- 支払いを命令する判決が無視されることも
- 民事裁判の判決後に逃げ得をさせないために
- 事前に相手の財産を把握しておかないと、勝訴判決も無駄になってしまう
- 訴えた相手にお金が全くなければ回収できない
支払いを命令する判決が無視されることも
- 判決が出ても自動的にお金がもらえるわけではない
- 相手が判決を無視した段階では裁判所は何もしない
判決が出ても自動的にお金がもらえるわけではない
民事裁判で損害賠償請求などを求めて訴え、最終的に「被告は、原告に対し○万円を支払え。」というような、お金の支払いを命令する判決が出たとします。
この後、どうやってお金が払われるのでしょうか?実は、このようなお金の支払いを命じる判決が出ても、相手から自動的にお金がもらえる訳ではありません。
裁判で勝訴した後、お金を得る一番簡単な方法は、相手に任意で支払ってもらうことです。裁判の相手方が会社だった場合などは、任意でお金を支払ってもらえることが多いと思います。
ところが、判決まで進んだような裁判は、相手方が支払いに納得していないことや、相手方にお金がないことも多く、任意に支払ってもらえないという事態もよく起こるのです。
相手が判決を無視した段階では裁判所は何もしない
このように相手が裁判の判決を無視したり、完全に無視までしないにしても、お金がないので払えないと言っている場合はどうなるのでしょうか。
実は支払い命令の判決が出ただけでは、裁判所は相手に支払うよう説得すらしてくれないのです。また、裁判所が自ら、相手が支払ったかどうかを確認したり、相手の財産を差し押さえたりすることもありません。
民事裁判の判決後に逃げ得をさせないために
- 民事裁判から逃げ得させないためにすべきこと
- 3種類の強制執行の内容
- 強制執行には費用がかかる
- 強制執行には時間がかかる
- 相手の財産を特定する必要がある
- 満足のいくお金がもらえないことも
民事裁判から逃げ得させないためにすべきこと
支払い命令判決を得たのに、相手が判決を無視してお金を支払わない場合、何もしなければ相手の逃げ得になってしまう可能性があります。
特に、民事裁判で負けた後、相手にお金があるのに支払わないことが許されるのであれば、まさに逃げ得といえるでしょう。
そこで、民事裁判の判決後に、判決を無視している相手に支払って欲しいときは、自分から、裁判所に対して、相手方の財産を差し押さえるための強制執行の申立てをする必要が出てきます。
3種類の強制執行の内容
「被告は、原告に対し●万円を支払え。」といったお金の支払い命令の判決を手に入れた場合、大きく分けて、以下の3つの種類の強制執行が考えられます。なお、実際に行われているのは不動産執行や債権執行で、動産執行はほとんど行われていません。
① 不動産執行
相手方の所有する土地建物(不動産といいます。)を差し押さえて競売にかけ、売却代金からお金をもらうこと
② 債権執行
相手方の給料、預貯金、保険の解約返戻金などを差し押さえて、相手方の勤務先の会社、銀行、保険会社などから直接お金をもらうこと
③ 動産執行
相手方の所有する車、家電など(動産といいます。)を差し押さえて競売にかけ、売却代金からお金をもらうこと
強制執行には費用がかかる
強制執行をする際には、注意しなければならない点がいくつかあります。
まず裁判とは別に執行のための費用がかかるという点です。どれぐらいかかるのかというと、強制執行の種類によって違います。
最も費用が高いのは不動産執行です。不動産執行は競売手続を行うので、最低でも30万円程度の費用が必要ですし、不動産によっては100万円を超える可能性もあります。この費用は、競売にかけられた不動産の売却価格から優先的に差し引くことになるため、その分配当金額も小さくなります。
また、債権執行と動産執行は、不動産執行ほどではありませんが費用がかかり、その分は優先して配当から差し引かれてしまいます。
そのため、強制執行をする際には、費用などを差し引いても自分に配当があるかどうかを検討しておく必要があります。
強制執行には時間がかかる
強制執行を申し立ててから実際にお金を受け取るまでには、当然時間もかかります。
不動産執行の場合、申立て→不動産の差押え→不動産の調査や査定→売却価格の決定→売却価格の公示→入札→売却決定→入金→配当といった様々な手続が必要になるため、申立てから配当を受け取るまでに、少なくとも半年以上かかります。
債権執行の場合、例えば給料を差し押さえたとすると、毎月の給料から少しずつ配当が行われるということになります。そうすると、100万円の支払いのために給料を差し押さえたとしても、全額支払ってもらうまでに、半年~1年以上かかってしまう可能性があります。また、相手方が退職してしまった場合、その時点で給料の配当は終了してしまうため、また新たに別の財産の強制執行を申立てる必要が出てきてしまいます。
相手の財産を特定する必要がある
強制執行で一番大変なのは、どんな財産を差し押さえるかというのを特定しなければいけないという点です。
不動産執行の場合には、相手の住所地の不動産登記簿を調べれば、相手が持ち家に住んでいるのかが確認でき、その登記簿等を提出することで差押えの申立てをすることができます。一方で、実際に住んでいる持ち家以外の不動産を調べることはかなり難しく、何らかの手掛かりがないと発見できません。
債権執行の場合には、何を差し押さえるかで特定に必要な程度が変わります。例えば、給料を差し押さえるためには、相手方の勤務先の名前や住所を調べ、それに関する登記簿を提出する必要があります。
一方で銀行の預金を差し押さえるためには、支店を特定して、「○○銀行の○○支店の口座を差し押さえる」という申立てをする必要があります。「○○銀行の全部の支店のうち、とにかく○○名義の預金口座があるところ全部!」といったような差押えをすることはできません。そのため、適当に○○銀行の○○支店の預金口座の差押えを行っても、そこに相手方の預金口座がないことが判明したり、その支店の預金口座の残高は0だったというような事態が起こります。そうなると、また別の支店を特定して差押えを申し立てる必要が生じてしまいます。
これらの財産を発見するために、財産開示手続という制度もあります。▶財産開示手続をされたら|財産がない場合、不出頭や嘘がバレた場合も解説
満足のいくお金がもらえないことも
財産を差し押さえて配当を得ることができたとしても、自分が欲しい金額に見合うお金が支払われるとは限りません。
不動産執行の場合、そもそも、市場価格からさらに数十パーセント減価した金額で競売にかけられてしまうため、市場で売買されるより低い価格での配当が行われます。また、持ち家にはすでに不動産ローンのための抵当権がついていることが多く、そのような不動産を競売にかけても、抵当権を有する者に優先して配当されるため、自分の得た判決に見合う金額の配当を得ることは難しいです。かといってローンを完済済みの不動産は、建築年数が古く価値も高くないので、十分な配当が得られないかもしれません。
債権執行の場合、そもそも、実際に差し押さえてみるまで、差押えることができた金額が分からないというリスクがあります。それに、給料を差押える場合には、全額を差し押さえることができる訳ではなく、相手の生活に必要な最低限のお金を除外した金額しか差し押さえることができません。
そのため、相手方の給料にもよりますが、毎月数千円から十数万円程度の配当しか得ることができないのがほとんどです。また、すでに説明したとおり、相手が仕事を辞めてしまえば、それ以降の配当は得られなくなります。預金の場合も、すでに説明したような事態があり得ます。そうすると、結局、財産を差し押さえてそこから十分な配当を得ることができない可能性もあり、そのような場合には、追加で新しく差押えの申し立てをする必要が出てきます。
事前に相手の財産を把握しておかないと、勝訴判決も無駄になってしまう
このように相手方が任意に支払わない場合には、判決を手に入れた後、さらに強制執行の手続をすることで、相手方からお金を回収することが可能です。
しかし、強制執行は時間も費用もかかる上に様々なリスクがあるので、事前に相手の財産を把握しておかなければ、勝訴判決を手に入れても、結局無駄になってしまいます。
では、相手方の財産状況を確認したり、裁判の前に相手の財産を確保しておく方法はないのでしょうか?この点については、また今後ご説明します。
訴えた相手にお金が全くなければ回収できない
強制執行は、あくまで訴えた相手にお金などの財産がある場合にそれを差し押さえるものです。ですので、訴えた相手に全く財産がない場合は、強制執行までしても一切お金を回収することができません。
また、財産が少しだけある場合であっても、訴えた相手が破産手続をとった場合には、裁判で勝っても回収が困難になります。
このように、裁判で訴える場合には、裁判自体で勝てるかどうかとは別に、勝った場合に相手からどの程度回収できる可能性があるのかというのを事前に検討しておく必要があります。