財産分与

扶養的財産分与が認められる場合とは?金額の相場や期間は?

扶養的財産分与ってなに?

扶養的財産分与とは何?普通の財産分与と違うの?

一般的に財産分与には、次の3種類があるとされています。

  • 清算的財産分与
  • 扶養的財産分与
  • 慰謝料的財産分与

このうち、扶養的財産分与というのは、離婚後の配偶者の生計を維持する目的の財産分与のことをいいます。

これに対して、普通の財産分与、つまりよくイメージされる夫婦の財産を離婚時に2分の1にするというような財産分与は、清算的財産分与のことです。

なお、慰謝料的財産分与は、別途慰謝料として請求することが通常なので、これが問題になることは基本的にありません。

扶養的財産分与は認められないのが原則!

離婚後には、離婚した妻や夫とは、家族ではなくて「他人」になります。

離婚後にも頻繁に会ったり、仲がいい夫婦もいることはいますが、それでも法律上は「他人」になります。ちなみに子どもは離婚しても親子関係は継続し「他人」にはなりません。

そして、民法という法律は、配偶者や子どもなどの家族を扶養する義務は定めていますが、「他人」を扶養する義務は当然定めていません。

なので、離婚後に元妻や元夫が、どんなに生活に困っていても、もう一方の配偶者は、生活費を払ったりする法律上の義務がないのです。

そうすると、扶養的財産分与は認められないのが原則と言うことがわかるかと思います。

実際に、裁判や審判で扶養的財産分与が認められるケースは多くはありません。

例外的に扶養的財産分与が認められるケースとは?

まず、扶養的財産分与が認められるためには、「扶養的」という名の通り、離婚した夫婦の一方が、要扶養状態にあることが必要です。

つまり、離婚したら金銭面で生活が困難な状態になるという意味です。

すごくわかりやすく言うと、離婚したら「お金がない」し、しかも「働けないor十分な収入がない」場合には、離婚後の生活が成り立たないので、要扶養状態といえます。

逆に「お金がある」場合には、離婚後働けなくてもとりあえず生活は成り立ちますし、「働けて十分な収入もある」場合には、離婚時にはそれほどお金がなくても、離婚後の生活は成り立ちます。なので、「お金がある」か「働けて十分な収入がある」場合には、要扶養状態とはいえません。

「お金がない」とは?

例えば、離婚時に配偶者から慰謝料や、通常の財産分与(清算的財産分与)として相当な金額をもらう場合には、離婚後に「お金がない」とはいえないです。

離婚時に配偶者からもらうものがない場合であっても、結婚前に貯めた貯金や、親からの生前贈与・相続などで、離婚時に貯金等の資産が相当程度ある場合には、「お金がない」とはいえないです。

では、どの程度の資産があれば、「お金がある」のかというとこれはケースバイケースです。

例えば、重病で全く働けなく、今後も回復の見込みがない場合や、高齢者の場合などは、数百万円あっても「お金がない」といえることもあります。

逆に、小さい子のいない20代~40代の専業主婦で、離婚後に実家に戻れるが、仕事を見つけるまでは収入がないというくらいでしたら、100万円程度あれば「お金がある」とされることも多いでしょう。

「働けないor十分な収入がない」とは?

「働けないor十分な収入がない」とは、どの程度のことをいうのでしょうか?

例えば、重度の障害者や病気を煩っているために長期的に働くことができない場合が「働けない」という典型例です。

他にも、熟年離婚で、離婚時に高齢であるために、就職が困難な場合なども「働けない」といえるでしょう。

婚姻中にずっと専業主婦をしていたため、離婚後直ぐに仕事が見つかりそうにない場合は、一応「働けないor十分な収入がない」といえる可能性があります。

さらに、結婚中に共働きで、パートなどをしていたが、自分の収入だけでは十分な収入が得られない場合は、「十分な収入がない」といえる可能性があります。

ただし、障害、病気、高齢などにより働ける見込みが全くない場合と比較すると、専業主婦や、パート収入のみしかない場合というのは、他に特別の事情がない限り、扶養的財産分与を認めるほどではないとされることが多いでしょう。

扶養的財産分与が認めてもらうために主張すべきこと

先ほどみた「お金がない」「働けない」というのは、扶養状態にあることを示すための最低限の要件です。

これらを主張するだけでは、扶養的財産分与を認めてもらえるとは限りません。

扶養的財産分与を認めてもらう可能性を上げるためには、以下のような事実を主張するのが良いでしょう。

離婚相手がお金持ち・高収入であること

離婚したら元配偶者とは他人になるので、単に一方の配偶者が要扶養状態にあるというだけでは、扶養的財産分与は認められないことがほとんどです。

あくまで、もう一方の配偶者に、離婚後も元配偶者を扶養する余裕がある場合でないと、認められません。

簡単に言えば、「離婚してもう他人なんだから何も面倒見ないよ」というのが不公平といえるほど、相手が資産や・収入がある必要があります。

そのため、扶養的財産分与を認めてもらうためには、「離婚したら私は貯金や収入も少なくて生活に困るのに、相手はあんなに資産もあるし、高収入だ」と主張するのが良いでしょう。

離婚相手に有責性や主な離婚原因があること

これも、公平性の問題ですが、「あなたの浮気やDVのせいで離婚することになったのに、離婚後一切生活の面倒を見てもらえないのはおかしい」不公平だという考え方です。

扶養的財産分与は、公平性の観点から認められるかどうか決まることもあるので、離婚原因が相手にある場合には、そのことをしっかりと主張しましょう。

ただし、逆に自分の浮気やDVで離婚に至った場合には、公平の観点から自業自得として、扶養的財産分与が認められることは基本的にないでしょう。

扶養的財産分与の金額はいくら?相場ってあるの?

扶養的財産分与認められる場合に、その金額をいくらにするかは、特に決まりはありません。

そもそも、扶養的財産分与の目的は、その名の通り「扶養」して経済面で生活を送れるようにすることなので、生活保護基準の金額を参考にするという考え方もあります。

また、扶養的財産分与の金額を決めるにあたっては、それを払う側にどれくらい収入があるかが考慮されるので、離婚前の婚姻費用を参考にするケースもあります。

一般的には婚姻費用を参考にするが、婚姻費用よりは低い金額になることが多いでしょう。

少なくとも、法律上扶養義務がある婚姻中よりも、扶養義務のない離婚後の方が金額が高くなることは、理論的にも考えにくいです。

扶養的財産分与がもらえる期間はいつまで?一括なの?

扶養的財産分与がもらえる期間は、離婚関係の実務書には1年~3年程度と書かれていることが多いです。

ただ、扶養的財産分与は、「月額いくら」という形ではなくて、離婚時に一括して支払うように定められることも多いです。

この場合、裁判例や審判例を見ても、どの程度の期間について扶養的財産分与を考慮したかはわかりません。

扶養的財産分与の対象となる期間については、要扶養者状態にある元配偶者にどれくらい「お金があるか」、どれくらい「働けない」か、支払う側にどれくらい余裕があるかなどを総合考慮して決められます。

例えば、離婚時に専業主婦・パートで十分な収入がないが働くことはできて、離婚時に数ヶ月分の生活費がある場合には、扶養的財産分与は認められたとしても半年~1年程度になることが多いでしょう。

他方で、重病、障害、高齢等の理由で、将来的に働くことができる可能性がなく、資産も少ない場合には、3年を超えても(最長で死亡までなど)認められることもあるでしょう。

扶養的財産分与は拒否されることが多い

扶養的財産分与は、最初に説明したように、原則としては認められないものです。

また、扶養的財産分与の考え方は、あまり浸透していないこともあり、扶養的財産分与を払うように要望しても、相手から拒否されることが多いです。

そのため、扶養的財産分与の支払を求める場合には、できる限り説得的に、要扶養状態にあることと、相手に扶養する資産・収入があることと、扶養的財産分与を認めることが公平であることを主張する必要があります。

また、裁判や審判では、扶養的財産分与が認められにくい場合でも、離婚協議や離婚調停の話し合いでは、解決金的な内容で、離婚に応じることの条件として、実質的には扶養的財産分与を払ってもらうケースは珍しくはありません。

扶養的財産分与の裁判例

卵巣切除・胃がんの手術、C型肝炎にかかった63歳の妻

このような病気にかかり、比較的高齢である妻に、財産分与で土地と建物と約1700万円を受け取ったが、それでも死亡まで、夫の年金と妻の年金の差額を夫が妻に扶養的財産分与として支払うことが命じられた事例(横浜地裁相模原支部判決平成11年7月30日判時1708・142)

子どもがいない手取り約14万の派遣社員の妻

このケースでは、通常の清算的財産分与はなく、慰謝料もごくわずか歯科認められていないが、妻は派遣社員として働いており、手取り月14万弱の収入があったことから、離婚しても生活は困窮しないとして、扶養的財産分与は認められなかった事例(東京高判平成23年9月29日)

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弁護士 豊田 友矢
千葉県船橋市の船橋シーアクト法律事務所の代表弁護士 離婚・不貞慰謝料・遺産相続・交通事故・中小企業法務等の相談を多数取り扱っている。