- 弁護士費用を相手に請求できる?
- 不倫慰謝料請求の場合は?
- 交通事故の損害賠償の場合は?
- 訴訟費用や裁判費用を相手に請求できる?
弁護士費用を相手に請求できるのか?
- 相手のせいで弁護士に依頼したのだから・・・
- 弁護士費用は相手に請求できないのが原則!
- 不貞慰謝料や交通事故など損害賠償の裁判をする場合
- 相手に請求できるのは払った弁護士費用全額ではない!
- 示談交渉の段階で弁護士費用を請求できないのか?
相手のせいで弁護士に依頼したのだから・・・
交通事故の加害者に損害賠償請求したい、配偶者の不倫相手に慰謝料請求したい、浮気をした配偶者と離婚したい、お金を貸した相手がお金を返してくれないので裁判したい・・
こんなとき、弁護士に依頼するために払った弁護士費用は相手に請求したいと考える方は多いです。
相手のせいで弁護士に依頼したのだから、弁護士費用も相手が払うべきなのでは・・というワケです。その気持ちはわかります。では、実際に払った弁護士費用を相手に請求できるのでしょうか?
弁護士費用は相手に請求できないのが原則!
いきなり結論からいうと、弁護士費用は、相手に請求できないのが原則です。
仮に相手が悪くて弁護士に依頼した場合であっても同じです。そもそも、弁護士に依頼するかどうかは自由だというのが、弁護士費用を相手に請求できない理由の1つです。
相手に慰謝料を請求するのも自分でやってもいいし、弁護士に依頼してもいい。・・でも弁護士に依頼するなら、弁護士費用は自分で払わないといけないということです。
もちろん、弁護士費用を払わざるを得なくなったことを考慮して慰謝料の額を決めたり、法的なハナシは別にして、任意に弁護士費用分も含めてお金を払う内容の示談をすることは、支払う側が承諾するのであれば問題ありません。
このように、悪いことをした方が相手の分の弁護士費用相当額を補償して示談しているケースもあるかとは思います。あくまで法的には請求できないのが原則ということです。
不貞慰謝料や交通事故など損害賠償の裁判をする場合
不法行為に基づく損害賠償請求の裁判をする場合には、例外的に弁護士費用を損害として請求できることになっています。
「損害賠償請求で裁判する時は弁護士費用を請求できる」と法律に明確に書かれているわけではないのですが、最高裁の判例で認められて以降、裁判実務では定着しています。
ちなみに、不法行為に基づく損害賠償がどういうものかというと、例えば、不貞行為や名誉毀損による慰謝料請求、交通事故の人損・物損の損害賠償請求などです。
逆に「不法行為に基づく損害賠償」ではないもとして、貸したお金の返還請求や離婚調停などがあります。これらを弁護士に依頼しても、弁護士費用を相手に請求できません。
なお、たまに少額訴訟でも弁護士費用を相手に請求できるのか聞かれることがあります。請求の中身が不法行為に基づく損害賠償請求なのであれば、理論的には弁護士費用を請求できますが、そもそも様々な理由により弁護士が少額訴訟を行なうことはほとんどないため、少額訴訟の弁護士費用を相手に請求する場面が想定できません。
相手に請求できるのは払った弁護士費用全額ではない!
不法行為の損害賠償請求の裁判であれば相手に弁護士費用を請求できるといっても、相手に請求できるのは、実際にかかった弁護士費用ではありません。あくまで、裁判で認められた損害額の1割だけです。
また、「請求した損害額」ではなくて、あくまで「認められた損害額」の1割ということも注意が必要です。
例えば、不貞慰謝料を200万円、弁護士費用をその1割の20万円請求したとしても、最終的に判決で認められた慰謝料が100万円なのであれば、最終的に認められる弁護士費用もその1割の10万円にすぎません。
この認められた損害額の1割というのは、実際にかかる弁護士費用の半分にも満たないことがほとんどで、場合によっては実際にかかった弁護士費用の10分の1未満であることもあります。
ちなみに、相手に請求できる弁護士費用が損害額の1割ということを定めた法律もないのですが、仮に実際にかかった弁護士費用全額を請求したとしても、裁判実務上認められることはまずありません。
示談交渉の段階で弁護士費用を請求できないのか?
不貞行為や名誉毀損による慰謝料を、裁判ではなく、示談交渉で請求する場合にも弁護士費用分として損害額の1割を加算して請求できるのでしょうか?
実は裁判外の弁護士費用を法的に相手に請求できるかは、微妙なところです。最高裁の判例や裁判実務では、不法行為に基づく損害賠償請求の「裁判」を弁護士に依頼した場合に、弁護士費用を損害として認めています。もちろん、裁判で弁護士費用が認められたということは、当然ながら裁判を弁護士に依頼しているはずなので、当たり前のことともいえます。
他方で、裁判前の示談交渉の弁護士費用が損害として認められるかについては、特に法律や最高裁の判例があるわけではないので、理論的には認められる可能性もあります。ただ、例えば、示談交渉を弁護士に依頼して、一部お金を回収した後に、足りない部分について裁判を弁護士に依頼したとしても、裁判所は裁判で認められた足りない部分の損害の1割しか弁護士費用を認めないはずです。つまり、示談交渉時に一部回収したお金の1割については弁護士費用を認めてもらえないということです。
そうすると、現在の裁判実務では、やはり裁判をしない限り、弁護士費用は損害としては認めていないのではないかと思います。
「訴訟費用」や「裁判費用」を相手に請求できる?
裁判をするときに、訴状に「訴訟費用は被告の負担とする」と書いて訴訟費用を請求したり、判決文でも「訴訟費用は被告負担とする」と書かれることがあります。
このように、裁判では相手に「訴訟費用の負担」を求めることができるのです。
そのため、このような「訴訟費用の負担」のことを聞いたり調べたりした方は、「裁判のための弁護士費用=裁判費用」も相手に負担を求められるはずではないのかと、疑問に思うかも知れません。
これは、「訴訟費用」という言葉が、日常用語では弁護士費用も含むものとして使われていることから生じる誤解です。
実は、「訴訟費用は●●の負担とする」というときの訴訟費用とは、日常用語ではなく法律用語で、弁護士費用は含まれていないのです。▶民事裁判の訴訟費用とは?|弁護士費用との違い
訴訟費用というのは、裁判をするときに裁判所に納める印紙代などの実費のことです。
そのため、「訴訟費用を被告の負担とする」という判決をもらっても、裁判のための弁護士費用(裁判費用)は相手には請求できません。
より詳しく:交通事故の弁護士費用の請求について
特に交通事故の弁護士費用について相手に請求できないか聞かれることが多いため、より詳しく解説します。
示談交渉では弁護士費用を請求しないのが通常
交通事故の示談交渉時には、弁護士費用を請求しないことが通常です。
これは、示談交渉時に弁護士費用を請求したとしても保険会社が応じることはまずないため、わざわざ余計な争点を増やして示談交渉期間を延ばしてもメリットがないことが理由の1つです。
また、法的な側面からも、不法行為の弁護士費用の一部を加害者負担にできるのは、裁判を弁護士に依頼する必要があった場合に限られるとの考えもあります。
そうすると、示談交渉の段階では、そもそも弁護士費用を相手に請求することができないということになります。
裁判では弁護士費用を請求できるが実際にかかった金額ではない
逆に交通事故の裁判をする場合には、弁護士費用を請求するのが通常です。
ただし、ここでいう弁護士費用というのは実際に依頼者が支払ったまたは支払う予定の弁護士費用の金額とは違います。
過去の裁判例や現在の裁判所の運用から、裁判で認められる弁護士費用は、弁護士費用以外の賠償金の額の約10%となります。なお、特別な事情がある場合には10%を下回ることもありますが、逆に10%を超えることはありません。
そのため、裁判では、実際に依頼者がいくら弁護士費用を支払ったかとは無関係に、請求する賠償金の額の1割を弁護士費用として請求します。
その結果、裁判で認められる弁護士費用は、裁判所が認めた賠償額の1割になります。
例えば、交通事故の賠償金1000万円を請求する裁判を弁護士に依頼し、実際に弁護士費用が200万円かかるとします。
裁判の結果、裁判所が認めた賠償金が700万円であった場合、弁護士費用はその1割の70万円だけが認められる(加害者に請求できる)ということになります。
このように実際には弁護士費用が200万円かかっていても、加害者に請求できる弁護士費用は70万円だけになるということです。
裁判中に和解する場合は弁護士費用という項目はないのが通常
交通事故の裁判では約7割程度の事件が和解により終了します。そして和解の際には裁判所から和解案が書面で出されるのが通常です。
この和解案では、弁護士費用の項目は0円とされるか、削られています。
それでは、和解する場合には弁護士費用が一切考慮されないのかというとそうではありません。
交通事故の裁判所和解案では通常、「調整金」という項目が追加され、ここに弁護士費用の一部と遅延損害金の一部が含まれていると考えることができます。
調整金の金額は、裁判所の裁量により決定されますが(調整金自体がないこともあります)、弁護士費用+遅延損害金の合計額の半分くらいのことが多いです。
弁護士費用特約を利用した場合の注意点
弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼した場合には、注意が必要です。
仮に、裁判で弁護士費用分の損害額が認められたとしても、弁護士費用特約を利用したために実際には弁護士費用を一切負担していない場合には、相手から取得した弁護士費用分を弁護士特約の保険会社に返還する必要が出てきたり、今後支払う予定の弁護士費用を弁護士費用特約で請求できなくなるということにもなります。
もっとも、判決にはせずに和解となった場合には、「調整金」という項目になることが通常であるため、これを遅延損害金のみであるか、あるいは単に解決金であると考えることもできるため、弁護士費用特約は通常通り利用できるし、すでに支給された弁護士費用を返還する必要もないと考えられます。
弁護士費用を請求するために裁判をするのが本当に良いのか
このように交通事故の弁護士費用は裁判をしない限り相手に請求することはできません。
そうすると、それならば全て裁判にすれば良いのではないかと考える方もいるかと思います。
ところが、裁判をしたことによって賠償金そのものが下がってしまう場合もあります。そうすると、いくら弁護士費用分である賠償金の1割が追加されたところで、裁判をしない方がよかったということになってしまいます。
裁判をするかどうかは、弁護士費用を請求できるかどうかで決めるのではなくて、賠償金が裁判により増額する可能性と減額される可能性を比較検討して決めることになります。
弁護士費用を請求できることは裁判をするかどうか決めるにあたっては、決め手とはなりません。
裁判にしないでも弁護士費用を交渉材料として使うこともある
交通事故事件の中には、例外的ですが、想定される争点がなく、裁判にした場合に減額される可能性がほぼない事案(過失割合に争いのない高齢者の死亡事故事案など)もあります。
このような事案で、しかも損害額が多額の場合には、裁判で認められる可能性のある弁護士費用相当分を考慮して示談交渉をすることもあります。
まとめ:弁護士費用を相手に請求できるか
弁護士費用を相手に請求できるかについて、まとめると次のとおりです。
- 相手が悪くても弁護士費用は相手に請求できないのが原則
- 不法行為の損害賠償請求で裁判を依頼すれば請求できる
- その場合も請求できるのは払った弁護士費用の一部だけ
- 損害賠償請求でも示談交渉では弁護士費用は請求できないのが普通
- 「訴訟費用」が相手の負担になっても弁護士費用の負担とは違う
つまり、いくら相手が悪くても自分が依頼する弁護士費用の全部を相手に払ってもらうことはまず無理と考えた方が良いでしょう。