民事裁判にかかる期間はどれくらい?
民事裁判の平均期間は1年~1年半
お金を貸したのに返してくれない、交通事故で怪我をしたのに相手の保険会社が少ししか賠償金を払ってくれない、妻や夫が不倫をしているので相手に慰謝料を払ってほしい…などの理由で裁判を提起したとします。
この場合、日本では、第1審(1回目の裁判のことです。民事裁判だと地方裁判所や簡易裁判所で行われます。)の裁判が終わるまで、平均で1年~1年半かかると言われています。早い場合には3か月で終わることもありますし、長いと5年も10年もかかることがあります。
これを聞くと,そんなに時間がかかるの~!?と思う方もいらっしゃると思います。裁判に時間がかかる理由は事件の種類などの色々な事情が関係しているため,一言で説明することはできません。
そこで,今回は民事裁判がどんな流れで行われているのかをご紹介したいと思います。
民事裁判の流れとスケジュール感
裁判は1~2ヶ月に1回のペースで開かれる
裁判は1~2か月に1回のペースで進んでいきます。
裁判は期日の前に事前にお互いが裁判官に主張したいことを書いた準備書面や証拠を提出し,事前に内容を読んでから期日で話し合いをすることになっており,そのお互いの準備期間は通常1カ月という慣習が定着しているからです。
また,日本の裁判官は一人当たり100~250件程度の事件を担当しており,忙しいという事情も関係しています。
民事裁判はほとんど非公開で進められている
法廷で民事裁判を傍聴しても,裁判官が弁護士に「準備書面を陳述しますか」と聞いて,弁護士が「はい,陳述します」というやり取りをして,次回の期日を調整して終わるというだけの期日がほとんどです。これでは何をしているか全くわからないと思います。
実は,今の民事裁判では,具体的なやり取りは公開の法廷ではなく,非公開の個室でしています。個室は小さな会議室のようになっており,裁判官と当事者との距離間が近くなるため,ざっくばらんな議論をすることができ,法廷でのやり取りよりも話が進みやすいからというのが主な理由です。
そのため,今の裁判は,1回目は公開の法廷で軽いやり取りを行い,2回目以降は非公開の個室で詳しい話を行い,最後の尋問などは公開の法廷で行うという流れで進んでいきます。
非公開の個室で、まず争点の整理をしている
非公開の個室で何を話し合っているのかというと,まず争点の整理をしています。
相手に300万円を貸したけど,約束の期限を過ぎても返してくれないので支払って欲しいという貸金返還請求の裁判を例にご紹介します。
裁判では,最初に原告から「訴状」といって請求の内容やその理由を書いてもらった書面が提出されます。
貸金返還請求の裁判では,相手に○月○日に300万円を貸したけど,約束の期限の○月○日を過ぎても返してくれないので支払って欲しいという内容が書いてあります。
そうすると,被告から「答弁書」といって原告の訴状に対する反論を書いた書面が提出されます。
反論の仕方にはいろいろな種類がありますが,典型的な反論として,①そもそも借りていないので,300万円を受け取っていません,②300万円は受取ったけど,もらったものなので返すつもりはありません,③300万円借りたけど,ちゃんと返済しました、といった内容が考えられます。
そうすると,①の場合には,「そもそも300万円を渡して貸しのたかどうか」に争いがあるので,これが争点になり,原告側で300万円を渡して貸したという経緯を詳しく説明する「準備書面」を提出し,さらに「借用書」など相手に300万円を渡して貸したことを証明する証拠を提出する必要が出てきます。
次に,②の場合には,300万円を渡したことに争いはないが,「渡した300万円は貸金なのか,それとも贈与なのか」ということに争いがあるので,これが争点になります。これも,原告側で300万円が貸金であることを説明する「準備書面」を提出し,さらに「借用書」などで貸金であることを証明する証拠を提出する必要が出てきます。
一方で,③の場合には,300万円を貸したことに争いはないが,「300万円をかえしたかどうか」に争いがあるので,これが争点になります。これは①や②の場合と違って,被告側で300万円を返したことを説明する「準備書面」を提出し,さらに「領収書」などで返したことを証明する証拠を提出する必要が出てきます。
このように,裁判では被告の反論によって争点は何なのか,どちらが準備書面や証拠を出して裁判官を説得できるよう頑張らないといけないのかが変わってきます。
そういった争点の整理をするためには、いろいろ細かい話をする必要が出てくるので、非公開の個室で,裁判官と弁護士とで争点が何か,どちらがどんな準備書面や証拠を提出するのか,どれぐらいの準備期間が必要かなどについて話し合ったり,確認することが行われています。
複雑な事件だと,争点がたくさんあるので相当の時間がかかってしまいます。争点の整理で1年を超える事件も珍しくありません。
争点の整理が終わると、尋問の準備をしている
争点の整理が終わると,引き続き非公開の個室で尋問の準備をします。
尋問はお互いの出頭や準備の負担が大きいので,今の裁判では,争点を絞って一日でコンパクトに終わらせるのが基本です。
尋問の準備として,だれを尋問するのか,いつするのか,時間はどれぐらいにするのか,といったことを話し合います。
だれを尋問するかは争点の整理の結果を踏まえて,争いがある部分に関係しているのか,重要な証人かどうかなどの視点から,裁判所が決めています。希望した人なら全員尋問できる訳ではありません。
尋問前に和解をすることもある
また,尋問の準備と同時並行で,和解の話し合いが行われることも多いです。争点の整理はお互いが主張や書面の証拠を提出し合いながら行われるので,争点の整理が終わると,裁判官もおおよその結論を考えることができていおり,その結論を踏まえた解決方法を話し合うことになります。
尋問前に和解をするメリットもあるので(メリットが何なのかはまた後日ご紹介します。),和解で終わるということも結構多いです。
尋問が終わると,判決が言い渡される
尋問の準備が終わり,尋問前の和解が難しい場合には,尋問に進みます。尋問は公開の法廷で行います。
尋問が終了すると,お互いの主張したいことを最終的にまとめた準備書面を提出して終わります。裁判官は最後の期日が終了してから1~2か月程度で判決を書くので,判決の言い渡しは最後の期日から2カ月程度後に行われます。
また,尋問の後に和解の話し合いをすることもあります。
判決が当事者に届いてから確定するまで2週間必要になる
判決の言い渡しが行われた後,裁判所から原告と被告に判決が郵送されます。
判決で負けてしまった部分がある側は,控訴をすることができます。控訴の期限は2週間後なので,判決が確定するまで2週間がかかることになります。
ここまでが,第1審の手続です。控訴されると,さらに裁判の期間が延びることになってしまいます。裁判にはお金も時間もかかるというのは,こういった事情が関係しています。