- 養育費は何歳まで払う?→原則20歳まで
- なぜ「20歳まで」なの?成人との関係とは?
- 大学等に行くなら22歳or大学卒業まで?
- 高卒で就職したら養育費は18歳まで?
- 重要!大学費用(学費)は養育費とは別!
- 再婚など年齢以外で養育費の支払いが終わることも!
養育費は何歳まで払う?→原則20歳まで
離婚後に子どもの養育費は何歳まで払うのでしょうか?受け取る側から言えば、何歳までもらえるのでしょうか?
いきなり結論からいうと、原則として、子供が「20歳になるまで」です。
さらに、20歳のいつまでかというと、「20歳の誕生日の月」までです。
このため、公正証書や調停調書では、養育費の支払時期は、
「子が満20歳に達する日の属する月まで」
と書くことが多いです。
なお細かい話ですが、このような表現だと、子どもが20歳になる最後の月も、日割り計算ではなく、まるまる1ヶ月分支払うことになります。これが普通です。
ただ、両親が最後の月の養育費を誕生日までの日割り計算にすることに合意すれば、それでも問題はありません。あまりこのような合意をすることはありませんが、この場合、
「子が満20歳に達する日まで」
や
「子が満20歳に達するまで」
という表現になるかと思います。
また、例外的に、20歳以降も養育費を支払うこともありますが、これはまたあとで説明します。
なぜ「20歳まで」なの?成人との関係とは?
養育費が20歳までと決めた法律はない!
養育費は20歳まで払うのがフツーなのですが、法律でそう決まっているのでしょうか?
実は、「養育費は20歳まで」と定めた法律はありません。そう、ないんです。
では、なぜ養育費は20歳までがフツーなのでしょうか?
法律で決まっているのは、まず、父母は離婚するときには子どもの監護費用の分担について決めないといけないということ(民法766条1項)とです。
そして、親子間には扶養義務があるということ(民法877条1項)ことも決まっています。もちろん、この扶養義務は、離婚後に子どもと一緒に住んでいない親(別居親)にもあります。
そのため、子供が「要扶養状態」にある間は、子どもと別居している親は、この扶養義務を果たすために養育費を支払う必要があることになります。
法律で定められているのはここまでで、具体的に何歳まで養育費を支払うかについては書かれていません。
「未成年」→「未成熟子」→「要扶養状態」だった
昔から、家庭裁判所の実務や裁判例では、子供が「未成熟子」の間は、養育費が必要な「要扶養状態」にあるとされてきました。
この「未成熟子」というのは、実際に自分の力だけでは生活できていないし、しかも、社会から見ても自分の力で生活することを期待されていない状態にある子供のことをいいます。
そして、もともと成年年齢が20歳であった時代(令和4年3月までは成年年齢は20歳でした)の家庭裁判所の実務では、子供が「未成年」の間は、原則としてこの「未成熟子」にあたるとされていました。
通常、「未成年」(当時は20歳未満)は、経済的に自立していないし、することも期待されていないというわけです。これは、みなさん同意されるかと思います。
つまり、「未成年」→「未成熟子」→「要扶養状態」=「養育費が必要」となり、養育費は成人になる20歳まで支払う必要があるとされてきたたのです。
民法改正で「成人(成年者)」が18歳になったけど・・・
その後、令和4年4月1日に改正民法が施行され、成年年齢が18歳に引き下げられました(【参照】法務省:「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」)。
そうすると、養育費の支払義務も、子どもが成人になる18歳までになるのでしょうか?
結論からいうと、成年年齢の変更は養育費の支払期間に影響を与えないとされました。
法務省のウェブサイトでもそのように書かれています(【参照】法務省「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」)。
つまり、子供は18歳で「成年者(成人)」になるものの、これまで通り20歳になるまでは、原則として「未成熟子」として扱われるこということです。
今でも、「20歳未満」→「未成熟子」→「要扶養状態」=養育費が必要といういうことです。
そのため、養育費は、従来通り原則として20歳まで支払う必要があるのです。
民法改正前に「成年になるまで払う」と約束済みの場合は?
もし、成年年齢が20歳だった時代に、離婚協議書や離婚調停で、養育費の支払期限を「成年に達した時」のように定めていたらどうなるのでしょうか?
合意したときには「成年」=20歳のつもりで合意したのに、民法改正により成年が18歳になったことにより、養育費もの支払い18歳までになってしまうのでしょうか?
結論から言うと、成年年齢が20歳だった時代に合意済みの「成年」というのは、「18歳」ではなく、「20歳」のことを意味するとされています(司法研修所編:「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」56頁以下)。
そのため、民法改正により成年が18歳になった後も、これまでどおり20歳まで養育費を支払う必要があります。
大学等に行くなら22歳or大学卒業まで?
養育費は原則として20歳までといっても、20歳で経済的に自立できている人は、そこまでいないのではないでしょうか?
実際に、令和4年時点の大学・短大や専門学校への進学率は83.8%(大学に限ると56.6%)とされています(【参照】文部科学省:「令和4年度学校基本調査の公表について」)。
つまり、多くの子どもが高校を卒業しても、就職せずに学生の状態にとどまることになります。
そして、子どもが大学や3年制または4年制の専門学校に進学する場合には、20歳になっても経済的に自立することはできないことがほとんどだと思います。
それなのに養育費を20歳までとしてしまうと、20歳になってから就職するまでの期間は、子供を監護する側(通常は親権者)が子供の生活費などを全部負担しないといけなくなります。
そのため、子供が大学等に進学する場合には、養育費を大学を卒業する22歳までまで延長できないのでしょうか?これについては、以下のように考えられています。
父親と母親で合意して22歳までにするケース
父親と母親が子供の教育や将来について話し合い、子どもが大学を卒業する22歳まで支払うということを合意した場合には、その合意通り22歳まで養育費を支払うことになります。
大学卒業予定の22歳まで支払う条項の書き方
両親が合意し、養育費の支払を大学等卒業予定まで、つまり22歳の3月までにする場合の、典型的な条項の書き方は通りです。
「子が満22歳に達したあと最初に到来する3月まで」
ただし、子どもが3月生まれの場合には、
「子が満22歳に達する日の属する月まで」
とします。3月生まれの場合はこうしないと、23歳の3月までとなってしまうからです。
父親が大学進学を承諾していた場合など
養育費を支払う側(父親のことが多い)が「20歳までなら払う」と主張し、養育費をもらう側(母親のことが多い)が「22歳の3月または大学卒業まで」と主張して、話がまとまらない場合もあります。
この場合は、家庭裁判所の審判や離婚裁判によって、養育費を何歳まで払うかを決めてもらうことになるでしょう。
裁判所に決めてもらう場合、基本的には原則通り20歳までとなりますが、養育費を支払う側が子供の大学進学を承諾していた場合には、大学等を卒業する歳である22歳になった年の3月までとされることがあります。
そして、父親と母親が別居した時点で、子供が既に大学生である場合には、両親とも子供が大学に行くことを承諾していたと言えることがほとんどでしょう。
また、別居時点で、子供が大学受験期であり、両親が大学受験のための塾代や参考書代を出していたのであれば、大学に行くことを承諾していたと言えることが多いでしょう。
他にも、両親が高学歴、高収入または資産が多い場合で、子供が大学進学を希望している場合にも、22歳の3月までとされることもあります。
ただし、離婚時点において、まだ大学受験まで期間がある場合には、いったん原則通り20歳までとされることも多いです。
浪人・留年した場合や医学部の場合は?
大学進学を目指したが、高卒で浪人している場合も、子どもは未成熟子といえるので、養育費の支払は継続します。進学していなくとも就職していないので養育費が18歳で終わりになるわけではありません。
この場合、養育費の支払は原則通り20歳までとするか、支払う側が大学進学を承諾している場合には、浪人後に入学して卒業できた年の23歳の3月まで(1浪前提)とすることが多いですが、現役入学であれば卒業できた年である22歳の3月までにすることもあります。
留年した場合にも、同様に考えられるでしょう。
2浪以上や、2留以上の場合であっても、養育費を払う側が進学を承諾しているのであれば、原則として卒業時まで養育費を支払うことになるでしょう。ただし、浪人や留年してまで大学入学・卒業することは承諾していなかったと言われることもあり難しい問題です。ただ少なくとも現役で留年せずに卒業できた年までは払ってもらうことになるでしょう。
医学部など6年制の大学に進学することを承諾している場合には、大学卒業時の年齢まで養育費を支払うことが多いでしょう。
大学院に行くなら何歳まで?24歳以降も払うのか?
子どもが大学院に進学する場合、就職年齢は24歳以降になります。就職できるのは25歳や26歳以降になることも多いでしょう。博士課程に進むのであれば30歳近くになる可能性もあります。
この場合、養育費は何歳まで払い続けることになるのでしょうか?
もちろん、養育費を支払う側が子どものために同意してくれるのであれば、大学院を修了して就職するまで養育費を払い続けることも考えられます。
もっとも、両親が合意できずに、裁判所の審判や裁判で決める場合には、大学とは違って大学院修了(24歳以降)まで養育費の支払いを認めることはまずありません。
さすがに大学卒業以降は、大学院に行くとしても、もう十分大人なのだから自立すべきということでしょう。また、そもそも、これくらいの年齢になると、仮に扶養義務を前提に生活費を請求するとしても、自分自身で請求すべきで「養育費」の問題ではないといえます。
高卒で就職したら養育費は18歳まで?
高卒で正社員として就職した場合には、通常その時点で、自立して生活できる状態になったといえるので、「未成熟子」ではなくなります。
そのため、養育費の支払は、高校を卒業する「18歳になったあとの3月まで」になります。
ただし、就職はしたが、正社員ではなくアルバイトなどで、いわゆるフリーターの場合などは、その収入にもよりますが、完全に自立したとはいえず、養育費の支払は原則通り20歳までになることもあります。
「18歳の誕生日の月まで」とするのはおかしい!
なお、養育費を払う側が、「18歳の誕生日の月まで」支払うと主張することもありますが、最初に説明したとおり、成年年齢と扶養義務の年齢は関係ないので、このような終期はおかしいと思います。
高卒で就職したから養育費を例外的に18歳までにするのであれば、やはり「卒業時の3月まで」にするのが理にかなっているといえます。
とりあえず18歳までと合意する場合の注意点!
子どもがまだ小さく、大学等に進学するかどうかわからない。高卒で就職するかもしれないと。というときに、養育費を支払う側から、公正証書などに記載する養育費の終期を、20歳まではなくて、18歳までにしておいて、もし大学等に進学したときに限って22歳まで延長するという文言にしたいと主張されることがあります。
もちろん、両親が納得した上で、このような文言にするのであれば良いですが、このような条項だと、18歳以降に養育費の未払いがあった場合、強制執行に支障をきたす可能性があります。
18歳・20歳・22歳までの養育費の比較
これまで見てきたように、養育費の支払は、原則20歳までですが、場合によっては大学卒業時の22歳までや、高校卒業時の18歳までになります。
養育費の支払期間が変わることによって、養育費の支払額はどれくらい変わるのでしょうか?
父親の給料収入が年600万円、母親が年100万円、子供が高校1年生の15歳であるときに離婚したケースで、養育費の金額がどれくらい変わるか見てみましょう。
18歳まで養育費を支払う場合
先ほどの例では、養育費算定表によると、養育費は月6~8万円の上の方になります。ここでは月8万円と仮定します。
そうすると、養育費を18歳まで3年間払うことになるので養育費総額は、
月8万円×36ヶ月(3年間)=288万円
になります。
20歳まで養育費を支払う場合
20歳まで養育費を払う場合は、
月8万円×60ヶ月(5年間)=480万円
になります
22歳まで養育費を支払う場合
22歳まで養育費を払う場合は、
月8万円×84ヶ月(7年間)=672万円
になります。
重要!大学費用(学費)は養育費とは別!
子どもが大学や専門学校に進学する場合には、養育費の支払期間が延びるだけでなく、大学費用・専門学校費用(学費)の負担の問題も出てきます。
実は養育費には、公立高校の学費相当分しか考慮されていないのです。
通常、公立高校の学費よりも、大学や専門学校の学費の方が高額になります。そのため、養育費で考慮されていない大学や専門学校の学費も、養育費とは別に負担する必要が出てきます。
再婚など年齢以外で養育費の支払いが終わることも!
ここまでは、養育費は「何歳まで?」というように、あくまで子どもの年齢に注目して、養育費の支払いがいつ終わるのかを解説しました。
ところが、実際には子どもの年齢以外の理由で、養育費の支払い義務がなくなったり(養育費がもらえなくなる)こともあります。
よくあるのは、父親または母親が再婚した場合です。
これについては、
再婚したら養育費は打ち切りや減額になる?様々なパターン別に解説 支払わない方法は?
を参考にして下さい。
まとめ
これまで見てきたように、養育費の支払い義務は原則20歳までです。
成年年齢が18歳になりましたが、この原則は変わりませんでした。
子どもが大学等に進学した場合は、養育費を22歳までにするのかは問題になります。両親で話し合いをして合意できればそれが一番良いですが、話がまとまらない場合には、裁判所に決めてもらうしかありません。
裁判所に決めてもらう場合、大学に進学すれば必ず22歳までになるわけではないことは注意しましょう。