民事裁判コラム

簡易裁判所とは?|扱う事件や地方裁判所との違いを解説

簡易裁判所とは?地方裁判所との違い
この記事でわかること
  • 簡易裁判所とは?簡単に言うと・・・
  • 簡易裁判所で扱う事件とは?
  • 簡易裁判所と地方裁判所の違いとは?

簡易裁判所とは?簡単に言うと・・・

簡易裁判所とは、簡単に言うと、「規模の小さい紛争簡易な手続早く解決するための裁判所」です。

例えば、地方裁判所で民事訴訟の手続を利用すると、終わるまでかなり時間がかかることが多いです。▶民事裁判にかかる期間と流れを弁護士が解説|時間がかかる理由は?

他方で簡易裁判所では、地方裁判所で扱う事件よりも小さい紛争を、地方裁判所よりも簡易な手続で、地方裁判所よりも早く解決することを特色としています。

今回は、簡易裁判所で扱う事件地方裁判所との違いを解説することにより、簡易裁判所がどんな裁判所なのかを具体的にイメージできるようにしたいと思います。なお、簡易裁判所では刑事事件も取り扱っていますが、今回は民事事件についてのみ解説します。

簡易裁判所で扱う事件とは?

  • 140万円以下の事件
  • 合意管轄のある事件(借金クレカ滞納など)
  • 少額訴訟支払督促
  • 140万円以下でも地方裁判所で扱う事件
  • 簡易裁判所から地方裁判所への「移送

140万円以下の事件

簡易裁判所で扱う事件は、基本的に、相手への請求額が140万円以下の事件です。

裁判所法第33条(裁判権)

簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。
1 訴訟の目的の価額百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)

このように140万円以下の事件に限定される理由は、簡易裁判所の目的が、規模が小さい事件についてい早くかつ柔軟に紛争を解決することだからです。

ちなみに、簡易裁判所では「簡易裁判」という裁判を扱っていると誤解している人がたまにいますが、「簡易裁判」という名称の裁判はありません。簡易裁判所で扱うのは、請求額140万円以下の通常の民事訴訟か、後で説明する少額訴訟支払督促という名称の裁判です。

合意管轄のある事件(借金やクレカ滞納など)

銀行・消費者金融からの借金の滞納分クレジットカード利用料金の滞納分の請求については、請求額140万を超えていても、簡易裁判所で行なわれることが多いです。

これは、金融機関との契約書の中に、裁判をする場合には簡易裁判所で行なう旨の条項が入っていることが多いからです。

このように、請求金額140万円超の事件でも、当事者が簡易裁判所で裁判を行なうことに合意していた場合には、簡易裁判所で裁判を行なうことができます。これを合意管轄といいます。

少額訴訟や支払督促

簡易裁判所では、地方裁判所でも行なわれている「通常の民事訴訟」以外にも、少額訴訟支払督促の手続を扱っています。この2つの手続については、また別の記事で詳しく解説する予定です。

140万円以下でも地方裁判所で扱う事件

請求金額が140万円以下の事件は、必ず簡易裁判所で扱うのかというと、実は違います。

例えば、不動産に関する訴訟は、請求金額が140万円以下であっても、簡易裁判所と地方裁判所の両方で扱われます。不動産に関する訴訟とは、例えば建物を相手に貸したけど、賃料を払わなくなったので、出て行って欲しいというような事件のことをいいます。

なお、規模が小さい事件であっても、行政訴訟(国や地方公共団体を相手にして、行政処分の取消しを求める訴訟などのことです。)は、簡易裁判所で取り扱うことができません。

簡易裁判所から地方裁判所への「移送」

本来は簡易裁判所が扱うことになっている事件の訴状を地方裁判所の受付に持っていった場合、地方裁判所にの受付で、簡易裁判所に訴状を提出するように案内されるはずです。

では、その案内を断って地方裁判所の受付に提出した場合どうなるでしょうか。地方裁判所は、原則として簡易裁判所に事件を送ってしまいます。これを「移送」といいます。

この場合、事件を地方裁判所から簡易裁判所に移送するという手続が必要になる分、初回の期日までの時間が長くなるため、無駄な時間がかかってしまいます。

ただし、地方裁判所が相当と認めるときには、簡易裁判所に事件を移送せず、そのまま地方裁判所で審理してくれることがあります。例えば、事件の規模が小さくても、時間がかかりそうな場合や、難しい法律の解釈が問題になりそうな場合などは認めてくれる可能性があります。

簡易裁判所と地方裁判所の違いとは?

  • 事件の規模(簡裁は140万円以下:地裁は140万円超)
  • 裁判所の(簡裁は438ヶ所:地裁は253ヶ所)
  • 欠席時の擬制陳述(簡裁は2回目以降も:地裁は初回のみ)
  • 代理人になれる人(簡裁は家族なども:地裁は弁護士のみ)
  • 司法委員という民間人の参加(簡裁はあり:地裁はなし)
  • 裁判にかかる期間(簡裁は2~4か月:地裁は1年~1年半)
  • 提出書面に関するルール(簡裁は緩い:地裁は厳しい)
  • 訴え提起の方法(簡裁は口頭OK?:地裁は訴状を提出)

事件の規模(簡裁は140万円以下:地裁は140万円超)

先ほど説明したとおり、簡易裁判所で扱う事件は、基本的に相手に支払を求める請求金額が140万円以下の事件だけです。

簡易裁判所では、扱う事件の規模が小さい分、早くかつ柔軟に紛争を解決することを目的としているからです。

地方裁判所では、事件の規模や請求額に限定はありません。140万円超の事件は、基本的に地方裁判所で扱うことになります。

裁判所の数(簡裁は438ヶ所:地裁は253ヶ所)

簡易裁判所の数は日本全国で438ヶ所です。これに対して、地方裁判所の数は253ヶ所(本庁50ヶ所、支部203ヶ所)です。このように、簡易裁判所の数は地方裁判所の数の約1.7倍です。

例えば、千葉県内でいうと、地方裁判所は、千葉、佐倉、一宮、松戸、館山、八日市場、佐原の8ヶ所にあります。簡易裁判所は、地方裁判所のある8ヶ所に加えて、市川、東金、銚子の3ヶ所にも設置されており、合計で11ヶ所にあります。

このように裁判所の数が多いということは、自宅など自分の生活の本拠地から頼近い裁判所を利用できる可能性があるということです。▶裁判所の管轄とは?裁判をする場所の決め方

例えば、船橋市に住んでいる人は、地方裁判所であれば、千葉市まで行く必要がありますが、簡易裁判所であれば、自宅から近い市川市の裁判所まで行けばよいことになります。

欠席時の擬制陳述(簡裁は2回目以降も:地裁は初回のみ)

地方裁判所の場合:初回期日欠席だけ擬制陳述OK

地方裁判所では、初回の期日のみ、事前に準備書面や答弁書を提出しておけば、期日に欠席しても書面に書いてある事実を主張したものとみなしてもらえます。これを擬制陳述といいます。

ただし、原告が出頭しないと裁判手続が休止されてしまうので、原告は初回の期日からちゃんと出頭しましょう。▶民事裁判に出廷しないとどうなる?原告or被告欠席の場合

また、2回目以降の期日では擬制陳述は認められないので、原告も被告も原則として裁判期日に出席する必要があります。

簡易裁判所の場合:2回目以降の欠席も擬制陳述OK

簡易裁判所では、初回の期日はもちろんですが、2回目以降の期日で欠席しても、擬制陳述が認められます。

ただし、簡易裁判所でも、提出したい証拠がある場合には、期日に出席する必要があります。そうすると、自分が原告として訴えを提起した場合、通常は証拠を提出する必要があるので、期日に出席する必要があると考えておいた方がよいでしょう。逆に、自分が被告として訴えられた場合、提出したい証拠がなく、答弁書や準備書面のみで反論を済ませることができるのであれば、出席する必要はないということになります。

代理人になれる人(簡裁は家族なども:地裁は弁護士のみ)

地方裁判所では、代理人になれるのは基本的に弁護士だけです。

他方で、簡易裁判所では、弁護士以外にも、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)であれば、無条件で代理人になることができます。

さらに、簡易裁判所では、裁判所の許可があれば、「誰でも」代理人になることができます。ただし、どんな人でも許可が出る訳ではありません。例えば、①当事者が高齢・病気の場合には家族、②当事者が会社の場合には従業員が代理人として認められることがあります。

なお、裁判所の許可をもらうためには、家族であること等を証明する資料(戸籍など)が必要です。

司法委員という民間人の参加(簡裁はあり:地裁はなし)

簡易裁判所では、裁判官以外に司法委員という民間人が、裁判手続に協力します。和解の話し合いなどは、裁判官ではなく司法委員を介してすることが多いです。また、尋問中にも、裁判官だけでなく司法委員からも質問されることがあります。

地方裁判所では、このような司法委員の制度はありません。

裁判にかかる期間(簡裁は2~4か月:地裁は1年~1年半)

簡易裁判所では、取り扱う事件の規模が小さい分、期日の回数も審理期間も地方裁判所と比べてとても短いです。だいたい2~4か月で審理が終わることが多いです。審理が早く終わるというのはとても大きいメリットです。

ただし、簡易裁判所で行なうことが近年増えている交通事故の物損や軽症の人損についての損害賠償請求については、複雑な争点があることも多く、地方裁判所での裁判と同じくらい時間がかかることも珍しくありません。

なお、審理が早く進む分、準備に時間がかかるような証拠を提出しようと思っても、裁判所は待ってくれない可能性があります。提出したい証拠がある場合には、ちゃんと事前に準備しておきましょう。

なお、地方裁判所では、1年~1年半くらいの期間がかかります。▶民事裁判ってどれぐらいの期間がかかるの?

提出書面に関するルール(簡裁は緩い:地裁は厳しい)

簡易裁判所では、訴状に記載する内容として「請求の原因に代えて、紛争の要点を明らかにすれば足りる」(民訴法272条)とされています。

他方で、地方裁判所では、この「請求の原因」を訴状に書かないと行けません。

紛争の要点」というのは、おおまかにどのような争いが、いつ、だれとだれとの間であったのかということがわかればよいので、「請求の原因」よりも書くのも簡単です。

また、裁判所に提出する書類全般について、簡易裁判所では弁護士なしで裁判する人が多いこともあり、記載内容に関する要求の程度が緩いです。他方で、地方裁判所では、裁判官にもよりますが、書面の記載に少しでも誤りがあると、訂正されるように要求されることが多いです。

訴え提起の方法(簡裁は口頭OK?:地裁は訴状を提出)

地方裁判所では、訴え提起には、「訴状」という書面を裁判所へ提出する必要があります(民訴法134条1項)。

他方で、簡易裁判所では、一応、法律上は「口頭」による訴え提起ができることになっています(民訴271条)。

ただし、簡易裁判所の受付の運用上、この制度が利用されることはまずありません。簡易裁判所の窓口には、訴状の定型書式が置いてあることが多く、実際に口頭で訴訟を提起しようとしても、その訴状書式に記入して提出するように求められることが多いかと思います。

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弁護士豊田友矢
豊田 友矢
船橋シーアクト法律事務所の代表弁護士 千葉県弁護士会所属(第49837号) 交通事故・離婚・不貞慰謝料・遺産相続・中小企業法務等の相談を多数取り扱っている。