分けましょう」ということです。
では、宝くじの当選金は、夫婦の共有財産といえるのでしょうか?
夫婦の一方が宝くじを購入したのであれば、購入した人の幸運のおかげであり、宝くじの当選について夫婦で協力したとはいえない気もします。
そうだとすると、当選金は共有財産ではないということになり、財産分与の対象外なのでしょうか。
まずは、宝くじ当選金と財産分与についての裁判例を見てみることします。
宝くじで2億円当選後に離婚した裁判例
宝くじの当選金が財産分与の対象になるかどうかが問題となった裁判例として、東京高裁平成29年3月2日決定があります。
具体的には、次のような事例です。
裁判例のあらすじ
夫は、毎月の給料35万円のうち2~3万円を小遣いにしていました。そして、その小遣いで毎月2千円ずつ宝くじを購入していたのです。
そして、あるとき・・・・・・!なんと宝くじで2億円が当選!
夫は2億円が手に入ったので、住宅ローンを一括返済し、仕事も辞めてトレーダーになりました。
ところが、トレーダーとしての運用がうまくいかず、当選金を切り崩して生活費を捻出していました。
その後、夫は再び就職して、給料月25万円と当選金から月5万円の合計30万円を毎月妻に渡して、家計を賄っていました。
その後、夫婦は離婚することになりましたが、離婚時の財産のほとんどが、宝くじの当選金かその当選金が元になったものだったのです。
妻は夫に、これらの財産分与を求めたため、宝くじの当選金が「共有財産」といえるのか、つまり財産分与の対象になるのかが問題になりました。
裁判例の結論とその理由とは?
この裁判例では、
- 宝くじの当選金は「共有財産」である
- 宝くじの当選金は「財産分与の対象」である
とされました。
その理由は、次のとおりです。
- 理由1:宝くじの購入資金である小遣いは、結婚後の収入から出ていること
- 理由2:当選金の使い道は、生活費や住宅ローン返済であること
つまり、この裁判例によると、宝くじ当選金なら必ず財産分与の対象となるというわけではなく、購入資金や当選金の使い道次第だというわけです。
次に、この2つの理由について解説します。
理由1:「小遣いは結婚後の収入」の解説
理由の1つ目は、宝くじの購入資金である小遣いは、結婚後の給料が元になっているということです。
これはどういうことかというと、まず、結婚後の給料は、夫婦が協力して稼いだので共有財産です。これはそういう決まりです。
そして、その給料が元になった小遣いも共有財産だ。さらに、その小遣いで購入した宝くじの当選金も共有財産だ。という意味です。
このように、共有財産である結婚後の給料→小遣い→宝くじ→当選金という流れを考えれば、最終的な宝くじの当選金も共有財産だと考えることができます。
理由2:「当選金の使い道」の解説
理由の2つ目は、当選金の使い道が生活費や住宅ローン返済であったことです。
まず夫婦は、お互いに経済的にも生活を助け合う義務があります。それにもかかわらず、もともと夫婦の生活費の元になっていた資産を、離婚した途端、夫婦の一方に独り占めさせることは、離婚後の生活のことを考えても不公平であるということです。
今回の裁判例の事例では、夫は宝くじが当選した後に仕事を辞めて、当選金を切り崩しながら生活しています。さらに、仕事に復帰した後も、生活費の一部を当選金で賄っています。
妻としては、宝くじの当選金で生活を賄っていたのに、離婚した途端、当選金は夫のものだから財産分与はないといわれてはたまったものではありません。
宝くじなど当選せずに、夫が仕事を辞めなければ、給料から貯金できていた可能性もあるからです。
裁判例の疑問点
ただし、この裁判例には疑問点もあります。
疑問点①
まず、そもそも小遣いは夫婦の共有財産なのかという問題です。
たしかに、小遣いの元となった給料自体は共有財産ですが、給料を夫婦の合意の下に小遣いとした段階で、既に夫の特有財産となったと考えることもできるのではないでしょうか
そうすると、購入代金の小遣いが特有財産→宝くじの当選金も特有財産ということもできます。
疑問点②
次に、そもそも宝くじの当選金は、小遣いが形を変えたものなのかということです。
たしかに、宝くじの券自体は、小遣いで購入しているので、小遣いが形をかえたものといえそうです。
ところが、「当選金」はどうでしょうか?宝くじが高額当選するのは、宝くじをいくら購入したかで決まるわけでも、購入者の才能・努力で決まるわけでもありません。ほとんど100%運で決まるといって良いはずです。
そうすると、宝くじの当選金は、購入代金が形を変えたものではなく、幸運によって得た偶然の利益といえるのではないでしょうか。
そうすると、宝くじの購入代金が共有財産かどうかは、当選金が共有財産かどうかとは全く関係ないことになります。
疑問点③
最後に、本当に当選金の使い道次第で、宝くじの当選金が共有財産になるのかという疑問もあります。
例えば、結婚前の貯金で、結婚後に自宅を一括購入した場合、その自宅を夫婦の生活の本拠地として生活のために利用していたとしても、自宅自体が共有財産となることはまずありません。
同じように考えると、宝くじの当選金が当選した時点で共有財産でないのであれば、その使い道を夫婦の生活費にしたとしても、当選金が後から共有財産になってしまうことはないのではないでしょうか?
宝くじ当選と離婚についての様々なパターン
結局、宝くじの当選金は財産分与の対象になるのでしょうか?
結局は明確な決まりはない以上、様々な要素を考慮した上で裁判所の裁量で決められることにはなりそうです。
もっとも、結論から言うと、ほとんどのケースでは宝くじの当選金は財産分与の対象になると判断されるのでは・・・と考えています。
その理由を、様々なパターンごとに見ていきましょう。
- 夫婦で宝くじを共同購入した場合
- 自分の小遣いで買った場合では・・・
- 結婚前のお金で宝くじを買っていたら・・・
- 換金前に離婚した場合は?
- 宝くじの当選を隠して離婚したら?
- 当たる前兆がしたので当選前に離婚したら
夫婦で宝くじを共同購入した場合
まず、夫婦で宝くじを共同購入していた場合で考えてみましょう。
この場合、夫婦で話し合い、共同で宝くじを購入している以上、そもそも夫婦双方に当選金をもらう権利があります。当選金は、夫婦で協力して取得したといえるので、当然「共有財産」となり、財産分与の対象になります。
どうしたら、「共同購入した」といえるかは、やや微妙ですが、結婚後の給料は共有財産である以上、結婚後の給料から、夫婦が話し合うか、他方の同意の下、宝くじを購入している場合などは共同購入したといえるのではないでしょうか。
自分の小遣いで買った場合では・・・
次に、夫婦の一方が自分の小遣い(結婚後の給料が元になったもの)で宝くじを購入した場合を考えてみましょう。
裁判例のケースと同じです。
先ほど説明したように、小遣いは夫婦の一方の特有財産と考えることもできますが、前記の裁判例からすれば、小遣いの元手が結婚後の収入である以上、小遣い自体も共有財産と判断される可能性が高いでしょう。
また、裁判例の考え方では、宝くじの購入代金と当選金に関係性があると考えているので、小遣いが共有財産である以上、当選金も共有財産とされる可能性が高いでしょう。
つまり、当選金が財産分与の対象になる可能性が高いです。
結婚前のお金で宝くじを買っていたら・・・
次は、結婚前に貯めたお金で、結婚後に夫婦の一方が宝くじを購入した場合を考えてみましょう。
このケースでは、そもそも結婚前のお金で宝くじを買ったということを証明できるかが最初の問題になります。
この証明がかなり難しいため、結局、結婚後の収入から購入したとされて、小遣いで購入した場合と同様に財産分与の対象になることが多いでしょう。
では最初の問題はクリアして、結婚前に貯めたお金で宝くじを購入したことを証明できたとします。
そうすると、次は当選金の使い道の問題があります。結婚生活中に宝くじに当選したことを隠して、当選した方だけが使うというケースはあまりないでしょう。実際には、当選金から生活費に回す部分が出てくるはずです。意識的にも無意識的にも生活水準も上がるでしょう。
このように、当選金を夫婦の生活費に利用している場合、裁判例の考え方からすれば、当選金を共有財産とする方向に働きます。
そうすると、結局、宝くじの当選金が財産分与の対象とされる可能性がそれなりに高いかと思います。
換金前に離婚した場合は?
離婚前に宝くじに当選し、離婚後に換金した場合はどうなるでしょうか?
換金前に離婚すれば、まだお金が入金されていないので、財産分与しなくても良いと考える人もいるかも知れません。
でも、そう都合良くはいきません。
離婚時点では、宝くじの換金前だとしても、すでに当選しているのであれば、当選金が財産分与の対象になることには変わりないでしょう。
換金前だとしても当選した時点で、当選金をもらう権利を取得しているからです。
同様に、別居前に当選し、換金前に別居したとしても、別居後に換金した当選金は財産分与の対象になるでしょう。
宝くじの当選を隠して離婚したら?
宝くじに高額当選したことに気づき、そのことを他方の配偶者に隠したまま離婚しようとしたらどうなるでしょうか。
まず宝くじの当選金は換金しなくても、財産分与の対象なのは先ほど説明したとおりです。宝くじの換金の期限は1年間が通常です。【参照:宝くじ公式サイト「時効当せん金について」】
そのため、離婚協議中に、当選金が口座に入金され、財産を開示した際に、当選した事実が発覚し、財産分与をせざるを得なくなるでしょう。
また、高額当選したことが、噂などで、他方配偶者の耳に入った場合には、離婚後であっても、その時点で財産分与の請求を求められる可能性があります。
当たる前兆がしたので当選前に離婚したら
宝くじに当選したら、ほとんどの場合には当選金が財産分与の対象になることはわかった。それなら、宝くじに当たる前兆がしたら、当選前に離婚してしまおう。こんなことは非現実的で、当然架空の話ですが、法的には面白い問題です。
なぜ面白いかというと、宝くじの券自体は、離婚前に夫婦の収入から購入していることを考えれば、離婚後に当選したとしても財産分与の対象になりそうだからです。
他方で、宝くじの当選金というのは、券自体が形を変えたものではなく、当選した時点の幸運の結果だと考えれば、離婚後に当選している以上、財産分与の対象にならないからです。
宝くじ当選金を財産分与しない方法とは?
ここまで、ほとんどのケースで、宝くじ当選金は財産分与の対象になるということを説明してきました。
それでは、結婚中の宝くじ当選金を、財産分与の対象外にして独り占めする方法はあるのでしょうか。
ここでは、できる限り、可能性が高い方法を考えてみます。
- 別居後に別居後の収入で購入
- 結婚前の資金で購入して生活費から分離
別居後に別居後の収入で購入
別居日以降に、別居後の収入で宝くじを購入して、その後に当選した場合は、その当選金は財産分与の対象にはならない可能性が高いです。
ただし、裁判例の考え方からすれば、宝くじ当選後に仕事を辞めて、当選金から相手配偶者に婚姻費用や養育費を払っていた場合には、当選金が財産分与の対象になる可能性もゼロとまでは言い切れません。
結婚前の資金で購入して生活費から分離
まず、結婚前の資金で購入したことを証明できるようにするために、結婚前のお金を貯めた預金だけが入っている口座から直接宝くじの購入代金が引き落とされるシステムや、宝くじをクレジットカードで購入して、その引き落とし口座を結婚前に貯めた預金だけが入っている口座にします。
さらに、使い道の問題もあるので、当選金は一切生活費には使用しません。どこまでが生活費かという問題もあるので、ほとんどの趣味の費用などにも利用できなくなるかと思います。
このようにするためには、仕事は辞めることはできませんし、生活水準を上げることもできなくなります。
ここまでやってはじめて、宝くじが財産分与の対象とならない可能性が出てきます。
ただし、これでも100%安心ではありません。
なぜかというと、宝くじの当選金が、結婚中の偶然の利益、例えば落ちているお金を拾ったようなものだと判断されれば、現在の家裁実務上、その当選金は財産分与の対象とされる可能性があるからです。
宝くじ当選金を財産分与分するときの割合は?
宝くじの当選金が財産分与の対象になるとしても、その分与割合が2分の1になるとは限りません。
通常財産分与は2分の1になるのですが、先ほど見た東京高裁の裁判例では、宝くじの当選金の財産分与割合を、宝くじを購入した夫6:妻4としています。
購入した夫の方が少し多くなっています。ただし、割合について理論的に決められているわけではないので、あくまで裁判所が公平の観点と妥当な結論を出すために裁量で決めているものでしょう。
当然ですが、宝くじ当選金なら6:4と決まったわけではありません。
ちなに、夫が購入した馬券による競馬の利益で、財産分与割合を、馬券を購入した夫3分の2、妻3分の1とした裁判例もあります(奈良家裁平成13年7月24日審判)。
まとめ:宝くじと離婚時の財産分与について
宝くじの当選金と離婚時の財産分与について、これまで説明したポイントをまとめると次のとおりです。
- 宝くじの当選金が財産分与の対象になるかは、一律に決まっているわけではなく、ケースバイケースであるが、実際にはほとんどのケースでは財産分与の対象になる。
- ただし、財産分与の割合は、通常のケースとは異なり、2分の1以外に修正されやすい。