お金を請求する民事裁判を1回するのに、裁判費用はいくらかかるのでしょうか?
ここでは、民事裁判費用の平均・相場について弁護士が解説します。
- 民事裁判を起こす費用は4種類の費用の合計額
- 裁判費用①:弁護士費用の平均・相場
- 裁判費用②:弁護士に支払う実費の平均・相場
- 裁判費用③:裁判所に支払う実費の平均・相場
- 裁判費用④:調査等のための実費の平均・相場
- 民事裁判を1回起こす費用の具体例
民事裁判を起こす費用は4種類の費用の合計額
まず「裁判費用」が何を意味するかを先に決めておきましょう。なぜかというと、裁判をするときにかかる費用のうち、どこまでを「裁判費用」に含めるかは人によって違うからです。
今回は、裁判をするためにかかる全ての費用を「裁判費用」と呼ぶことにします。この意味の「裁判費用」に含まれるものは、大きく分けて次の4種類があります。
- 弁護士費用
- 弁護士に支払う実費
- 裁判所に支払う実費
- 調査等のための実費
なお、弁護士に依頼しない本人訴訟の場合、①と②はかからないので、裁判費用というのは③と④の合計額になります。
それでは、これらの4種類の費用について、それぞれいくらくらいかかるのかを見ていきましょう。
裁判費用①:弁護士費用の平均・相場
- 弁護士費用とは
- 着手金・報酬金方式の場合の相場
- タイムチャージ方式の場合の相場
弁護士費用とは
弁護士費用とは、裁判を弁護士に依頼するための費用です。4種類の裁判費用の中で、この弁護士費用が一番大きな金額になることが通常です。裁判費用のうち、ほとんど(9割以上)が弁護士費用であることも珍しくありません。
裁判を依頼する場合の弁護士費用の算定方式は、着手金・報酬金方式かタイムチャージ方式かの2種類があります。
いずれの場合も、一律の決まった金額があるわけではなく、弁護士と依頼者の契約により自由に金額を設定して良いため、依頼する弁護士との契約内容によって金額が大きく変わってきます。
ただし、弁護士費用が一律であった時代に使われていた昔の基準を参考にすることが多いため、この基準の金額が平均・相場と言っても良いかと思います。
着手金・報酬金方式の場合の相場
着手金・報酬金方式の場合、裁判をするためにかかる弁護士費用は、請求金額と、裁判で認められた金額により大きく変わってきます。
着手金は請求金額ベースで、報酬金は裁判の結果認められた金額ベースで算定されるのが通常です。
着手金の平均・相場
着手金の平均・相場は以下のとおりです。
ただし、裁判前に交渉を行なった後に裁判へ移行する場合には、追加着手金として、以下の金額の25~50%が追加でかかることがあります。
また、離婚裁判のように金銭的請求がメインではない場合には、請求額にかかわらず固定金額が設定されるのが通常です。
請求額 | 着手金の額 |
300万円以下の場合 | 請求額の8% |
300万円を超え3000万円以下の場合 | 請求額の5%+9万円 |
3000万円を超え3億円以下の場合 | 請求額の3%+69万円 |
3億円を超える場合 | 請求額の2%+369万円 |
報酬金の平均・相場
報酬金の平均・相場は以下のとおりです。
裁判で認められた額 | 報酬金の額 |
300万円以下の場合 | 認められた額の16% |
300万円を超え3000万円以下の場合 | 認められた額の10%+18万円 |
3000万円を超え3億円以下の場合 | 認められた額の6%+138万円 |
3億円を超える場合 | 認められた額の4%+738万円 |
この表の「認められた額」というのは、契約書などでは「経済的利益」と表現されるのが通常です。
これが、判決で決まった金額の意味のこともあれば、相手から実際に回収できた金額の意味のこともあります。
また、離婚裁判のように金銭的請求がメインではない場合には、離婚が認められたことなどについて、固定金額の成功報酬が設定されるのが通常です。
着手金と報酬金の実際の最低相場は?
先ほどの表からすれば、請求額が300万円以下の場合の着手金の相場は、請求額の8%になります。また、報酬金の相場は、裁判で認められた額が300万円以下の場合には認められた額の16%になります。
そうすると、例えば請求金額が50万円の場合には、着手金は50万×8%=4万円となりそうですが、実際には着手金4万円で裁判を受ける弁護士はほとんどいないと思います。
なぜかというと、請求金額が少ないからと言って、弁護士の業務量が大きく減るわけではないからです。
そのため、先ほどの表とは別に、裁判のための最低着手金額や最低報酬金額を設定している弁護士がほとんどです。
裁判を依頼するための弁護士費用の最低金額の相場は、裁判の難易度によって変わりますが、仮に難易度の低い裁判であっても、着手金と報酬金を併せて最低20万円~60万円程度はかかるかと思います。
タイムチャージ方式の場合の相場
タイムチャージ方式とは、裁判で請求する額や認められた額とは関係なく、弁護士が何時間働いたかによって、弁護士費用を決める方式です。簡単に言えば時給制みたいなものです。
弁護士費用が一律であった時代に使われていた昔の基準では、1時間当たり1万円以上とされていますが、1時間1万円ということはほとんどないです。
最低でも1時間当たり2万円はかかるかと思います。実際の相場としては、1時間当たり2万円~5万円程度でしょう。弁護士によっては、1時間当たり10万円以上かかることもあります。
ちなみに、交通事故などの弁護士費用特約では、1時間当たり2万円とされています。
裁判費用②:弁護士に支払う実費の平均・相場
- 弁護士に払う実費とは
- 弁護士に払う実費の平均・相場とは
弁護士に払う実費とは
弁護士に支払う実費とは、弁護士が活動するためにかかった費用です。
例えば、裁判所までの交通費や、日帰りできない場所に赴く場合には宿泊代などです。
「①弁護士費用」との違いは、「③弁護士に支払う実費」は、あくまで実際に業務のために弁護士が支出した実費であって、弁護士の懐に入るお金ではないということです。
弁護士に払う実費の平均・相場とは
昔は遠方の裁判所で裁判を行なう場合、交通費がそれなりの額になることがありましたが、現在はインターネットを利用したWeb裁判が広く行なわれており、交通費が多額になることはあまりありません。
それでも、尋問などの手続で裁判所に行く必要があるときには、交通費や宿泊代がかかります。
なお、交通費は、新幹線利用の場合にはグリーン車の金額で、飛行機を利用する場合にはビジネスクラスの金額が請求されることが多いかと思います。
公共交通機関を利用した上で、駅から裁判所まで一定の距離がある場合にはタクシーを利用し、そのタクシー代が請求されることが多いです。
裁判費用③:裁判所に支払う実費の平均・相場
- 裁判所に払う実費とは
- 訴え提起手数料の相場
- 送達・送付料金の相場
- 鑑定予納金の相場
裁判所に払う実費とは
裁判所に支払う実費とは、文字どおり裁判をするために裁判所に払う実費です。弁護士に依頼している場合には、依頼者からいったん弁護士宛てに支払って、その弁護士から裁判所に支払ってもらうことが多いです。
様々な種類のものがありますが、裁判を起こすのであれば、必ず必要なのは訴え提起手数料の収入印紙代と送達費用のための郵便切手代です。
また、必ずかかる費用ではないものの、実施する場合には高額になるものとして鑑定費用があります。
なお、「①弁護士費用」や「②弁護士に支払う実費」と違って、この「②裁判所に支払う実費」は、弁護士なしで本人訴訟をしても支払う必要があります。
訴え提起手数料の相場
訴額等に応じて手数料が変わります。訴額というのは、厳密に言うと少し違うのですが、請求金額のことです。
例えば、第1審の場合、請求金額に応じて次のとおりの手数料がかかります。
請求金額(訴額) | 手数料(印紙代) |
100万円 | 10,000円 |
1,000万円 | 50,000円 |
3,000万円 | 110,000円 |
1億円 | 320,000円 |
弁護士費用や調査費用などに比べれば、かなり低額であることがわかると思います。そのため、鑑定等を実施しない限り、裁判所に払う実費は大した金額にはなりません。
ちなみに、この訴え提起手数料は、訴状を裁判所に提出する際に収入印紙を添付して裁判所に納めます。弁護士に裁判を依頼している場合には、弁護士が収入印紙を購入して裁判所へ代わりに払ってくれるはずです。
そのため、依頼者はまず弁護士に収入印紙の代金を実費として支払う必要があります。
送達・送付料金の相場
6,000円くらい(裁判所によっても異なります)ですが、裁判の相手が増える2,000円くらいずつ増えます。
いずれにして大きな金額にはなりません。
鑑定予納金の相場
もし裁判で鑑定を実施するのであれば、鑑定のための予納金はかなり高額になります。
鑑定内容にもよりますが、最低数十万円かかり、高額な不動産鑑定など行なう場合には数百万円かかることもあります。
裁判費用④:調査等のための実費の平均・相場
- 調査等のための実費とは
- 調査のための実費の平均・相場
調査等のための実費とは
調査等のための実費とは、裁判に提出する資料などを弁護士以外の第三者に作成してもらう費用などです。
例えば、不動産鑑定士に不動産の私的鑑定書を作成してもらったり、医師に意見書や画像鑑定書を作成してもらったりする場合の費用です。
ちょっと種類は違いますが、興信所で不貞の証拠を集めてもらう費用も、実費としての裁判費用と言っても良いかと思います。
調査のための実費の平均・相場
これは調査の種類によってピンキリですが、もし実施するのであれば、基最低でも数十万円かかると考えておいた方が良いでしょう。
例えば、不動産鑑定士に私的鑑定書を依頼するのであれば数十万円~数百万円、医学上の事項について医師の意見書を依頼するのであれば最低でも数十万円、交通事故などの事故状況について工学鑑定、ドラレコ解析などを依頼するのであれば数十万円、興信所などに不貞等の調査を依頼するのであれば最低でも数十万円といったような感じです。
民事裁判を1回起こす費用の具体例
民事裁判を1回起こす場合の裁判費用の具体例を、いくつかのケース毎に見てみましょう。
- ケース1:交通事故の損害賠償請求の場合
- ケース2:相続の遺留分請求の場合
- ケース3:離婚の離婚・財産分与・慰謝料請求の場合
ケース1:交通事故の損害賠償請求の場合
交通事故の被害者が、加害者に対して、裁判で1,000万円の損害賠償請求をして、その結果700万円の判決を取得して、実際に700万円回収できた場合の裁判費用の相場を見てみましょう。
また、裁判所に提出する証拠として、専門医の意見書を準備したとします。
この場合、裁判費用の相場は、①弁護士費用が、着手金65万~80万円程度(税込)、報酬金100万円程度(税込)で合計180万円程度、②弁護士に払う実費が、交通費等1万円程度、③裁判所に払う実費が、訴え提起手数料5万円、その他切手など1万円程度で合計6万円程度、④調査等のための実費が、専門医の意見書30万円程度となります。
①~④を合計すると、本ケースの裁判費用の相場は、約220万円程度になります。
ケース2:相続の遺留分請求の場合
相続人が、遺言で全財産を得た他の相続人に対して、裁判で3000万円の遺留分の請求をして、その結果2000万円の判決を取得して、実際に2000万円回収できた場合の裁判費用の相場を見てみましょう。
また、相続財産の中に不動産が一つあり、裁判所で不動産鑑定を行なったとします。
この場合、裁判費用の相場は、①弁護士費用が、着手金175万~220万円程度(税込)、報酬金350万円程度(税込)で合計500万円程度、②弁護士に払う実費が、交通費等1万円程度、③裁判所に払う実費が、訴え提起手数料11万円、不動産鑑定のための予納金50万円程度(鑑定対象の不動産の個数や価格によって大きく変わります)、その他切手など1万円程度で合計60万円程度、④調査等のための実費は、私的鑑定などはせずに無料とします。
①~④を合計すると、本ケースの裁判費用の相場は、約560万円程度になります。
ケース3:離婚の離婚・財産分与・慰謝料請求の場合
妻が夫に対して、裁判で離婚と財産分与と浮気の慰謝料を求めて、その結果、判決で離婚が認められ、500万円相当の財産分与と、200万円の慰謝料も取得できたとします。
また、裁判所に提出する証拠として、興信所に依頼した浮気の報告書を準備したとします。
この場合、裁判費用の相場は、①弁護士費用が、着手金は50万~100万円程度(税込)、報酬金100万~200万円程度(税込)で合計230万円程度、②弁護士に払う実費が、交通費等1万円程度、③裁判所に払う実費が、訴え提起手数料3万円程度、その他切手など1万円程度で合計4万円程度、④調査等のための実費が、これを裁判費用に入れるかは疑問もありますが、一応今回は入れるとして、興信所に支払った調査費用30万~100万円程度(調査時間等によって大きく変わります)となります。
①~④を合計すると、裁判費用の相場は、約330万円程度になります。
なお、裁判前の調停にかかる費用は考慮していません。