養育費

無職なので養育費を払えないと言われたら?

無職なので養育費を払えない

養育費の額を決める時点(離婚時など)に無職の場合

養育費の額を決めるタイミングは、離婚するときが多いです。

では離婚する時点で、養育費を払う側(夫のことが多い)が無職だった場合、養育費を払ってもらうことはできるのでしょうか?

養育費の金額は算定表によって算出することが多いですが、無職だと算定表に当てはめる「収入」が0円となり、養育費も0円になってしまわないかという問題です。

一口に無職といっても、これから見ていくように様々なケースがあり、無職の相手に養育費の支払い義務があるかどうかもケースバイケースとなります。

働けるのに働かない場合

まずは、養育費を払う側が、働こうと思えば働けるのに労働意欲が全くなくて無職である場合です。

とにかく働くのがイヤだ、面倒だという理由で働かない場合や、何らかの嘘の理由をつくって働かないこともあります。

このように実際には就労可能なのに、自ら望んで無職でいるケースでは、親の働きたくないという気持ちよりも子どもの生活費を優先すべきことは明らかです。

そのため、いわゆる「潜在的稼働能力」に応じて、養育費算定のための収入額を決めることになります。

「潜在的稼働能力」とうのは、「本来であれば●●円稼ぐことができるはずだ」というものですが、無職になる前の収入を参考にしたり、同年代の平均年収を参考にすることが多いでしょう。

うつ病など病気で働けない場合

身体的・精神的な病気で実際に働くことができない場合には、働けるのに無職の場合とは違って、先ほど説明した「潜在的稼働能力」はありません。

そのため、養育費を払う側が病気で働けずに無職の場合には、収入はゼロと考えるしかなく、その結果、養育費支払い義務がなくなることもあるでしょう。

もっとも、病気で働いていなくとも、傷病手当金(健康保険)や傷病手当(雇用保険)、障害年金などを受給している場合もあります。この場合、手当や年金の受給金額分の「収入」があるとものとして、養育費の請求をすることができます。

ただし、養育費を払う人の病気の治療費がかかる場合などは、元気に働いて同じ収入を得ているケースと比べれば、養育費の額が減額されることがあります。また傷病手当金については、最長で1年半までしか支給されないので、それ以降の養育費は別途算定する必要があります。

定年退職して年金で生活している場合

既に定年退職して年金で生活している場合はどうでしょうか?

この場合は、無職ですが、年金受給額を収入として養育費を算定することになります。

ただし、年金を収入とする場合には、2つ注意点があります。

まず給料を収入とする場合には、実は養育費算定にあたって稼ぐために必要な費用というのが考慮されているのですが(職業費といいます)、年金は何もしなくてももらえます。

そのため、年金額をそのまま収入額として算定表にあてはめる訳ではありません。具体的な計算方法は複雑なので、ここでは触れませんが、簡単に言えば、養育費を払う側が給料で同じ年収の場合よりも、年金の場合の方が養育費は少し高くなります。

もう一つの注意点として、年金だけでは生活費に足りないことが多く、退職時までに貯めた貯金や退職金を生活費に充てていることがあります。このような場合には、離婚後の養育費算定のための「収入」も年金額だけでなく、切り崩していた貯金や退職金を加算することもあります。

生活保護を受けている場合

養育費を払う側が無職で生活保護を受けている場合は、通常働くことができない状態にあると考えられます。

そのため、「潜在的稼働能力」はないことがほとんどでしょうし、生活保護は養育費を払うためのものではないので、生活保護受給金額を「収入」とみることは難しいでしょう。

結論としては、養育費を請求することは困難であると考えられます。

最近退職して失業中の場合

最近退職して失業中の場合には、再就職の可能性に応じて、収入を認定するのが通常です。

再就職の可能性というのは、①どれくらいの期間で②どれくらいの収入の職に再就職できるのかという2つの点が考慮されます。

そして、近いうちに同程度の収入の職に就くことができる場合、近いうちに再就職は可能だが収入は不明か下がる可能性が高い場合、近いうちに就職できる見通しはないが不可能ではない場合、再就職はほとんど不可能な場合など状況に応じて収入を認定することになります。

当然ながら近いうちに就職可能+同程度の収入可能の場合には、前職の収入をほとんどそのまま参考にできるのに対し、再就職が不可能な場合にはアルバイト程度の収入まで減額せざるを得ないことが多いでしょう。

最近退職して起業準備中の場合

起業準備中で収入がない場合も、潜在的稼働能力の問題となります。

働けるのに働かない場合と同様に、無職になる前の収入を参考にしたり、同年代の平均年収を参考にすることが多いでしょう。

ただし、無収入や収入が大きく減少することが長期間継続することが明らかな場合などは、前職の収入から一定程度減額した額を収入額とすることもあり得るでしょう。

資産運用等で生活していた場合(FIRE、サイドFIREなど)

結婚中に、最近流行のFIRE(ファイア)をして、無職となり、資産運用で生活していた場合はどうでしょうか?

また、FIREとは異なりますが、デイトレーダーなどの投資で成功して、本業が個人投資家である場合はどうでしょうか?

これらの場合も、無職と言えば無職といえるため、養育費をどのように算定するかが問題となります。

これらの場合、年間の運用益を収入と考える方法も理論的にはありますが、必ずしも運用益について利確をするものではない上、収入の操作が容易になってしまうため、良い方法ではありません。

また、売却益や配当利益などの課税所得を収入とする方法も理論的にはありますが、これも操作が容易な上、特定口座で株等を売買している場合には課税証明書に株等の所得は記載されないため、良い方法ではありません。

そうすると、実際の生活状況や、平均賃金、個人投資家になる前の収入、運用金額などを総合考慮して決めるほかないでしょう。

なお、いわゆるサイドFIREで、資産運用+最低限の仕事(アルバイトなど)で生活をするというケースもあります。この場合も、単にアルバイトなどの仕事の収入のみを収入とするのではなく、資産運用による利益も生活費に充てられていたのであれば、その分も収入額に算入することが考えられます。

養育費を決めた後に無職になった場合

これまでは、養育費を決める時点で払う側が無職の場合を見てきました。

では、養育費を決めたときは仕事をしていたが、その後途中で無職になってしまった場合はどうなるのでしょうか?

基本的には次の3パターンが考えられます。

1 養育費をそのまま払い続ける

養育費を決めた後に無職になっても、貯金などの資産がある場合には、資産を切り崩して養育費の支払いを継続することができます。

また、養育費を決めた後、子どもが独立する前に、定年退職して無職となり年金生活している場合も同様です。

いずれにしても、資産や年金から無職になる前に決めた養育費の支払を続けられるのでえあれば、何の問題もありません。

2 養育費を払えなくなり滞納する

次は、養育費を決めた後に、無職になって養育費を全く払えなくなってしまうケースです。

この場合、養育費をもらう側は、払う側に対して給料や預貯金の差し押さえなどの強制執行をすることになります。

ところが、無職でいる間は給料がないので、当然ながら給料の差し押さえはできません。

また、無職なったあと生活費で貯金が底をついている場合には、預貯金の差し押さえもできません。

このように、養育費を決めた後、理由は何であれ、養育費を支払う側が無職になり貯金も使い果たしてしまうと、再度就職するまで差し押さえは困難になってしまいます。

他方で、貯金などの資産はあるけど、無職なんだから養育費を払わないと言い張っている相手に対しては、貯金等を差し押えて養育費を払わせることは可能です。

3 養育費減額を求める

離婚後に何らかの理由により無職になった際に、勝手に養育費の支払いを止めたり、減額したりするのではなく、ちゃんと法的な手続である養育費減額調停・審判をしてくることがあります。

この場合に、養育費の減額や打ち切りが認められるかどうかは、結局のところ離婚時に無職の相手に養育費支払い義務があるかを検討したときと同じ問題です。

無職となった理由によっては、「潜在的稼働能力」が認められて、無職になる前の収入を、養育費算定の収入としてカウントされて養育費減額が認められないケースも珍しくありません。

ABOUT ME
弁護士 豊田 友矢
千葉県船橋市の船橋シーアクト法律事務所の代表弁護士 離婚・不貞慰謝料・遺産相続・交通事故・中小企業法務等の相談を多数取り扱っている。