自賠責保険とは?他の保険との違いや特徴など
交通事故は突然起こるものであり、交通事故によって被害者は大きな損害を負ってしまうことがあります。その損害額は、個人が賠償しきれるような金額ではないケースもかなり多いです。このようなことから、交通事故により被害者が被った損害を補てんするために、いくつかの保険制度が用意されています。
この記事では、その中の自賠責保険について、他の保険との違いに触れながら説明していきます。
目次
最低限の補償を目的した自賠責保険とは?
自動車は、「自賠責保険」(正式名称を「自動車損害賠償責任保険」といいます。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならないとされています(自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」といいます。)5条)。そして、これに違反した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金処することとされています(同法86条の3第1号)。つまり、自賠責保険は、すべての自動車に加入が義務付けられている強制保険で、被害者の最低限の補償を目的としたものです。
このように、任意保険と自賠責保険の大きな違いは、加入が義務付けられているかという点と保障内容です。
自賠責保険の保障内容
人身事故の場合に補償されで物損は対象外
自賠責保険においては、被保険者である自動車の運行供用者(自己のために自動車を運行の用に供する者)に自動車損害賠償責任(自動車の運行によって他人の生命又は身体を害したときにそれによって生じた損害を賠償する責任)が発生した場合に、保険金が支払われます。対人賠償のみが補償の対象で、修理費などの対物賠償は対象外です。
自賠責保険の上限額
また、自賠責保険の保険金額は、政令において、補償の上限額が定められています。
具体的な上限額は、次のとおりです(自賠法13条、自賠法施行令2条)。
- 死亡による損害 3000万円
- 後遺障害による損害 等級により75万円から4000万円
- 傷害による損害 120万円
自賠責保険の特徴
過失相殺の割合が有利になっている
通常、交通事故の発生等について被害者にも落ち度がある場合には、その過失の割合に応じて過失相殺がされます(民法722条2項条)。自賠責保険では、被害者保護のために、重大な過失がある場合(過失割合が7割以上)以外、過失相殺されない運用となっています。
また、7割以上の過失がある場合についても、最大で5割の減額しかされないことになっています。具体的には、後遺障害及び死亡による損害については、7割以上8割未満の過失がある場合には、2割の減額、8割以上9割未満の場合には3割の減額、9割以上10割未満の場合には、5割の減額がされることとなっています。傷害による損害については、7割以上10割未満の過失がある場合に全てにおいて、2割の減額がなされます。
なお、10割の過失がある場合には、自賠責保険から保険が支払われることはありません。
仮渡金制度の存在
交通事故で怪我をした場合、当面の費用として治療費や生活費等が必要になりますが、怪我のために休業を余儀なくされるなどして、急な出費に対応することができない場合も十分にあり得ます。
ところが、相手方から損害賠償金が支払われるのは、原則として、示談が成立したときや裁判が終わったときとなり、治療中に支払われるものではありません。
そこで、被害者が、急な出費に対応できないような場合に、当面の費用に充てるために、仮渡金として政令で定める金額の支払を自賠責保険会社に請求することができる制度が用意されています(自賠法17条、自賠法施行令5条)。これを、「仮渡金制度」といいます。
仮渡金の支払金額の上限は、死亡の場合には290万円、傷害の場合には最高40万円です。
任意保険との違い
賠責保険の保険金額には、限度額がありますので、被害者の損害を賄いきれないことがほとんどです。そのため、自動車の所有者等は、多くの場合、自賠責保険に加えて、任意に、保険会社との間で保険契約を締結しています。この保険のことを、一般的に、「任意保険」と呼んでいます。すなわち、任意保険は、自賠責保険でカバーしきれない損害を補償するための保険です。
自賠責保険は、物損事故は保障の対象外ですが、任意保険では、物損事故についても、保険金が支払われます。
労災保険との違い
交通事故が仕事中の事故か通勤中の事故の場合、労災保険を使うこともできます。
ただし、自賠責保険に先行して労災保険の給付を受けた場合には、給付を受けた部分は自賠責保険から二重に支払いを受けることはできません。
また、自賠責には、支払いの限度額がありますが、労災保険は支払われる治療費に上限がないのが特徴です。
あと、労災保険では、慰謝料の支払いがありません。
交通事故の被害にあった場合には、弁護士にご相談ください
以上、自賠責について説明してきましたが、交通事故の被害にあった場合に、ケースによっては、使える保険や損害賠償の請求先が複数存在することがおわかりいただけたかと思います。このように、交通事故の損害賠償請求には、複雑な部分が多くありますので、専門家である弁護士に相談して進めるのが得策であるといえます。
交通事故の被害にあわれた際には、お早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。